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吉田寮訴訟 現棟補修をめぐるこれまでの動向 新棟入居、寮運営めぐり生じた溝

2025.09.16

吉田寮訴訟 現棟補修をめぐるこれまでの動向 新棟入居、寮運営めぐり生じた溝
今回の和解では、2019年4月の提訴以来、6年半に及んだ訴訟が終結し、大学が現棟の耐震工事を実施すること、現棟が寄宿舎として存続することが約束された一方、新棟への居住や寮の運営をめぐっては、未解決の問題が残る。ここでは現棟補修や寮運営をめぐるこれまでの動向を振り返り、和解を経た現在の状況を整理する。(=1面に関連記事

訴訟に至る経緯


京大は17年12月、「吉田寮の安全確保についての基本方針」(以下「基本方針」)を発表。大正時代に建てられた現棟が「耐震性を欠き、極めて危険」だとして、代替宿舎を用意し、寮生らに退去を要請した。「基本方針」では現棟と新棟それぞれに誰が住んでいるか、寮自治会の提出する名簿からは把握できないとして、15年に建設された新棟を含め、寮に暮らす全ての学生に退去を求めた。

老朽化対策をめぐっては、「基本方針」の発出以前から大学当局と寮自治会の間で話し合いが行われており、12年9月には寮自治会が大学と確約を結び、現棟を補修する方針で合意していた。しかし、15年3月を最後に大学が寮自治会との交渉に応じなくなり、補修に向けた話し合いは停滞していた。そのため、寮自治会は「基本方針」が「話し合いによる合意形成を蔑ろにした一方的な決定」だと抗議していた。

18年夏、川添理事(当時)と寮自治会の間で少人数での交渉が持たれたが、理事は「意見を聞くだけ」と述べて合意形成を拒み、交渉を打ち切った。大学が19年2月に発表した「吉田寮の今後のあり方について」(以下「あり方」)は、文中で具体的な根拠を示すことなく、寮自治会の運営実態を「到底容認できない」と否定するものだった。

寮自治会は2月、食堂の利用と新棟への入寮募集継続が認められれば、同年5月末を期限に現棟の居住を取りやめるとする案を大学に提示したが、京大は「基本方針」や「あり方」に沿うものではないとしてこの案を受け入れず、同年4月と20年3月の2回にわたり、現棟および食堂の明け渡しを求めて、寮生計45名を提訴した。

一審判決は寮生が一部勝訴


京都地裁で行われた第一審は19年の提訴以来4年に及び、23年2月の判決時点で寮に居住する被告寮生は17名に減っていた。判決では、12年に京大が補修に合意していたことから、耐震性を欠くことを理由に明け渡しを求める京大の主張は退けられ、14名の入居継続を認めた。一方、「基本方針」での入寮禁止措置以降に入寮した寮生3名に対しては明け渡しを命じた。

控訴審で和解成立


一審判決を経て、京大は14名に対する明け渡し請求が棄却されたことを不服として大阪高裁に控訴。明け渡しが求められた寮生3名も控訴した。

控訴審では裁判長から和解の勧告があり、協議を経て和解が成立した。寮自治会は「双方の意見のすり合わせと譲歩により一定の合意が成立した」として「当事者との対話により建設的な議論を進めていく民主的プロセスに立ち返る第一歩」だと評価した。

和解では、京大が求めていた現棟の明け渡し、寮生が求めていた現棟の老朽化対策である耐震工事の実施が、いずれも期日を設けて定められた。

一方、代替宿舎の提供や再入寮については、「基本方針」以降に入寮した寮生の在寮契約成立を認めない一審判決の判断を引き継ぎ、一審で明け渡しが命じられた2名に対し「正規学生の身分を有する」ことを求めた。このため、「正規」学生でない寮生1名が代替宿舎の提供を受けられないことになった。

現棟の耐震工事についても、具体的内容は定めていない。寮自治会は訴訟以前から、現棟の建築的・歴史的価値に配慮し、建て替えではなく補修による老朽化対策を大学に提案してきた。一方、和解後に京大が公表した声明や、本紙の取材に対する回答では、来春から現棟で実施する工事を「耐震工事(建替工事を含む)」と表現し、現棟建て替えの可能性を強調している。

新棟居住や寮運営の今後は


和解は被告寮生と大学の間で、現棟と食堂についてなされたものにすぎず、効力がその外に及ばない。裁判の対象でなかった非被告寮生による新棟居住や、寮運営の今後はどうなるのだろうか。

大学は「基本方針」や裁判において、現棟と食堂の老朽化を理由に、寮生に明け渡すよう求めてきた。和解では、現棟の耐震工事を実施すること、食堂がすでに補修済みであることを確認し、吉田寮における老朽化の問題は解決した。

これとは別に、大学は「あり方」において氏名や所属を大学に示す、入寮募集を行わないといった新棟入居の条件を定め、寮生らがこれを満たさないとして退去を求めており、和解後もこの立場を明確にしている。京大は9月12日、新棟への居住や入寮募集について、本紙の取材に対し「大学としては入居を認めていない」としたうえで、新棟に居住している寮生に対して引き続き退去を求めると回答した。

また、京大は9月2日に「『吉田寮自治会』名義の入寮募集について」とする文書を公表し、「基本方針」で大学が決定した入寮募集停止を根拠に、学生に対し入寮しないよう求めた。寮自治会は5日、合意形成によらない「基本方針」は大学の「一方的な主張」で入寮募集停止は妥当ではない、としたうえで、大学に対し文書の撤回と、確約に基づく寮自治会との交渉再開を求めている。

吉田寮の運営をめぐって、当局が独自に決定した「基本方針」や「あり方」を基準に対応する京大と、確約に基づき大学との合意形成を求める寮自治会の間にすれ違いが生じている状況は、和解を経た今も大きく変化したわけではない。今後は現棟の耐震工事の内容や、工事完了後の入寮などをめぐり、寮自治会が引き続き大学に話し合いを通じた合意形成を求めていくことになるだろう。これからの大学の対応が注目される。

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