川添信介 元・学生担当理事「支援十分か疑問」 変更せめて「1年先に」/【京大独自の授業料免除制度】次の学部入学生は対象外へ
2026.02.16
川添氏(=2月11日、オンライン)
目次
終期決めず継続廃止理由に疑問残る
終期決めず継続
――国の修学支援新制度の開始後も、京大独自の授業料免除制度を残した経緯は。19年5月に法律が成立し、京大は20年1月に独自制度の継続を発表しました。
20年9月までの僕の任期のほとんど最後の出来事でした。急に国の制度が変わってバタバタした思い出があります。新制度には、国全体で学生支援をするという喜ばしい面がある反面、不十分な面もあるという感触も持ちました。
真に経済的に困っている家庭に手厚い支援をするという内容だったので、京大生の家庭状況からすると、支援から漏れる人がかなり出てくると理解していました。そういう人々には何も助け合いの手が伸びないという急な変更に思えましたね。
生活を支えるために、バイトをするか奨学金をたくさん借りなければならない学生が増えることが予想されました。新入生の生活設計の見通しを急に変えるのはよくない。学びの前提条件をなるべく崩さない方がいい。あると思っていたものが無くなるということは避けるべきだと思いました。
そこで、いわば二段構えで国の支援に上乗せする形で、京大生には経済的にもう少し勉強しやすい環境をできる限り提供すべきと判断しました。これは最終的に山極総長(当時)にも話して了解をもらいました。
――いつかは独自制度を終わらせるつもりだったのですか。
まず、国の制度がどう変わるかを見るというスタンスがありました。とにかく急な変更だけは避けた方が学生諸君のためだと思い、とりあえず制度継続の判断をしました。その後は、国が新しい制度を更にどう変えていくのか、大学の財政状況も見つつ、状況に合わせて決断するしかないと思っていました。
独自制度をいつまで続けるとか、先のことは何も決めていなかったと記憶しています。議論した記憶もありません。無責任かもしれませんが、僕の任期が終わる頃だったこともあったと思います。僕らの後の方々が何を考えてきたのかは分かりません。
――京大は今回の変更に際し、学部生に独自制度を残したのは「当面の間の経過措置」だったと説明しています。その認識でしたか。
微妙なところですね。学生さんや社会に向けて、「当面維持します」という表現を使った記憶はないです。ただ内部的には、激変緩和がまず頭にあって、制度を継続すべきだという議論をしました。様子を見ながら継続するという意味では、当面の間というニュアンスがゼロだったとは言いません。ただそれは、いつになったら止めると決めていたという意味ではありません。当時の学内記録にも、いつまでやるとは書いていないはずです。
――激変緩和に限らず、京大として中所得世帯を支援していく意思はありましたか。
そこははっきり言うのは難しいですね。データを見ると、やはり制度から漏れる人が多すぎると。そういう急激な変化は避けたかったのは確かですね。ただその時に、もう少し中長期的な意味での詰めた議論はしていません。
――役員会や学生生活委員会で、国の新制度だけで十分だという意見はありましたか。
そういう声がゼロだったとは言いませんが、大きかったとは思いませんね。財務担当の佐藤直樹理事(当時)からも無理だという意見は出なかったと思います。京大全体として財政的な負担を負うのは致し方ないという雰囲気でした。
――財源は。
国からの学部生の授業料減免のための予算はなくなるものの、それまでの支援の規模と、新制度によって少なくなる大学の負担を考えると、何とかなるという判断でした。
――京大によると、大学院生の授業料免除に対して国から配分のあった予算を学部生にも振り分けてきたそうです。
その決定に僕が関わった記憶はないんです。何とかなるだろうという財源の中に織り込んでいたのかもしれないけど、はっきりとは覚えていません。
――予算規模は。
1億に行くか行かないかという規模だったようにぼんやりと記憶しています。それくらいだったら京大全体の財政規模からするとやりくりが可能じゃないかという判断でした。
――当時最も重視していたことは。
学生さんの支援が僕の職務でしたから、経済支援をどう組み立てるかを考えていました。経済的に困っている学生諸君が京大にいることは事実です。彼らが充実した学生生活を送れるような支援を考えるべきだという立場で、学内で調整を図りました。
――他大学の状況は見ていましたか。
他大学がどう動くかは、当時はほとんどわかりませんでした。だから、京大としてどう動くかだけを考えたと思います。多少は事務の方々のネットワークで情報を入れたかもしれないけれど、たくさんは入れていません。
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廃止理由に疑問残る
――独自制度の継続に関わった当時の学生担当理事として、 来年度以降の学部入学者が独自制度の対象外になることをどう受け止めていますか。
僕が離れた後、京大の中でどういう議論がされたかは全く知りません。ただ、現在も他大学で責任を持つ者として、国の制度は不十分だという感触は持っています。
国の制度には学生援助と少子化対策の両面があり、論理的に一貫したシステムではありません。今年度に始まった多子世帯の授業料無償化では、かなりの高所得の家庭でも、子どもが3人以上いると全額授業料を払わなくていい。ところが低・中所得層でも、子どもが2人までだと支援は相当受けにくい。子どもが3人以上か否かで支援にあまりにもギャップがありすぎる。こういう制度設計は、高等教育の機会均等化の観点から言うと良くないと思っています。
今の京大の方々は、京大生の家庭状況などを新たに調査されたのでしょうか。どうお考えになり、国の制度でもう十分だとなったのか。僕にはちょっと理解できません。
――今の京大は、多子世帯無償化が始まったから独自制度はやめてもいいと言っている印象を受けます。
公式の通知でもそれ以上の理由はあまり書いていないですよね。新しい制度は不十分というか一貫しない、ある意味いびつなものだと思います。それがあるから独自制度はいらないというストレートな論理はよくわからない。その裏側に何があるかはわかりません。
ただ、修学支援新制度の開始時に入学した学生が卒業した時期ということで決定したのかもしれませんね。国の制度が万々歳で独自制度はもう不要というのが廃止理由だとしたら僕には解せないけれど、時期に関してはそういう筋かもしれません。
――京大は削減分を大学院生の授業料免除に使うとしています。
国際卓越研究大学(世界最高水準の研究大学を目指して国から助成を受ける大学)に選ばれるためには、やはり大学院の方を充実させたいという判断があったんだろうとは当然思いますよね。それはかなり高度な判断でしょう。ただ、それでもやはり、学部生については国の支援で十分だと言っていることになりますよね。本当にそうだろうかという思いはあります。
もう一つ言えば、独自制度の継続を決めた時にも、授業料免除や奨学金について総合的に検討する必要があると議論しました。例えば、大学院生や留学生に対する支援をどうするかです。学部生が大事じゃないと思った記憶はないですが、京大にはいろいろな立場で勉学し研究している人がいます。無尽蔵でないリソースを全体でどう配分するかは、大学全体をどの方向に持っていくかという、かなり高度な判断になります。当時は検討を先送りにしましたが、今の國府寛司・学生担当理事までこういう問題意識が引き継がれていたと推測します。
――昨年11月の発表で、翌年の学部入学者から独自制度の対象外にする方針が示されました。そのスピードについてはどう考えますか。
僕が今の國府さんの立場にいたら反対します。受験生は京大に入ろうと勉強して、ご家庭も準備しているはずですね。11月の発表は、入学後の生活を含めた見通しの変更を迫るにはちょっと近すぎると思います。僕だったら、独自制度をやめるという結論が動かない場合でも、少なくとも1年先送りにして周知期間を設けるべきだと言ったと思います。
――ありがとうございました。
京大文学部・文学研究科出身。2014年京大文学研究科長。15年11月から20年9月まで京大理事(学生・図書館担当)・副学長、学生生活委員会委員長を務めた。現在は福知山公立大学理事長・学長を務める。
