〈映画評〉ファム・ファタールを愛せるかが鍵 『チェンソーマン レゼ篇』
2025.10.01
『チェンソーマン』は藤本タツキによるマンガで、2022年にはテレビアニメ化された人気作。9月19日に公開された『チェンソーマン レゼ篇』は、テレビアニメの続編として原作でも人気の高いキャラ・レゼが登場してからのエピソードを描いている。
本編を紹介する前に断っておきたい。正直これまで、『チェンソーマン』のことは食わず嫌いしていた。第1に流行りすぎている。第2にキャラデザインの癖が強い。第3に、個人的な話だが、アクションバトルへの興味が薄かったのだ。だが、『レゼ篇』の興行収入も評判もあまりに良いことから、渋々『レゼ篇』に追いつこうと原作を読みテレビアニメを見たのが鑑賞1週間ほど前の出来事だった。
『チェンソーマン』は「チェンソーの悪魔」を身に宿したデンジが、公安のデビルハンターとして街にはびこる「悪魔」と対峙していく物語だ。悪魔はその存在に対する人間の恐怖心が強いほど強力になっていくのが特徴で、デザインの異形さが光る。テレビアニメ版と『レゼ篇』では、この悪魔のデザインを押山清高が務めている。押山は藤本タツキの短編マンガを原作とした映画『ルックバック』で監督を務めたアニメーターで、一目で押山とわかるような画面作りが得意な印象だ。今回の『レゼ篇』でも、まず大迫力の悪魔のデザインに圧倒された。
『レゼ篇』の物語全体としてはテレビアニメで描かれていた部分よりも「王道」で、レゼという魅惑のキャラが登場する分、恋愛と異能バトルとが交錯する本作の魅力がいっそうわかりやすくなっている。そのうえで、制作スタジオ・MAPPAによる緻密な日常芝居とダイナミックなアクションシーンの作画によって、原作の魅力が最大限引き出されていると言えるだろう。デンジとレゼが忍び込んだプールで泳ぐシーンや最終決戦など、観客の記憶に爪痕を残すべきところではしっかりとMAPPAの本領を発揮していて好印象だった。ある種、日本のアニメーション制作の最先端をゆく作品でもある。
ただ、見逃せない課題もある。あまりに作画にこだわりすぎて、画面で何が起こっているのか、わかりにくくなっているきらいがあるのだ。確かに没入感はすさまじいのだが、特に戦闘シーンなどはどのような構図でどのように戦っているのか、一見して判別しにくい箇所が多々あった。「すごいことが起こっている」ことは認識できるので鑑賞後の感覚は悪くないが、もう少し見せ方を工夫しても良かったかもしれない。
また、レゼのキャラ作りについても一考の余地がある。レゼは明らかにファム・ファタール(魔性の女性)として描かれているが、かなり男性中心的な「魅力」ではあった。もちろんデンジが食欲や性欲に素直な人物である、という本作の根幹を成す設定に影響されたものだろうが、一部の観客にとってレゼのありようは疎外感を覚えるものかもしれない。レゼに乗り切れなかった観客が本作を肯定的に評価するのは難しいだろう。
とはいえエンタメとしてのカタルシスは十分。ぜひ大画面で、欲を言えばIMAXで観てほしい。(涼)
本編を紹介する前に断っておきたい。正直これまで、『チェンソーマン』のことは食わず嫌いしていた。第1に流行りすぎている。第2にキャラデザインの癖が強い。第3に、個人的な話だが、アクションバトルへの興味が薄かったのだ。だが、『レゼ篇』の興行収入も評判もあまりに良いことから、渋々『レゼ篇』に追いつこうと原作を読みテレビアニメを見たのが鑑賞1週間ほど前の出来事だった。
『チェンソーマン』は「チェンソーの悪魔」を身に宿したデンジが、公安のデビルハンターとして街にはびこる「悪魔」と対峙していく物語だ。悪魔はその存在に対する人間の恐怖心が強いほど強力になっていくのが特徴で、デザインの異形さが光る。テレビアニメ版と『レゼ篇』では、この悪魔のデザインを押山清高が務めている。押山は藤本タツキの短編マンガを原作とした映画『ルックバック』で監督を務めたアニメーターで、一目で押山とわかるような画面作りが得意な印象だ。今回の『レゼ篇』でも、まず大迫力の悪魔のデザインに圧倒された。
『レゼ篇』の物語全体としてはテレビアニメで描かれていた部分よりも「王道」で、レゼという魅惑のキャラが登場する分、恋愛と異能バトルとが交錯する本作の魅力がいっそうわかりやすくなっている。そのうえで、制作スタジオ・MAPPAによる緻密な日常芝居とダイナミックなアクションシーンの作画によって、原作の魅力が最大限引き出されていると言えるだろう。デンジとレゼが忍び込んだプールで泳ぐシーンや最終決戦など、観客の記憶に爪痕を残すべきところではしっかりとMAPPAの本領を発揮していて好印象だった。ある種、日本のアニメーション制作の最先端をゆく作品でもある。
ただ、見逃せない課題もある。あまりに作画にこだわりすぎて、画面で何が起こっているのか、わかりにくくなっているきらいがあるのだ。確かに没入感はすさまじいのだが、特に戦闘シーンなどはどのような構図でどのように戦っているのか、一見して判別しにくい箇所が多々あった。「すごいことが起こっている」ことは認識できるので鑑賞後の感覚は悪くないが、もう少し見せ方を工夫しても良かったかもしれない。
また、レゼのキャラ作りについても一考の余地がある。レゼは明らかにファム・ファタール(魔性の女性)として描かれているが、かなり男性中心的な「魅力」ではあった。もちろんデンジが食欲や性欲に素直な人物である、という本作の根幹を成す設定に影響されたものだろうが、一部の観客にとってレゼのありようは疎外感を覚えるものかもしれない。レゼに乗り切れなかった観客が本作を肯定的に評価するのは難しいだろう。
とはいえエンタメとしてのカタルシスは十分。ぜひ大画面で、欲を言えばIMAXで観てほしい。(涼)
◆映画情報
監督 𠮷原達矢
製作 MAPPA
2025年9月19日より公開中
上映時間 100分
監督 𠮷原達矢
製作 MAPPA
2025年9月19日より公開中
上映時間 100分
