〈展示評〉「多角的な光」 浮かぶ戦争の影 『ベトナム戦争の傷痕――戦争終結から五〇年』
2025.06.01
中央の壁に展示されている写真。写された人々の表情は様々だ
展示会場に入ると、まっすぐにこちらを見つめる人々の写真が目に飛び込んできた。両腕がない身体を見世物にして物乞いをする幼い男の子、父親が枯葉剤を浴びた影響で生まれつき顔の右半分が垂れ下がっている女の子、涙ながらに戦争で失った家族について語る女性。1枚1枚の写真に映る人々の表情は胸に迫るものがあった。展示されているのは、ベトナムの人々や風景の写真だけではない。アメリカの友好国として南ベトナムに派兵され、64年から66年までベトナム中部に駐留した韓国軍の元兵士や、戦時中にベトナムに住んでいて、迫害を受けた華僑(中国からの移民の末裔)の男性。ベトナム北部、南部の二項対立では表すことのできない複雑な戦争の構図や、戦争に様々な立場で関わった人がいることがわかる。
高校時代、世界史の授業でベトナム戦争について学んだ筆者は、自分が戦争について知った「つもり」になっていたことを痛いほど思い知らされた。韓国が派兵していたこと、枯葉剤の影響で苦しんでいるのはベトナム人だけではないこと、韓国では戦争によって「ベトナム特需」となったことから、現在も韓国人の中には「ベトナム戦争のおかげで今の韓国の発展がある」と考える人がいることなど、知らない事実がたくさんあった。
村山氏は、「戦争に対し多角的に光を当てたい」と語る。それぞれの立場の人が見た戦争を、展示を通して伝え、見ている人に考える余地を残したまま問いかけたいという思いがあるそうだ。米軍に従軍し、米軍が仕掛けた地雷によって腕を失っても米軍への感謝を口にする男性や、米軍に家族を奪われ涙を流しながらも「アメリカ人は嫌いじゃない。友人だ」と語る南ベトナムの女性の姿など、筆者自身疑問に思ったりもやもやしたりすることも多かった。しかし、この答えのないもやもやは、戦争について考えるきっかけを与えてくれるかもしれない。戦争は恐ろしいものだ、してはいけない。そんなことはわかっている。ではどうやって平和を守るのか。もし始まってしまったらどう最小限に食い止めるのか。写真たちの訴えに耳を傾け、平和への一歩を踏み出してみたい。
村山氏は27年間にわたり取材を続けている。ベトナムに通い続ける理由は、「昭和のころの『古き良き日本』のような情景がある」からだという。「日本で本や雑誌から受け取ったベトナムの印象と実際に見たベトナムとは違う」。だからこそ、「これからも変化するベトナムを追い続けたい」という。展示は6月21日まで、月曜から土曜の9時半から16時半まで開催中。入館料は大人400円、中高生300円、小学生200円。(悠)
