〈百載無窮〉ボックスの現状
2025.04.01
※「百載無窮」のほかの記事はこちら。
京大生は部室を「ボックス」と呼ぶ。
京大新聞のボックスには、茶色く、スクイーズのような質感のソファがある。このソファは幾人もの編集員を包みこみ、惰眠に導きつつも、編集作業を支えてきた。ここに寝転ぶのが、入社以来の私の至福だ。換気扇の回転、吹奏楽団の練習、編集員たちの雑談。聞こえるが聴かない態度でその中に寝ころぶと、飼い猫になったようなのんびりとした気分が味わえる。
しかし発行前日はその雰囲気も一転する。いつの間に東京の証券会社に飛ばされたのだろう。ピリピリとした集中がボックスを覆う。編集員の普段の穏やかさは鳴りをひそめ、真剣な雰囲気が醸し出される。飼い猫は未熟な手を貸し、発行を何とか手助けしようと試みる。ソファは疲労した戦士の安息所となり、徹夜作業は穏やかな人すら狂わせる。夕方になり発行を終え、眠気と安心感にうとうとする編集員に囲まれると、不思議なサークルに入ったものだなと実感する。
ところで、ボックスには数十年前に発行した新聞や、合格電報ののぼりといった歴史を感じさせる品物も溢れている。こうした中で過ごしていると、時間感覚が狂ってくる。100年の歴史を傍に置いて、平然としていられるわけがないのだ。いつの間にか数時間が経過し、屋外に出てすっかり暗くなった世界を見ると、何だかタイムカプセルに収納されていたような、とぼけた気持ちになる。
最後に1つ求人する。現代社会の馬鹿げた狂騒にはもううんざりだという方、ぜひ一度ボックスを訪れてみて欲しい。新聞社は今、猫の手も欲しているのだから。(雲)