文化

編集員の視点 ヒトⅰPS細胞「倫理的な問題」でも万能か?

2007.12.01

ヒトiPS細胞をつくることに成功したというニュースは、11月21日付けの各紙1面を賑わせた。作成過程で受精卵を使わないiPS細胞は、倫理的問題を回避できる再生医科学のホープとして一躍脚光を浴びたのである。しかし、この倫理的問題を回避できるという表現は、あたかもiPS細胞が倫理面でも万能であるかのような錯覚を招きかねない。「倫理的問題」という言葉に、受精卵を使用する以外の問題まで絡め取られてしまっているのである。「倫理問題クリア」という見出しが、大きく張り出されている紙面さえ見かけるほどだ。

本紙9月16日号のインタビューで山中教授は、「ヒトの細胞を扱っている限り、倫理的問題がない研究など世の中にはない」と述べている。確かに受精卵を用いないという技術は、ES細胞研究について成されてきた数多くの議論に終止符を打つことになるだろう。しかし、受精卵を用いるという問題が解決されたというだけであって、未解決の問題が数多く残っているのだ。むしろ今回の発見により、新たに生まれた問題さえあると言っていい。

例えば、iPS細胞から精子や卵子が作れたとしても不思議ではないのだ。つまり皮膚の細胞さえあれば、その人の生殖細胞を作り出し、勝手に別の人の生殖細胞と受精させるなどということが可能になってしまう。

また、iPS細胞は、受精卵を研究に用いる際にも成されてきた、「どこからをひとつの生命とするか」という議論に対して、新たな見地を加えることになる。より一層深められた議論、知識、延いては法基準が必要となるのである。

今回の発見は、再生医科学にとって大きな進歩である。手放しで喜ぶのは容易い。しかし、このiPS細胞の発見により倫理的問題を回避することができたと喜ぶのではなく、むしろ研究倫理を問い直す新たな局面を迎えたと認識することが必要だろう。(侍)

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