小林雅之 桜美林大特任教授「周知に課題」 目的ねじれた国の新制度/【京大独自の授業料免除制度】次の学部入学生は対象外へ
2026.02.16
小林氏(=2月6日、オンライン)
目次
親負担主義の強い日本目的ねじれた新制度
学生との対話を
親負担主義の強い日本
――学生に対する日本の経済支援の特徴は。
福祉など教育以外の分野にも言えることですが、親が教育費を負担すべきという「親負担主義」が強いことが日本の特徴です。北欧やドイツ、フランスは、家庭ではなく社会全体が負担すべきという考えが確立しています。アメリカなどアングロサクソン系の国は個人主義が強く、学生自身がローンを借りることが一般的です。日本では、学生が借りた奨学金を親が返すというケースが1割程度もあります。親は自分の子の教育に対する責任感が強く、教育を社会に任せようとはしません。親負担主義の影響で、日本では長らく公的支出が非常に少なかったですが、高等教育の修学支援新制度が2020年に開始され、やや改善されました。
――学士、修士、博士後期の各課程で具体的にはどのような支援がありますか。
全課程に共通しているのは、日本学生支援機構による貸与奨学金(無利子の第一種、有利子の第二種)、各大学独自の奨学金・授業料免除、民間団体や地方公共団体などによる奨学金です。学士課程の学生は、返済の必要がない給付型奨学金と授業料免除がセットになった修学支援新制度の対象です。
修士・博士後期課程の学生は、特に優れた業績をあげると、日本学生支援機構による無利子の貸与奨学金の返還が免除されます。教育・研究の補助をすることで一定の報酬を得るTA(ティーチングアシスタント)・RA(リサーチアシスタント)という制度もあります。ほかにも、無利子の貸与奨学金と併用はできませんが、修士課程の学生のみが授業料後払い制度の対象です。後払い制度においても返還の免除を受けることができます。
博士後期課程の学生は、日本学術振興会の特別研究員制度(DC1・DC2)、科学学術支援機構の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)と次世代AI人材育成プログラム(BOOST)の対象です。いずれも生活費と研究費がセットになった支援で、返還免除と併用はできません。それらの対象になると、授業料が減免される大学もあります。また、学生寮も経済支援として考えられます。ただ、学園紛争の影響もあって国立大学の安価な学生寮の数は減っています。
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目的ねじれた新制度
――修学支援新制度の問題点は。
制度目的のねじれです。新制度の根拠法では、本来の目的であるはずの教育の機会均等ではなく、少子化対策を新制度の目的としています。新制度の財源となった消費税の増税分は、社会保障以外に充てられないため、制度を作るために無理やり目的を少子化対策にしたのです。25年度の改正で少子化という文言は消え、目的は教育費用の軽減による子育て支援に変わりましたが、教育の機会均等からは、ずれたままです。
――制度の具体的な問題点は。
支給区分が3段階しかなく、年収が1円でも異なれば支給区分が変わり最高約50万円の差が生じる「崖効果」が問題点です。アルバイト収入も考慮されるので、働き控えという問題も生じます。アメリカやドイツでは階段状ではなく、直線的に支給区分が変わります。複雑な計算が必要ですが、マイナンバーに紐づいた情報を使えば、日本でも可能です。フランスは8段階で崖効果の問題を和らげています。
機関要件と学業要件にも問題があります。機関要件とは、新制度の対象となる大学に課される一定の条件です。本来学生支援と関係のない大学改革の条件も盛り込まれた結果、制度が複雑で分かりにくくなりました。また、学業成績や出席率などの学業要件は厳格化されています。例えば成績下位4分の1が2回連続した場合、支援が停止されます。相対的な評価なので、優秀な学生が多い大学ほど競争が厳しくなります。修学支援新制度の基盤となった2017年から19年の給付型奨学金制度では、そこまで厳しい要件はありませんでした。
加えて、情報周知の面でも問題があります。複雑な制度なので丁寧な情報周知が求められますが、大学も高校も余裕がないのが現状です。アメリカでは奨学金に関するガイダンスをすることが大学に義務づけられています。単なるばら撒きにならないように、日本でも情報周知の徹底が大事です。
――修学支援新制度は何をもたらしましたか。
低所得層への支援が充実した一方で、中所得層への支援は薄くなりました。新制度開始に伴い、各国立大学が独自に行う学部生に対する授業料免除のための予算を国が措置しなくなったからです。
新制度以前は、各大学の学生の経済状況に関係なく、一律で一定の割合の学生の分を国が予算措置していました。使途が限定されない運営費交付金として措置され、各国立大学が独自の基準で授業料免除を実施していました。
新制度が始まり、国からの措置が無くなったことで、自己財源を用いて独自の授業料免除を続けるかどうかを各大学が判断することになりました。低所得層が多い傾向にある大学は支援できる層が元々カバーされていたため、新制度に伴う予算措置の廃止から大きな影響は受けませんでした。一方、低所得層が少なく、より所得の高い学生も支援していた大学では、強く影響を受けることになりました。網羅的な研究も文部科学省による調査もないため、各大学がどう判断したのかはわからない点も多いですが、自己財源を用いて独自の授業料免除を続けた大学は財力の強い大学が多かったと思います。
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学生との対話を
――京大の今回の変更についてどう考えますか。
京大の事情に詳しいわけではありませんが、11月の発表という周知の時期やホームページ上のみでの説明という周知の方法には課題があると思います。十分だとは思いませんが、東大の授業料の値上げの時には、「総長対話」がありました。京大でも総長による学生との対話があっていいと思います。
――今回の変更の背景は何ですか。
推測にはなりますが、授業料の値上げに踏み切る代わりに、授業料免除を縮小したとも考えられます。物価高により、どこの大学も経営状況は厳しく、授業料を値上げする動機はあるでしょう。国立大学の使命には教育機会の均等があり、簡単には授業料値上げはできないため、授業料免除の部分を削ったのかもしれません。ただ、京大は国際卓越研究大学の認定が見通されており、今回の変更は不思議です。卓越大に認定された場合の補助金は大学院生への経済支援にも充てることができるため、学部生の免除予算を減らすことで大学院生支援の予算を確保する必要はないと思われるからです。
――学生へメッセージを。
奨学金に関しては、SNSやAIの情報を鵜呑みにしないことが特に大事です。制度が複雑な上に、情報周知が十分ではないため、自分で情報を得る必要があります。しかし、SNSでは誤った情報が拡散されているため、情報を見極めなければいけません。
――ありがとうございました。
専門は教育経済学、教育社会学。1982年、東京大学教育学研究科博士課程単位取得満期退学。東京大学大学院総合教育研究センター教授などを経て、2023年より現職。17年の給付型奨学金制度の創設には、文科省の検討チームに有識者として参加。修学支援新制度の国会審議の参考人も務めた。
