企画

〈百載無窮〉怒られて気づく

2025.04.01

※「百載無窮」のほかの記事はこちら

京大新聞では、ほぼ毎日誰かが取材に赴き、記事を執筆している。取材相手に感謝されるケースがある反面、実は上手くいかずに怒られたケースもある。ここでは、そんな私の事例を一つだけ紹介したい。

それは昨年の秋、学生で人気のとある飲食店を訪れた時のことだ。その日、深夜3時まで自分の記事の朱入れを反映していた私は、昼に目を覚ますと、慌てて店主への質問を考え、同期の編集員と二人で取材に向かった。ちょっと強面の店主とは「14時から取材を」と前もって話していたのだが、私は空腹をこらえきれず、店に着くなり、おばちゃんに「先に昼食を食べたい」と伝えた。おばちゃんは快諾してくれたため、既に食事を済ませていた同期と雑談しつつ、私は一人ゆっくりと食事した。

食事を終えた私は、店の奥にいた店主に声をかけた。「それでは取材の方を始めたいと思います」。だが、「今何時や。取材は14時からって言うてたやん」。店主は明らかに怒っていた。入店時に店主に声をかけず、他のお客さんと同じように着席したこと、二人で来たのに一人分の食事しか注文しなかったことも、どうやら彼の怒りに拍車をかけたらしい。

私はてっきりおばちゃんが店主に「取材は昼食後になった」と伝えていたと思っていた。だが、それは誤りだったと、説教中に気付いた。慌てて謝罪するも、店主の腹の虫は収まらない。そのまま不機嫌な店主を相手に、取材することになった。

自分に対して不信感しか抱かない相手には、誠実な態度を見せ続けるしかない。そう思い、眠気まなこを叩き起こし、これまでのどの取材よりも店主の話を真剣に聞き、メモをとった。そのおかげかは分からない。だが、自分の名前を書くのを渋り、録音を拒んでいた店主と、取材終盤には、楽しげな雑談ができたうえ、京大生への熱いコメントももらえた。後日、原稿確認の際に店を訪れ、食事した際には、まかないもいただいた。

この説教では、こんなことも言われた。「君らは一般紙とは異なる学生新聞や。やけど、一般紙と違う対応を取られるのは嫌やろ」。店主は、京大新聞を一般紙と同等と見なし、同じように接してくれた。学生だからという理由で、自分の感情に蓋をすることはなかった。京大新聞の編集員も、一般紙の記者と肩を並べるジャーナリストの一員。その自覚を胸に今後も取材を続けていきたい。(郷)

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