吉田寮現棟 寮生に訊く吉田寮の現在地 一時退去目前、寮生の心境と課題は
2026.04.01
管理棟にある大きな相部屋。新入寮生はこの部屋で共同生活をしてきた
目次
引越し作業の現状署名提出に向けた取り組み
今後の課題
現棟の魅力
引越し作業の現状
——和解後、大学と寮自治会との間に動きは。寮自治会として厚生課と面談する機会を毎月設けています。その中で「現棟には物が多いが、期日までに退去できそうか」といった話がありました。耐震工事の概要を尋ねても「検討段階にある」としか答えてもらえていません。資料置き場などの新たなスペースの供用を求めましたが、大学は難色を示しました。
——引越し作業の進捗は。
現棟にある物品を食堂・新棟に移管する予定ですが、一時退去日までに果たして終わるのか、という状況です。寮内に大規模な移管作業に専門的な会議体が存在しないため、個人や既存の会議体の中でやりくりしています。
吉田寮では、会議などで用いる共用施設が現棟に多く、新棟のほとんどが居室です。和解を受けて新棟の部屋割りを考え直し、現棟にあった共用施設の機能を新棟に移す作業をしています。居室あたりの居住者を増やすことで新棟内に共用空間を捻出する予定です。相部屋ということもあり、個人だけの空間の確保は難しいですが、誰でもアクセスできる空間の確保を目指しています。入寮面接や新入生の受け入れ、署名活動などと同時進行で作業をしており、人手が足りていない状況です。
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署名提出に向けた取り組み
——一時退去の2週間前となる19日には、対話の再開と現棟の補修に関する署名を京大に提出。この時期に設定した意図は。一時退去とは別のトピックとして発信したいという想いがあります。現棟は吉田寮の象徴的な存在ですが、現棟が建て替えられたとしても、吉田寮がなくなるわけではありません。「吉田寮が解体される」というニュアンスで報道されたり、建て替えを既定路線とした世論が形成されたりすることは好ましくありません。署名提出を通じて対外的に現状を発信し、建築的・歴史的な価値を残した耐震工事の実現を、世論サイドからも推して行きたいです。
——和解成立後に行われた今年の入寮選考に変化は。
それほど見られません。現棟に惹かれて入寮する人もいますが、入寮目的に安価な寮費や、共同生活への魅力を挙げる人が多いです。ただ、この春から入寮する人には、数日だけでも現棟を利用できる環境を楽しんでもらいたいです。
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今後の課題
——退居後の課題は。署名で求めている対話の再開と、建物の価値を保持した耐震工事が主な課題です。また、現棟という象徴的な空間にアクセスできない中で、今後、対外的にどう体裁を保持するかという課題もあります。
大学は現状、吉田寮自治会を認めておらず(*)、2019年以降の入寮者の名簿も受け取りを拒否しています。厚生課の窓口では寮自治会として機能しているものの、大学としては寮自治会を公認していない状況です。大学としても誰が住んでいるかわからない現状は好ましくなく、寮を再公認化したいはずです。寮自治会も在寮契約の不安定さを打開したく、この点においては大学と寮自治会は共通します。ただ、大学は再公認に際して様々な条件、特に寮運営の「正常化」を求めていると思います。
(*)編集部注
寮自治会は従前の確約に基づき、大学との対話によって寮運営をしてきた。しかし京大は17年12月に発表した「吉田寮の安全確保についての基本方針」の中で、地震による倒壊のリスクを理由に、15年に建設された新棟を含む、寮に住む全寮生の退去を求めた。寮自治会は大学との対話を求めたが、大学は18年夏に交渉を打ち切り、19年2月に発表した「吉田寮の今後のあり方について」の中で、具体的な根拠を示さずに、寮自治会の運営実態を「到底容認できない」と否定した。
寮自治会は従前の確約に基づき、大学との対話によって寮運営をしてきた。しかし京大は17年12月に発表した「吉田寮の安全確保についての基本方針」の中で、地震による倒壊のリスクを理由に、15年に建設された新棟を含む、寮に住む全寮生の退去を求めた。寮自治会は大学との対話を求めたが、大学は18年夏に交渉を打ち切り、19年2月に発表した「吉田寮の今後のあり方について」の中で、具体的な根拠を示さずに、寮自治会の運営実態を「到底容認できない」と否定した。
——「正常化」とは。
参考となるのが女子寮の事例です。女子寮は吉田寮と同じく京大の建てた寄宿舎を、学生が組織する寮自治会によって運営してきましたが、19年の建て替えに際し、大学が規定を大きく変更しました。それまでは入寮者を自治会のみで選考していましたが、一次選考は大学が担うことになりました。寮費も月額400円から2万5千円に値上げしました。吉田寮においても、大学が入退寮選考や寮費の決定権を求めていると考えられます。
もうひとつ参考になるのは、大学が19年に発表した「吉田寮の今後のあり方について」です。現棟からの退去を求めるとともに、新棟に居住できる学生の条件を明記した方針です。その中で、大学が退去を指示した際には退去することや、寮費の個別納入(*)が要求されています。現在もこの方向性は維持されていると思います。
(*)編集部注
吉田寮では寮費を寮自治会が一括して大学に納入しており、各寮生が個別に大学に納入する方式への移行に、寮自治会は懸念を示している。寮自治会は、個別納入の場合、現行の寮生の寮費を据え置いたまま、次年度以降の新入寮生のみ値上げすることで、反対意見が抑制される可能性があると指摘する。その上で、一括納入であれば、全ての寮生が同じ負担のもと、同じ福利厚生を利用する者同士の公平性を担保できると主張している。
吉田寮では寮費を寮自治会が一括して大学に納入しており、各寮生が個別に大学に納入する方式への移行に、寮自治会は懸念を示している。寮自治会は、個別納入の場合、現行の寮生の寮費を据え置いたまま、次年度以降の新入寮生のみ値上げすることで、反対意見が抑制される可能性があると指摘する。その上で、一括納入であれば、全ての寮生が同じ負担のもと、同じ福利厚生を利用する者同士の公平性を担保できると主張している。
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現棟の魅力
——現棟の建築的・歴史的な価値がしばしば指摘されるが、寮生個人として感じる現棟の魅力は。空間の遊びの多さです。廊下の広さや天井の高さは、圧迫感を与えませんし、柔軟な用途があります。築113年の歴史を通して、かつての茶室だった部屋が溜まり部屋になったり、下駄箱が受付になったりと、ゆっくりと用途がアップデートされてきた点が面白いです。与えられた場所に決められたように住むのではなく、自分で考えて作り変えたり装飾したりすると愛着が湧きます。
——寮自治会はこれまで、生活空間であることを踏まえ、寮内の撮影やSNS投稿に慎重な姿勢を見せてきた。しかし3月中旬、朝日新聞社による現棟の詳細な3D映像が公開された。心境の変化は。
現棟に出入りできる現状をアーカイブに残したいという気持ちがあります。これまで通り現棟も使える状態が続いていたら実現しなかったであろう試みです。
ひと昔前まで、寮は生活空間なので撮影には慎重に対応してきました。しかし世代の入れ替わりに伴って空気感が変化し、撮影許可のハードルが低くなりました。京大は寮についてなるべく内部で処理したがる傾向がありますが、立場の弱い寮側がどのように対抗するのかを考えた際、メディアを通じた社会への発信を意識するようになりました。
——退去日までの予定は。
3月初旬に、寮にあった物品でフリーマーケットを開催しました。寮内の物品削減の一環です。また下旬には、寮の現状を見ておきたいという声に応えて、現棟内のツアーを実施します。ツアーでは参加者から絵馬のようにメッセージを募る予定です。ビラが多く貼られているのが吉田寮の景観の特徴ですが、参加者にも景観作りに参加してもらい、現棟を過去のものとしてではなく、これからも続くものとして形成したいです。外部の方が主催する演劇を現棟で開く予定もあります。吉田寮は住んでいる人のものであると同時に社会のものなので、現棟の存在を社会に還元していきたいです。
——ありがとうございました。(聞き手:汐・史・燕)







