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庶民の苦悩を映し出す初期キリスト教徒像 京大博物館にて公開

2010.12.24

12月8日から12日にかけて、総合博物館にて今年3月に京都大学主催のレバノン発掘調査団が発見した、古代ローマ時代の『呪いの鉛板』が速報展示として一般公開された。発掘調査団には京都大学の他、広島大学、国士舘大学が参加した。通常出土文化財の国外の持ち出しは禁止されているが、レバノン考古総局の配慮により、調査と分析のために1年間の借用が認められた。

今回見つかった『呪いの鉛板』は今年2月から3月にかけて行われた地下墓の発掘中に入り口部分から出土した。墓は古代フェニキアの中心都市テュロス近郊にある紀元後2世紀から4世紀頃の大規模なもの。鉛板自体は3世紀から4世紀のものと推測される。大きさは幅6センチメートル、長さ14・7センチメートルで、約1000文字の文字列が古代ギリシア語で書かれている。呪いの鉛板が発掘で出土した例は少なく、また折りたたまれたり巻物状になっているため解読できないものが多い。その意味で今回の発見は貴重なものと言える。

『呪いの鉛板』とは、自分の願いをかなえるよう、あるいは自分の敵対者や不正を行なった者を罰するように、神々や死者に依頼する文章が書かれた小さな鉛板のこと。紀元前6世紀から紀元後6世紀、または8世紀まで、ギリシア・ローマ世界で広く使用された。現在1600枚ほど見つかっているが、約3分の2薄は古代ギリシア語、残りはラテン語で書かれている。鉛板に先端の鋭い金属の針で文字を綴り、それを巻いて密かに墓に埋めたり井戸や池に投げ入れて使う。多くは墓、特に夭折した人物の墓に埋められたが、これは鉛板をさ迷う霊の近くに置くことで、その霊が呪いを成就させると信じられていたことに由来する。素材として鉛が選ばれたのは、入手しやすかったことと同時に、鉛が当時の美的感覚からすると美しくないこと、「死」を連想させる金属と見られていたことがある。

現在はデジタルマイクロスコープを用いて文字列を解読中で、今年度中の完了を目指す。すでに終了した文字列には「足のない神々」や「大天使たち」、「アーメン」、「イエス・キリスト」と読める部分が見つかっており、団長の泉拓郎・文学研究科教授は「初期キリスト教徒の像を1つ提示しているのではないか」と話す。また、解読にあたっている前野弘志・広島大学准教授は「支配階級によって書かれた歴史ではなく、日常生活に苦労して生きる庶民の苦悩・言葉が書かれているという意味で価値がある発見だ」と述べた。

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