【特集】京大 国際卓越研究大学 認定へ 「歴史的な大規模改革」で目指す姿
2026.01.16
目次
研究組織と教育組織を分離資金運用 年間平均3%成長が必須
〈寄稿〉大学組織編制の「自由化」?
編集員の視点
研究組織と教育組織を分離
デパートメント制
小講座制解体へ
京大では、創立以降、教授を頂点として少人数の階層構造を持つ「小講座」を研究教育の基本単位としてきた。湊長博総長は、小講座は閉鎖的であり、少人数で流動性が低いことを課題としてあげた。そのうえで、欧米の主要大学にならって、全ての研究者が個人の専門とする学術領域に基づいて集団を作り、研究教育を展開する「デパートメント制」に移行するとした。各デパートメントに事務組織のオフィスを設置し事務官や研究支援者を配置することで、「煩雑な研究外の業務から研究者は完全に解放される」ことを想定しているという。
デパートメントは予算配分の単位にもなる。阿曽沼慎司・総長特別補佐によると、現在は研究科への資金は科内の各専攻に平等に分配されることが多く、学術領域単位ごとに資源をどれだけ配分するかの検討が必ずしも行われていないという。全デパートメントで必要となる基盤的な経費は確実に担保したうえで、研究評価に応じた支援や、再生医療やがん免疫、エネルギー科学、アジア人文学・京都学派など「重点分野」への戦略的な投資を行うとしており、特に注力したい分野に資金・人材をより拡充することを狙う。
「学系」単位で再編
29年4月までに導入するデパートメントは、2016年から運用する「学系」の単位をベースに区分する。現行の学系は、教育人事組織として採用や昇進などを担い、人文社会学域の6学系、医・薬学域の5学系、自然科学域の26学系、学際学域の2学系の合計39学系を基礎とする。18の研究科との対応を見ると、文系では複数学系への分割はない一方、理学研究科と工学研究科は各5学系、農学研究科は4学系、医学研究科は3学系に分割される。(=表1)附置研究所の扱いについて、阿曽沼氏は、研究所としての役割を果たしつつも、29年度時点では基本的に各附置研究所が1つのデパートメントへ移行すると述べた。
「戦略的」な資金分配
デパートメントには、チェアー・パーソンという責任者を置き、デパートメントの将来構想・研究力強化戦略の策定など、全体の取りまとめをする。阿曽沼氏は、デパートメントの長は独裁的に決めることはないだろうと述べ「デパートメントの中には一定の自治がある」との見解を示した。
デパートメントの将来構想や戦略は、総長が運営方針会議や外部有識者の意見を聞いて策定する「京大ビジョン」が基礎となる。(=図2)デパートメントの長は、京大ビジョンに基づき構想を考え、教学の責任者であるプロボストに必要な研究資源を要求する。新たに設置する「研究諮問委員会」が、「客観的・学術的な観点」から、研究評価を実施。評価をもとにプロボストがデパートメントの長と協議し、「戦略的」に研究資源を配分する。
卓越大認定に関わる有識者会議は「極めて挑戦的な改革構想を掲げていることを高く評価したい」と述べる一方、「各デパートメントの研究力強化戦略等の検討の基となる、京大ビジョンの策定や全学デパートメント制への移行は途上」だと結論付けた。阿曽沼氏は、有識者会議との意見交換で「トップダウンとボトムアップをどう調和するか」を問われたと明かし、これから有識者会議と協議して京大ビジョンの詳細を詰めたうえで、正式認定を受けたいと述べた。
3年間で制度移行
計画では、遅くとも29年4月にデパートメント制へ移行し、35年度末までに「理想的な形」に再編するとの記載がある。ここでは、具体的な移行過程を見る。すでに昨年9月に、総長がデパートメント制導入に関して全学系長へ説明を行い、「全学合意」を得たという。26年度には、デパートメント制移行を念頭に置き、新学系長を決定するほか、教学事項の実行責任者であるプロボストが、事務組織であるデパートメントオフィスに必要な人員・予算を学系に配分する。27年度には、デパートメントの長の候補者を選出し、デパートメントの将来構想・研究力強化戦略を策定する。28年度に研究諮問委員会が候補者の審査と、構想の評価を行い、プロボストが長の任命や追加の人員・予算の配分を行う計画だ。
教育改革
博士学位取得者を3倍に
教育組織と研究組織を分離したうえでのデパートメント制の導入は、大学院教育にも大きな影響を与える。湊総長は、欧米の大学ではデパートメントが各々学位プログラムを構築する形式が一般的であるとしたうえで、デパートメント制の導入は大学院教育の国際標準化にも大きな役割を果たすと述べた。デパートメントごとの学位プログラムでは、大学院生が同じ学術領域の研究者のメンターシップの中で研究することができ、小講座制で見られる「従属関係」に陥ることもないという。
湊総長は会見で、日本の人口あたりの学位保持者、とりわけ博士学位保持者がOECD加盟の主要国から見て非常に少ないと危機感を示した。学位プログラム制と徹底した教育・生活支援プログラムで、博士学位取得者を、現在の690人から50年度末までに約3倍となる2100人とする計画を掲げた。
大学院生の所属先である18の研究科を35年度末までに「Graduate Division」に一元化し、その中に人文社会、自然科学、医・薬、学際の4つの「Division」を設ける。学生の希望と研究テーマに応じ、デパートメントを越えて複数の教員から学位指導を受けることができる。大学院教育を統括する「ダイレクター」を置き、大学院の業務を一元的に管理する。加えて、留学生の増加とグローバル人材の育成のため、大学院の授業を原則英語化する。
学部では、研究者との対話による少人数実践教育を300クラス開講するほか、留学生の受け入れを拡大するという。計画では35年度末までに入試改革、50年度末までに学部の「再編と規模適正化」を行うと記載がある。「学びを柔軟に広げ、専門分野を自由に選択できる新たな学士課程教育」を目指すというものの、具体的な導入時期や内容には言及していない。
ガバナンス
責任と権限の所在を明確化
23年9月、京大が第1期の申請で落選した際、有識者会議は、「新たな体制の責任と権限の所在の明確化が必要」とガバナンス体制に関する問題点を指摘していた。
今回、経営改革の一つとして「多様なステークホルダーの声を大学経営に反映させる運営方針会議の設置」をあげている。運営方針会議とは、大学の予算や中期計画を作成する組織だ。24年10月施行の改正国立大学法人法により京大でも設置された。現在10名の委員のうち、6名が学外者で、女性は3名だ。
また、法人の意思決定の最高責任者である総長、研究・教育の実行責任者であるプロボスト、事業・財務の実行責任者であるCFOの三者の「責任と権限を明確化した新たな組織ガバナンス体制の構築」も行うという。プロボストが研究組織、教育組織、教学支援組織を統括する。CFOは成長戦略本部などの経営支援組織、総長はDEIB推進室などの教学・経営支援組織を統括する。(=図3)
京大は、24年4月に成長戦略本部を、25年1月に総合研究推進本部を、4月に教育改革戦略本部を、関連部署を統合することで新設し、3つの組織の連携を図ってきた。総合研究推進本部・教育改革戦略本部・成長戦略本部の設置は、23年の落選を受けて行ったガバナンスの見直しの一環とみられる。成長戦略本部の新設に関して、京大は24年4月の本紙の取材に対し、「国際卓越研究大学への採択に寄与するため、または採択後を見据えたもの」と述べていた。
24年4月には既存のプロボストオフィスに加え、総長オフィスとCFOオフィスを新設し三者の機能強化が図られていた。
人材獲得
若手向けの雇用増
次世代人材の獲得・育成に向けて、2制度を新設する。主宰研究者(PI)に必要なポスドクを配置する「Institutional Postdoc制度」では、50年度末までに200名を雇用する。
若手PI候補としてのフェローを獲得する「Kyoto Fellowship制度」では、50年度末までに100名を雇用する。加えて、助教〜准教授クラスの若手研究者の国際公募を行う。メンタリング制度や研究環境の充実により、若手自立への支援をするほか、新進気鋭の若手研究者へ「世界トップクラスの待遇」を可能とする人事給与制度を整備する。
多様性の確保
京大は、国際化や多様性の推進も図る。50年度末までに、外国人研究者を25%とするほか、また、女性教員の割合を40%、教授職の女性教員の割合を30%とする目標を掲げた。(=表2)
24年5月時点の京大のデータによると、女性比率は学部生で22.6%、大学院生で29.3%である。外部から女性研究者を受け入れることがあるとはいえ、学部生・大学院生は将来的に京大の教員になりうる存在だと考えると、かなり挑戦的な目標だと言えよう。
研究環境
湊総長は、技術職員などの研究支援人材や教育専念教員・マネジメント教員を増員することで、研究者の事務仕事や教育負担を軽減し、研究時間の確保を図るとした。昨年1月に設置した総合研究推進本部を中心として研究支援を拡充し、大型の施設や機器を共有できる体制をつくる。また、国際化施策の企画、や立案を担う組織である「Global Engagement Office」を中心として、学内組織が連携し国際化を進める。
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資金運用 年間平均3%成長が必須
原資の9割が「借入金」
政府は、大学の国際競争力の低下や財政基盤の脆弱化という現状を変え「大学を中核としたイノベーション・エコシステム」を構築するため、世界レベルの研究基盤の構築のための大胆な投資を実⾏するとして、文部科学省が所轄する「科学技術振興機構(JST)」に大学ファンドを設置し、21年度末に運用を開始した。毎年、運用益から年間3千億円を上限として、卓越大へ最長25年間助成を行う。
大学ファンドの原資金10兆円のうち、政府からの資金は1兆1111億円で、残り約9割は財政融資資金からの長期借り入れである。JSTによると、25年4月〜9月における大学ファンド運用実績は、収益率6.3%、収益額6941億円であり、9月末時点の運用資産額は11兆7916億円となった。26年度末までに3千億円の運用益を達成することを目指す。
独自基金を1.2兆円に
卓越大の認定には、25年間にわたって、年平均3%程度の支出成長率を維持する必要があり、相当の収入を維持することが求められる。京大は成長戦略本部を中心に外部資金収入の年5%程度の成長を計画する。湊総長によると「学術成果から効果的に社会的・経済的な価値を創り出す」ことで、外部資金の獲得を目指す。具体的には寄付の受け入れとスタートアップ投資などに力を入れるという。
さらに、事業終了後も持続的な成長のために必要な運用益を生み出せる規模の大学独自基金を作ることも必要となる。京大は、独自基金の運用益で大学ファンドから得られる助成額と同等の独自収入を事業終了後も生み出す計画を示している。運用益600億円を利率5%で達成するには、独自基金として1.2兆円が必要となる。独自基金1.2兆円を作るために、外部資金からの0・4兆円と国際卓越助成金を元手とした0.8兆円を充てる予定である。
助成金には、公的資金を除く外部資金の5年平均と同額の「研究等体制強化促進分」と、外部資金より独自基金に繰り入れた金額の2倍の「大学成長基盤強化促進分」の2種類がある。前者は研究などの強化に用いられ、後者は独自基金の造成に充てられる。大学ファンドによる助成金は体制強化計画と適合することを前提とするものの、JSTから使途の指定や執行前の許可などを事前に受けることはなく、期末評価の期間をまたぐ場合を除き、大学の判断で助成金を繰り越すことができる。しかし、助成金を大学独自基金に直接積み立てることは想定していない。ただ、大学ファンドへの資金拠出を行い、助成終了後に払い戻された資金を大学独自基金に用いることは可能である。京大もこの枠組みを使い、助成金の一部を独自基金の造成に充てるとみられる。
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〈寄稿〉大学組織編制の「自由化」?
本紙は研究体制強化計画の受け止めを、大学政策に関する著作がある駒込武教授(教育学研究科)に取材した。
卓越大の申請にあたって、湊長博総長はデパートメント制という「改革」構想を打ち出した。京大の独自の構想かと思っていたが、他の複数の申請校でも同様の案があったようだ。有識者会議が正式な認定の条件としたことで「上から」の「お仕着せ改革」であることが明白となった。
デパートメント制のねらいとは、現状のように研究科や専攻で定員を定めている状況を変えて、総長を含む運営方針会議の委員が研究科や専攻のスクラップ・アンド・ビルドを容易にできるようにすることだと、私は考えている。
実はこのプランは、国立大学法人化以前から政府与党のねらいであった。2001年5月に経済産業大臣が提起したプラン(通称「平沼プラン」)では「イノベーション・シーズは圧倒的に大学が保有している」という観点から「大学の学部・学科の組織編制の自由化」を冒頭に掲げていた。デパートメント制は、この「自由化」を可能にする仕組みとして導入されるのだろう。
少子化が深刻化する状況でなんらかの学部・学科の組織改編は避けられないかもしれない。それにしても、学生のニーズを掬い上げる形で行われるべきだ。現在進行しているのは、学生のニーズではなく産・官・学・軍複合体のニーズにそくした改編を可能にするための「自由化」ではないか。全構成員が「改革」のゆくえをきっちり監視する必要がある。
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編集員の視点
京大は、29年4月までに現在の部局・小講座制からデパートメント制へ移行する目標を掲げる。当初は現在の「学系制度」に基づく40組織となるものの、その後35年度末までには「理想的な形」へと再編するという。デパートメントの統合や改廃で、人材や資金が減少する研究領域が出てくる可能性は否定できない。加えて、「理想的な形」の定義が曖昧であり、最終的にどのような基準で再編されるか現時点では不明だ。また、デパートメント制において現在の部局や教授会による自治をどれだけ維持できるのだろうか。
同時に、大規模な教育改革も掲げる。35年度末までに大学院組織を一元化するほか、大学院での授業を原則英語化することなど、大学院生の研究環境に大きな変化をもたらすこととなる。しかし、学生への周知はほとんど行われておらず、説明責任を果たしているとは考えがたい。
そもそも、卓越大制度により大学の「選択と集中」が進み、一部の大学に資金が集中し、それ以外の多くの大学が経営難に苦しむ構造が懸念される。さらに、政府は「厳格な結果責任」を求めており、京大は6〜10年ごとに、支援の継続の可否に関して評価を受ける。目標達成できず支援が途中で打ち切られた場合、組織改革はどうなるのだろうか。
本紙は、▼デパートメントでの自治の担保▼デパートメント制の「理想的な形」についての具体的な見通し▼学部に関して入試改革や教育改革を行う具体的な時期▼大学院教育の原則英語化の開始時期や、英語化の例外となる研究領域の有無▼卓越大に関する様々な改革―とりわけ大学院や学部の改革について、学生からの意見を聞く場を設けるか、などについて1月6日に京大へ質問を送付した。1月中に京大側から説明を受ける予定だ。
本紙は、今後も取材を続け、卓越大に関する京大の動向を注視していく。(史)





