企画

揺れる京大生協 経営改革の行方 赤字体質脱却と福利厚生維持のはざまで

2026.03.16

揺れる京大生協 経営改革の行方 赤字体質脱却と福利厚生維持のはざまで

姫田専務理事(左)と阿部統括店長=2月18日、京大生協本部応接室

生協食堂は巷の飲食店と比べ、食べ物を安く提供してくれる命綱。今春3回生になる下宿生の筆者はそう思っているが、やはり毎年の価格改定の影響を感じる。ライスは中盛ではなく小盛を選ぶようになり、小鉢も手を伸ばしづらくなった。給茶機の撤去や営業時間の短縮も含め、サービス改定が急速に進んでいる印象だ。

近年の京大生協は、物価や人件費の高騰、累積赤字の増大など、厳しい経営環境に身を置いている。25年度の事業赤字は1億円近く、累積赤字は3億円前後を見込む。事業経費縮小を図り経営改革が進む一方、組合員からは「サービス低下だ」と反発の声も上がっている。

本企画では、京大生協の公表資料や本紙の過去の取材を踏まえ、経営改革の現状と展望を姫田歩・専務理事と阿部大地・食堂部統括店長に聞いた。新年度を控えた今、「学び舎のインフラ」の当事者として私たちには何ができるのか、考えるきっかけとしたい。(晴)

目次

【解説】
経営・財務状況
経営改善策
今後の展望

【解説】


大学生活協同組合


学生・教職員・地域住民などが出資者として資金を出し合って設立し、組合員の福利厚生向上を目指す組織。京大生協は1949年に設立された。加入時に拠出した出資金は脱退時に返還される。非営利団体だが、組合員の生活向上のため、継続的に利益を出す必要がある。サービスは原則組合員向けだが、食堂・購買サービスなどは非組合員も利用できる場合がある。

大学生協では、学生・教職員などから代議員として「総代」を選び、意思決定機関として「総代会」を置く。生協職員の理事が提案する組合員向けのサービス改定のうち重要なものは、総代会で選ばれた学生・教職員理事による承認が得られないと実施できない。

各生協の経営は独立しているが、旅行手配などの一部事業は全国連合である「全国大学生協連合会」が担っている。また、食材・商品の仕入れなどは「大学生協事業連合」が一括して行い、安価なサービスを実現している。食堂メニュー価格の改定なども、仕入れを担う事業連合によって提案され、加盟する生協間である程度歩調を合わせて実施する。

(※生協は基本的に3〜2月を1年度としているが、本記事では便宜上、4〜3月を1年度として扱う)

京大生協のサービス


京大生協の場合、食堂や購買などの飲食事業、コープ学生総合共済、学生賠償責任保険などの共済・保険事業、教科書や一般書の販売、アルバイトの仲介、就活や新生活支援など、業務は多岐にわたる。食堂は「中央食堂」「吉田食堂」など、購買は「時計台ショップ」「吉田ショップ」などを運営する。

生協の財務指標


生協の営業損益は、事業全体の売上(供給高)から人件費・物件費などの経費を差し引いた「事業剰余金」にあたる。事業剰余金が慢性的に赤字の場合、事業は赤字体質だと判断できる。

事業剰余金に事業外収支を含めた値が「経常剰余金」だが、経常剰余金も赤字の場合、単年度決算で当期剰余金も赤字を計上するため、累積赤字が積み増される。累積赤字額が出資金総額を上回る「債務超過」に陥ると、団体としての信用度が下がり、外部との取引が難しくなるなど負の影響がある。ただ姫田理事によると、債務超過に陥っても直ちに生協が解散するわけではないという。

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経営・財務状況


コロナ禍前から累積赤字


生協の単年度事業剰余金は、コロナ禍前の19年時点で520万円の赤字だった(=図・表1)。経常剰余金は単年度で黒字になっているが、生協の事業単体ではコロナ禍前から赤字体質で、設備更新や新規事業のための投資が困難であったことが分かる。また19年度時点で、累積赤字として約1.1億円を抱えていた(=表2)。

事業損失と累積赤字が大きく膨らんだのは、コロナ禍が始まった20年だ。京大でも対面授業が中止となり、学生のキャンパスへの立ち入りも制限された。食堂や購買の利用が前年度比約4割にまで減り、単年度事業損失は3億円近くに膨らんだ。雇用調整助成金など支援金制度を活用したが、なおも累積赤字が3億円を上回り、債務超過に陥る危険もあった。

21・22年度は、政府からの補助金や、大学生協共済連で実施していた共済事業を解散し、コープ共済連に譲渡したことに伴う分配金を収入として計上した。当期剰余を黒字に転換させ、累積赤字も約1億2千万円まで圧縮した。だが、コロナ禍が明けた23年度以降も、生協への客足は戻らなかった。22年度にコロナ禍以前の営業時間に戻したことで、運営効率が大幅に悪化した上、コメなどの食材価格や人件費の高騰が追い打ちをかけた。前年の事業譲渡分配金に伴う4千万円程度の法人税還付を受けたが、なおも当期剰余は再び赤字に転落し、25年度決算時点で累積赤字は3億円に迫る見込みだ。累積赤字額は約210ある大学生協の中でワースト3位、コロナ禍以降の累積赤字拡大幅はワースト1位となった。生協はこのままの拡大幅で累積赤字が推移した場合、最短で28年度に債務超過に陥る危険があるとしている。

生協の資料をもとに作成。25年度の数字は26年1月時点の見込み額。なお姫田理事によると「25年度の最終的な決算額は3500万円ほど改善する見込み」だという



(表1)事業欠損額(万円)
2019
520
2020
29,677
2021
3,154
2022
4,452
2023
9,162
2024
10,658
2025
11,259

(表2)累積赤字額(万円)
2019
11,448
2020
30,004
2021
26,442
2022
12,011
2023
16,397
2024
23,725
2025
31,535

赤字生む「体質」を変える


生協は総代会資料の中で、経営危機の原因をコロナ禍に求めていない。24年度の着任以降経営改革を進めてきた姫田歩専務理事は「コロナ禍が来たから京大生協が危機に陥ったという見方は、やや短絡的だと思う」と語る。実際、京大生協では過去40年以上、一度も累積赤字は解消されていないという。

総代会資料では▼薄利多売での事業運営▼財務状況の軽視▼正規職員や管理職の多さによる指示系統の複雑化、などを問題点として指摘し、京大生協を「構造的に大幅な赤字を各年で生み出す体質」と形容している。また、姫田理事は赤字容認の背景として、「組合員の生活向上」という生協の理念が過度に重視されていたと推測する。「多少赤字を出す店舗や事業でも、続けることが正義だと考えたのだろう」。京大生協に長年勤めてきた阿部大地・食堂部統括店長も「経営に携わり始めたここ最近まで、その価値観に違和感を抱くことはなかった」と語った。

赤字体質の例として姫田理事が挙げるのは、「日本一長い」と言われる食堂の営業時間だ。課外活動への参加が活発であることや下宿生が多いことを要因と位置付け、「京大生協のサービスは、以前働いていた東京圏の大学生協と比べると圧倒的に充実している」と評価する。ただコロナ禍以降、対面でのサークル活動が大きく減少したことで、昼間帯以降の食堂利用者は激減した。加えて、コメや卵などに代表される食材価格の高騰や、最低賃金の上昇による人件費の増大も深刻だ。「価格や営業時間を改定しないと、人も雇えないしモノも仕入れられなくなった」と姫田理事は顔を曇らせた。

現在生協で進んでいる経営改革は、組合員のサービス維持や生協の存続を念頭に置きつつも、供給高の増加による事業利益の増大といった「賭け」ではなく、経費の削減や効率改善につながる人的・物的投資に重きを置いている。「福利厚生サービスの維持はもちろん大切だが、生協が存続できないような体質を作ることは間違い」と姫田理事は強調し、27年度の単年度当期剰余プラスマイナスゼロの実現を当面の目標とする。「赤字体質を解消するため、全サービスを対象に見直しを進めている。26年度決算までは将来への投資のため、赤字が積み重なることを前提にしている」とも述べた。

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経営改善策


経営改革にあたり、生協は総代会資料の中で、▼抜本的な事業再編とコスト構造の見直し▼人材指導とワークライフバランスの立て直し▼学内渉外・大学との連携強化、などを方針として提示した。さらに、25年度に重点的に取り組む具体策として公表したのが「具体化9項目」(=表3)だ。ここでは9項目のうち、①~⑤について取り上げる。



①人件費の適正化や価格改定で経費縮減


①の中で重視されたのが、正規職員への投下人件費の適正化だ。とりわけ京大生協は、他の大学生協と比較しても正規職員の人件費率が高く、またパート職員の人件費については最低賃金に加え、社会保険料・労働保険料などの生協負担分が上昇し、人件費全体の高騰が課題になっていた。24年度は前年度より4千万円近く増え、事業経費の中で最も増大幅が大きかった。姫田理事によると、24年度~25年度に同意を得た上で一部の正規職員を他の大学生協に移籍させ、正規職員数を43人から29人にまで減少させ適正化を図ったという。また、食堂や購買の閑散時間帯・期間の営業時間を短縮し、正規職員の残業時間の縮減も図った。経営層のポストをはじめとした組織体制も整理したという。

コストコントロールの一環として、生協電子マネーのクレジットカードチャージを26年1月から停止した。生協が手数料として毎年2千万円以上を負担していたことが理由にある。レジでの現金チャージと、銀行口座やコンビニからのチャージは引き続き可能だ。

食堂では、全国の大学生協と足並みを揃えて毎年価格改定を実施し、食材価格の上昇分を部分的に転嫁した。25年2月までと26年3月からで比較すると、ライス中は同じ内容量とした場合72円、中盛の丼は82円値上がりした計算になる。年度当初に生協に一定額を預け、1日あたりの限度額内で支払いができる「ミールシステム」も、価格改定を受けて26年度から限度額を1日あたり100〜200円引き上げる一方、「利用割合が少なく、ミール定期の総額を上昇させる要因となっている」として、現在は使用可能な土曜日の利用を不可とする。

給茶機の運用も25年度までに吉田キャンパスの全食堂で取りやめ、無料のウォーターサーバーを設置した。宇治茶代や給茶機のメンテナンス費、湯呑みの洗浄費で合計1千万円程度かかっていたことに加え、給茶機の洗浄時に従業員が火傷を負うなどの労働災害が頻発していたことも影響した。桂・宇治キャンパスで運用を継続している給茶機も、業者との契約が終了した段階で撤去するという。さらに姫田理事は、将来的に湯呑みを撤去してマイボトルの利用に切り替え、マイボトルがない場合は紙コップを購入してもらう想定もしていると明かした。「マイボトルの無料配布などのキャンペーンは断続的に行っていくが、無償のサービスは維持していくのに限界がある」として、給茶機・湯呑みの撤去に理解を求めた。

購買事業でも価格を改定している。24年度には本部構内にコンビニエンスストアが開設されたことで、時計台ショップの利用者が大きく減少し、購買全体の利用者数は前年と比べて5万2千人ほど減少した。購買では生協独自の商品に加え、他社の商品も仕入れるため、仕入れ代や物流費の高騰の影響を受けやすい。そのため、購買の価格改定幅は食堂よりも大きく、利用者離れの要因になっているという。

食堂のウォーターサーバー=カフェテリアルネ



②南部食堂は「建て替えを検討」


②の「統括店舗の見直し」には不採算店舗の営業時間帯変更などが該当するが、特筆すべきは「店舗投資」にあたる食堂改装の計画だ。南部食堂や吉田食堂は築年数が40年を超え、老朽化が問題となっている。阿部統括店長は南部食堂の現状について「10年前でさえ、天井が剝がれて落ちてくるほどの傷みようだった。夏の厨房温度は40度を超えるので、労働・衛生上の問題も生まれる」とし、吉田食堂も「一部の蛇口は劣化で使用できず、設備が古いのでメニューの提供にも制約がある」と明かす。

生協食堂は京大が管理する建物に入居しているため、本来改装や建て替えの費用は京大が負担する。しかし、法人化以降は国からの交付金が減少し、京大が資金を確保するのは困難だった。建物の修繕費などを肩代わりしていた生協も、経営危機に伴って限界が訪れた。大学と話し合いを重ね、南部食堂の建て替えを検討しているという。

吉田食堂は南部構内からの距離が近く、建て替え中の主な受け皿として想定される。ただ入店・席への移動・退店の動線が店内で交錯するため、ピーク時の行列が問題になっている。南部食堂の建て替えが始まるまでには内部を改装し、動線を変更しなければならないという。

④食堂の完全閉店は「まずない」


④では閑散時間帯の営業取りやめが目立つ。「12時台の利益を他時間帯の損失が食い潰す」と総代会資料が指摘する通り、京大生協では閑散時間帯・期間の赤字が続いている。このため25年度より、カンフォーラは夕方営業を、中央食堂は長期休暇中の営業を終了した。26年度には中央食堂が夕方営業を取りやめ、夕方時間帯は北部食堂とカフェテリアルネの2店営業とする。桂食堂ではキャンパス内に他の飲食店が進出したことで利用者が減少しており、利用状況次第では土曜営業を見直す可能性があるという。

購買でも営業時間の変更が進む。25年度から、ショップルネは土曜休業とした。時計台地下のショップは利用者の減少やミールシステムの制度変更に伴い、26年度から土曜営業を取りやめるほか、1階のグッズショップは平日・土曜日の営業終了時刻を1時間ずつ早める。

今後も営業時間を変更していくのか。阿部統括店長は「食堂全店で夕方営業を取りやめたり、一部の食堂・購買を完全に閉店したりする可能性はない」とした上で、「利用状況を見ながら、営業時間は柔軟に検討していきたい」と述べた。

③・⑤二重価格で加入促進


③では、25年から組合員証を提示する場合と提示しない場合で価格が異なる「二重価格」を導入した。25年3月には組合員を対象に、書籍の10%現金割引を再開した。食堂では5月から9月にかけて「組合員証非提示価格」を導入し、組合員証を提示しない場合は2割増の価格となった。価格の差別化によって員外利用を抑制し、生協への加入を促進する狙いだ。出資要請額も、かつては学生(留学生を除く)より常勤教員や地域住民の方が少なかったが、25年1月から学生側の2万8千円に統一した。

⑤の事業剰余高重視の一例として挙げられるのが、25年12月までに段階的に実施された、家庭教師紹介事業の終了だ。生協は25年10月、本紙の取材に対し、事業は学習塾やオンライン個別指導の台頭によって需要が低下しており、「生協の経営に寄与する事業としては成立していない」として廃止を決めたと明かしていた。

提供メニューは拡充


姫田理事は「サービス縮小が注目されやすいが、拡充も行っている」と強調する。カフェテリアルネでは25年度から麺コーナーの営業を再開したほか、北部食堂では今年度から夜の営業時間を短縮する代わりに、麺コーナーを再開し、丼コーナーを終日営業に変更するという。また、吉田食堂では炊飯設備を買い換えたことで炊き立てのご飯を提供できるようになったほか、一部購買で食堂内製の「ホット弁当」の提供を始めたという。姫田理事は「今は経費縮減のために『小さな生協』になっているが、経営再建と並行して組合員サービスを拡大させていきたいという思いはある」と語った。

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今後の展望


学生委員会や意見箱で意見集約


姫田理事は生協を「出資と運営・利用を同じ人がする、不思議な組織」と形容する。経営にあたっては、出資金を負担する組合員の意見も踏まえることや、十分な情報開示も重要だ。

サービス改定を伴った経営改革には、組合員から反対意見も上がっている。25年5月の総代会では、生協の事業計画案に対し、総代が▼食堂メニュー価格の値下げ▼理事・職員らと組合員が直接意見交換できる場の整備、などを求めて修正動議を提出した。動議は否決されたが、ほかにも総代会では「ショップルネの土曜休業は痛手」「競合進出への対抗策が全く感じられない」「経営に対する危機感の周知が足りないと思う」などの意見が総代から上がった。

現状、生協では総代会や、生協への意見・要望を投函する「ひとことカード」などで、組合員から意見を集約している。また、姫田理事は学生委員会などの組織から意見を吸い上げ、経営に反映していく考えを示した。

情報開示の方策として力を入れているのはポスターだ。姫田理事は「以前は価格改定など変更点を記載するだけだったが、最近は経営状況も含めて詳細に周知している。字ばかりのポスターでも、多くの組合員に読んでもらえている」と手ごたえを語った。

「自分ごととして生協を考えて」


生協の特徴は、加入時に拠出した出資金が、脱退時に返還される点にある。少子化などの影響で組合員数の減少も想定される中、現在の運営体制は今後も持続可能なのか。姫田理事は「京大にはブランド力があるので、毎年一定の志願者・入学者がいる。定員が減少した場合も、身の丈にあった事業運営を考えていけば対応できると思う」と述べ、「京大生協に関しては、統廃合や解散の可能性はまずない」との見解を示した。

最後に姫田理事は「総代会や理事会に参画し、自分たちのものとして生協を考えてほしい」と、組合員に運営への参画を呼びかけた。阿部統括店長は「1日でも1食でもいいので生協を使ってもらえれば、様々なサービスが実現できるようになる」とし、生協の利用を改めて要請した。(聞き手:晴・史・燈)

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