【特集】大学生と月経 第3回 京大 生理用品の試行設置へ 学生の活動も
2025.04.01
二次試験のときに、突然月経が始まって焦った――。これまで筆者は、自分自身の経験から、学内における生理用品の必要性を感じていた。
企画の初回を掲載したのは、昨年の11月。これまでに、大阪大・杉田教授のインタビューや、すでに無料設置を行う10の国立大学へ実施の経緯や規模を取材してきた。
京大では、昨年6月頃から学内の女性トイレに学生有志『無料ナプキン設置計画@京大』が自主的に生理用品を設置し、定期的に補充をしている。今年の1月に文学研究科が無料ナプキンの設置を開始し、3月末からは吉田南構内、理学研究科、工学研究科で試行設置が始まった。京大での学生有志の取り組みと、京大の動きを追う。(史)
文学研 3か所に生理用品を設置 「学生の行動力に心動かされた」
人事部 2か月間の試行調査を開始 企業の無料提供を受け
文学部の4回生は、昨年6月から『無料ナプキン設置計画@京大』として、学内の約20箇所の女性トイレに自費で生理用品を設置している。なぜこの活動を始め、どんな反応を受けてきたのだろう。活動の意図や思いを訊いた。 なお、所属回生は取材した3月18日時点。 (=本部構内にて、史)
―昨年の夏頃に文学部棟のトイレで無料設置の生理用ナプキンを見かけた。この取り組みを始めた経緯は。
立命館大学茨木キャンパスに行った際、女性トイレに父母会による無料ナプキンが設置されているのを見たのがきっかけ。京大に通う経済的に厳しい学生は、「生理の貧困」に直面している可能性があるのではないかと考えた。
また、月経がある人は、月経による身体的・精神的負担に加え、生理用品を購入する経済的負担と、生理周期を予測して携帯し、交換のタイミングを見計らわなくてはならない心理的負担を強いられる。トイレにナプキンが常備されることで、経済的負担と心理的負担を解消できると思った。
過去にナプキンの無料配布を行った男女共同参画センターに話を聞きに行くも、コロナ禍で京都市から現物支給されたナプキンを配布していたとのことで、「今後無料ナプキンのための予算が出る見込みはない」と言われた。そこで、利用実績を記録して京大に必要性を訴えるため、試行的な設置を開始した。
―どこに設置したのか。
当初は北部構内に6か所、本部構内に9か所、吉田南構内に4か所、南部構内に5か所の計24か所に設置した。
しかし、そのうちの9か所は各部局の判断で撤去された。理学部は、小さな貼り紙に「撤去してください」と書いてあり、しばらく様子を見ていたら撤去された。また、物理系の女性トイレがとても綺麗だと思っていたら、純粋に女性が少なく全然利用されていないようだった。夏頃、関係者以外が立ち入ることができなくなり、補充を諦めた。北部食堂の2階の女性トイレにも設置したがすぐに撤去された。生協管轄の場所は取り扱いが異なるのかもしれない。
附属図書館では、設置の翌日に撤去依頼の連絡が来た。職員のメールには、個人的に趣意に賛同し、すばらしい取り組みだと思うとしながらも、附属図書館が管理できない物品により事故が起きた場合に責任を取れないこと、衛生用品という性質上「由来のわからないもの」を敬遠する利用者がいる可能性を踏まえての対応だと書いてあった。生理用品の設置は、間接的に学習・研究に良い影響をもたらすとして、無料ナプキンの意義を説明したが、予算の関係からすぐに実現することは難しいとの回答があった。
人間健康科学科の建物の各階に設置し、半年以上活発に利用されていたものの、冬頃に撤去されてしまった。
吉田南総合館西棟や国際高等教育院などは入試会場としても利用されているが、試験を経ても撤去されていなかった。
―設置の状況は。
全て補充しようとすると30個ほど入った大容量パックを最低2つは使用するので、一度に1200円ほどの支出がある。モチベーションによって差があるが、大体1か月に一度くらいのペースで補充している。
実際に使用枚数のデータを集めようとすると、かなりの負担があったので、今は調査していない。全ての箇所の設置には2時間程度かかるが、補充に行くこと自体は、あまり大変だと感じていない。むしろ、この活動に対して経済的・時間的に何も負担していない人から、口先だけで問題点を指摘されることの方が落ち込む。
―これまでにかかった諸経費の合計金額は。カンパなどがあるのか。
生理用品の購入に1万2千円ほど支払った。哲学の分野でジェンダー関連の研究に取り組む方から、5000円のカンパをいただいた。残りの費用は、私が自腹で支払っている。活動を続ける限り、負担額も増え続ける。
設置ケースに貼ったメッセージで、利用者に未使用品を入れるよう呼びかけている。現物での寄付は文学部棟で盛んに行われていた。農学部棟ではパッケージ単位で現物寄付してくれる方がいてありがたい。
―活動は一人で行っている。
最初はグループで活動をしようと考えていた。乏しいツテを辿って、様々な学部・研究科の学生で10人ほどのライングループを作り、所属部局で一番よく使われている女性トイレを教えてもらった。
しかし、附属図書館からの撤去依頼を受け、グループ内で「学生が勝手に設置している状態はまずい」との意見が出た。私は、大学が学生による無料ナプキン設置を認めることは、大学が無料ナプキンの必要性を認識しているにもかかわらず学生に費用と手間を負担させることを意味するので、許可が下りる可能性は低いと考えていた。また、昨今の大学による管理体制の強化を考えても許可が出る見込みは低いと思い、黙認してもらうのが最善策だと考えていた。グループ内で認識の共有を怠ったことは反省しているものの、大学側の許可を取らず自主的な活動としたのは一つの戦略でもある。
他にも「設置者がわからないナプキンを使うのが不安」「必要以上に持っていく人がいるかも」という意見も出た。これを受けてアンケートに答えるとナプキンが1つだけ出てくる専用容器を作る方法も模索したが、費用と技術的な問題から実現できなかった。
仲間を増やすことで全学的なムーブメントにしたいと思っていたが、大学との関係性や衛生観念などの認識を一致させるのは難しそうだったため、一人で活動を続けることにした。たまに親しい友人が補充を手伝ってくれることもあった。
―活動を通して思うことはあるか。
今までにも無料ナプキン設置を求める声があったと聞いたことがあるが、前述のように無料ナプキン設置には多くの課題があり、先人たちもどこかで試みを挫かれてきたのではと想像している。大学が予算を理由に無料ナプキン設置を拒むのであれば、少しでも経済的・時間的に余裕のある私が自腹を切ってでもナプキンを置いて、無料ナプキンがある状態をスタンダードにする、言い換えれば無料ナプキンがなくなると困る状態にするしかない。今の方式に多くの問題点があることは承知しているが、とにかく設置を続けることで多くの人の目に触れさせ、問題提起したという点で意義があると思う。
―今年1月から、文学研が生理用品の設置を開始した。
ある日、文学部棟の女性トイレの鏡に「活動について話を聞きたい」という手紙が貼ってあった。総務掛に出向き、活動の経緯などの資料を共有した。
どれだけ補充を頑張っても前進している感覚がなく、いつまで続けられるのかも分からない状況だったから、応答があったことが何より嬉しかった。
文学部が設置したことで、部局による公式設置が可能だと示された。附属図書館からのメールにも、「他の施設でも当たり前に設置されるようになれば、図書館でも実現すると思う」と記載があったし、前例になることを期待したい。
―今後の活動について。
利用者がいるから、やめるのも難しい。大学の全面的な設置が開始するまで続けるつもり。もしもやめるとすれば、活動終了に至った経緯をまとめた紙を跡地に貼って、利用者に引き上げることを伝えるとともに後進に期待したい。ただ、当面は続けようと思っている。
全学的な設置が実現すれば、「すごく便利になった」と思う人がいるはず。ただ、発案から実行まで約1年間ナプキン補充のために足を動かした学生がいたと知られることなく、無料ナプキン設置があたかも「時代の空気によって自動的に実現した」と思われるのではないかと想像すると、やるせなくなる。
もし学生が自費で生理用品を設置している状況をおかしいと思う人がいるのなら、各部局に対して声を上げてほしい。〈了〉
×印では部局の判断で撤去されたり、持ち帰りを要請されたりしたという。
文学研究科は、1月より文学部校舎の多目的トイレと2つの女性トイレに設置を開始した。ホームページでは、先行して活動する文学部の学生から話を聞き、月経のある学生が安心して学生生活を送れるように設置を開始したと説明する。設置に至るまでの経緯や、設置の費用などを取材した。
文学研究科は、昨年6月頃から文学部校舎の2つの女性トイレに無料ナプキンが置かれていることを把握していたという。設置団体の身元や意図を確認するために、「無料ナプキン設置計画@京大」と懇談の機会を作り、学生有志による活動だと知った。活動内容やニーズを知り、学生のボランティア活動に委ねるのではなく、研究科の施策として取り組むべき問題であるとの結論に至り、研究科として設置を開始した。
設置費用は運営費交付金から拠出している。取材時点で、2160枚を購入し、1万6千円程度の支出があった。各トイレに掲示されている交換表を参照し、編集部で計算したところ、設置から現時点までで合計198枚が補充されていた。
懇談の場で、「『生理の貧困』という経済的な問題だけでなく、月経による出血がいつ始まるかわからないという心理的負担によって教育研究活動が中断・妨害される可能性があることを大学に知ってほしい。問題解決のために、トイレに備品としてナプキンを設置することが不可欠である」という学生の主張に共感したという。加えて、「『大学を動かすために、自分達ができることから取り組もう』と、吉田キャンパスの各構内の利用頻度が高いトイレの調査を始め、時には説明なく撤去されたり拒否されたりしながらも、自費やカンパを原資として設置や補充の活動を続けた学生の行動力に心を動かされた」と説明する。今後について、「文学研究科を始めとして、全学に生理用品の無料設置が拡がればよい」との期待を示した。
昨年1月、京大が設置する学生意見箱に構内の全トイレに生理用品の設置を求める声が投稿された。昨年10月の本紙の取材に対して、京大は予算面が主な課題として設置が難しいと回答していた。
京大は、企業からサニタリーボックスの提供を受け、3月25日から吉田南構内と理学研究科・工学研究科(吉田・桂)で生理用品とディスペンサーの試行設置を行う。その背景や意図を訊いた。
人事部のダイバーシティ推進室は、必要経費の把握や利用者のニーズ調査を行うため、3月25日から5月23日まで生理用品の試行設置を行うと発表した。対象は、吉田南構内と理学研究科・工学研究科(吉田・桂)で、株式会社トーカイから無償で生理用品とディスペンサー(使用済みの生理用品などを廃棄する箱)の提供を受ける。
昨年6月頃から検討を進め、 広告閲覧型のサービスを提供する企業や大阪大、文学研究科の事例を調査してきた。設置形式について、和式トイレが多く残るため、ディスペンサー用の電源やWi-Fiの設置は予算的に難しく、広告閲覧型のサービスではなく、生理用品のディスペンサーを設置する方式が現実的だと考えていた。
12月、株式会社トーカイからサニタリーボックスをレンタルすることで、生理用品の提供や補充を無料で行うサービスの紹介があった。試行では、サニタリーボックスを無料で利用できるほか、トイレ清掃契約を変更する必要がなく、期間中の利用数の提供やアンケートの実施の提案があり、実施を決めたと説明する。加えて株式会社トーカイの小野木会長は、京大の卒業生で岐阜同窓会会長を務めており、「異例」の124か所のトイレ(290の個室)へのディスペンサー、サニタリーボックスの設置が可能になったことも1つの理由だという。
実施部局は、ダイバーシティ推進室に対して事前に問い合わせのあった部局に協力を依頼した。12月以前から学内の会議等で話題になり、是非やりたいと意欲を示した部局があったという。総合人間学部、人間・環境学研究科のある吉田南構内は学生が多いこと、理学研究科・工学研究科は女子学生増加に積極的で、今年度、トイレの改修を行ったことも選定の理由だとした。
吉田南構内と理学研究科・工学研究科の設置場所は右の表の通り。トイレに紙製の生理用ナプキンのディスペンサーを、個室内にサニタリーボックスを設置する。なお、同時に利用者へのアンケートでニーズ調査を行う。
今回、株式会社トーカイのグループ会社である株式会社リースキンが販売するサニタリーボックス「ルーナスプリム」が各個室に設置されている。試行時期は無料での提供だというが、実際に設置が始まった場合、どの程度の資金を拠出することになるのだろうか。ホームページに掲載してある料金を基に試算してみた。
リースキンは、ホームページにて消臭剤と定期メンテナンス込みのレンタルで月額2200円、専用消臭袋は50枚入りで2178円と公開している。今回提供されたのは、289個。単純にボックスのレンタル代のみで計算した場合、1ヶ月あたり約63万円程度の費用が必要になる。年間では756万円がかかる見通しだ。
他大学の例をあげると、大阪大では3キャンパス33施設に、計249台のディスペンサーを設置した。ディスペンサーは1台5千円で、生理用品代の概算は1台あたり年間1万5千円。これをもとに編集部で計算すると、ディスペンサーの購入に約125万円、生理用品の購入に年間約373万円かかることが分かった。
京大はこれまで予算面で課題があるとして、設置が難しいと説明してきた。試行期間が終わった後、設置を続けるか、その場合どのような形式を選択するか注視したい。
・インタビュー
「生理用品の無料設置 社会的な浸透目指す」杉田映理 教授(大阪大・人間科学研)
「揺らぎ認める社会に」小塩若菜さん(院生)
・取材
京大 必要性理解も設置できず 「予算面が主な課題」
文科省 入試要項に「月経随伴症状」明記 在籍校での欠席扱い 配慮求める
大王製紙 1年分の生理用品を無償で配布 入手が難しい学生を支援
第2回 生理用品設置 国立大の現状に迫る(24年12月1日号)
・取材 生理用品を設置する10の国立大学
福島大、埼玉大、東京大(教養学部)、東京科学大(旧東京工業大)、横浜国立大、大阪大、神戸大、九州工業大(飯塚キャンパス)、長崎大(文教キャンパス・坂本キャンパス)、宮崎大(地域資源創成学部・医学部・工学部・農学部)
企画の初回を掲載したのは、昨年の11月。これまでに、大阪大・杉田教授のインタビューや、すでに無料設置を行う10の国立大学へ実施の経緯や規模を取材してきた。
京大では、昨年6月頃から学内の女性トイレに学生有志『無料ナプキン設置計画@京大』が自主的に生理用品を設置し、定期的に補充をしている。今年の1月に文学研究科が無料ナプキンの設置を開始し、3月末からは吉田南構内、理学研究科、工学研究科で試行設置が始まった。京大での学生有志の取り組みと、京大の動きを追う。(史)
編集部注:月経がある人が全て女性とは限らず、女性でも月経のない人もいる。近年、月経研究では「menstruator」(月経のある人)という呼称を用いる。ただし、本稿では月経のある人を便宜上「女子」「女性」と呼ぶ。
目次
自主的な設置で「日常」変える 学生有志(文学部4回生)インタビュー文学研 3か所に生理用品を設置 「学生の行動力に心動かされた」
人事部 2か月間の試行調査を開始 企業の無料提供を受け
自主的な設置で「日常」変える 学生有志(文学部4回生)インタビュー
文学部の4回生は、昨年6月から『無料ナプキン設置計画@京大』として、学内の約20箇所の女性トイレに自費で生理用品を設置している。なぜこの活動を始め、どんな反応を受けてきたのだろう。活動の意図や思いを訊いた。 なお、所属回生は取材した3月18日時点。 (=本部構内にて、史)
立命館の設置見て
―昨年の夏頃に文学部棟のトイレで無料設置の生理用ナプキンを見かけた。この取り組みを始めた経緯は。
立命館大学茨木キャンパスに行った際、女性トイレに父母会による無料ナプキンが設置されているのを見たのがきっかけ。京大に通う経済的に厳しい学生は、「生理の貧困」に直面している可能性があるのではないかと考えた。
また、月経がある人は、月経による身体的・精神的負担に加え、生理用品を購入する経済的負担と、生理周期を予測して携帯し、交換のタイミングを見計らわなくてはならない心理的負担を強いられる。トイレにナプキンが常備されることで、経済的負担と心理的負担を解消できると思った。
過去にナプキンの無料配布を行った男女共同参画センターに話を聞きに行くも、コロナ禍で京都市から現物支給されたナプキンを配布していたとのことで、「今後無料ナプキンのための予算が出る見込みはない」と言われた。そこで、利用実績を記録して京大に必要性を訴えるため、試行的な設置を開始した。
―どこに設置したのか。
当初は北部構内に6か所、本部構内に9か所、吉田南構内に4か所、南部構内に5か所の計24か所に設置した。
しかし、そのうちの9か所は各部局の判断で撤去された。理学部は、小さな貼り紙に「撤去してください」と書いてあり、しばらく様子を見ていたら撤去された。また、物理系の女性トイレがとても綺麗だと思っていたら、純粋に女性が少なく全然利用されていないようだった。夏頃、関係者以外が立ち入ることができなくなり、補充を諦めた。北部食堂の2階の女性トイレにも設置したがすぐに撤去された。生協管轄の場所は取り扱いが異なるのかもしれない。
附属図書館では、設置の翌日に撤去依頼の連絡が来た。職員のメールには、個人的に趣意に賛同し、すばらしい取り組みだと思うとしながらも、附属図書館が管理できない物品により事故が起きた場合に責任を取れないこと、衛生用品という性質上「由来のわからないもの」を敬遠する利用者がいる可能性を踏まえての対応だと書いてあった。生理用品の設置は、間接的に学習・研究に良い影響をもたらすとして、無料ナプキンの意義を説明したが、予算の関係からすぐに実現することは難しいとの回答があった。
人間健康科学科の建物の各階に設置し、半年以上活発に利用されていたものの、冬頃に撤去されてしまった。
吉田南総合館西棟や国際高等教育院などは入試会場としても利用されているが、試験を経ても撤去されていなかった。
補充に2時間
―設置の状況は。
全て補充しようとすると30個ほど入った大容量パックを最低2つは使用するので、一度に1200円ほどの支出がある。モチベーションによって差があるが、大体1か月に一度くらいのペースで補充している。
実際に使用枚数のデータを集めようとすると、かなりの負担があったので、今は調査していない。全ての箇所の設置には2時間程度かかるが、補充に行くこと自体は、あまり大変だと感じていない。むしろ、この活動に対して経済的・時間的に何も負担していない人から、口先だけで問題点を指摘されることの方が落ち込む。
―これまでにかかった諸経費の合計金額は。カンパなどがあるのか。
生理用品の購入に1万2千円ほど支払った。哲学の分野でジェンダー関連の研究に取り組む方から、5000円のカンパをいただいた。残りの費用は、私が自腹で支払っている。活動を続ける限り、負担額も増え続ける。
設置ケースに貼ったメッセージで、利用者に未使用品を入れるよう呼びかけている。現物での寄付は文学部棟で盛んに行われていた。農学部棟ではパッケージ単位で現物寄付してくれる方がいてありがたい。
―活動は一人で行っている。
最初はグループで活動をしようと考えていた。乏しいツテを辿って、様々な学部・研究科の学生で10人ほどのライングループを作り、所属部局で一番よく使われている女性トイレを教えてもらった。
しかし、附属図書館からの撤去依頼を受け、グループ内で「学生が勝手に設置している状態はまずい」との意見が出た。私は、大学が学生による無料ナプキン設置を認めることは、大学が無料ナプキンの必要性を認識しているにもかかわらず学生に費用と手間を負担させることを意味するので、許可が下りる可能性は低いと考えていた。また、昨今の大学による管理体制の強化を考えても許可が出る見込みは低いと思い、黙認してもらうのが最善策だと考えていた。グループ内で認識の共有を怠ったことは反省しているものの、大学側の許可を取らず自主的な活動としたのは一つの戦略でもある。
他にも「設置者がわからないナプキンを使うのが不安」「必要以上に持っていく人がいるかも」という意見も出た。これを受けてアンケートに答えるとナプキンが1つだけ出てくる専用容器を作る方法も模索したが、費用と技術的な問題から実現できなかった。
仲間を増やすことで全学的なムーブメントにしたいと思っていたが、大学との関係性や衛生観念などの認識を一致させるのは難しそうだったため、一人で活動を続けることにした。たまに親しい友人が補充を手伝ってくれることもあった。
―活動を通して思うことはあるか。
今までにも無料ナプキン設置を求める声があったと聞いたことがあるが、前述のように無料ナプキン設置には多くの課題があり、先人たちもどこかで試みを挫かれてきたのではと想像している。大学が予算を理由に無料ナプキン設置を拒むのであれば、少しでも経済的・時間的に余裕のある私が自腹を切ってでもナプキンを置いて、無料ナプキンがある状態をスタンダードにする、言い換えれば無料ナプキンがなくなると困る状態にするしかない。今の方式に多くの問題点があることは承知しているが、とにかく設置を続けることで多くの人の目に触れさせ、問題提起したという点で意義があると思う。
文学研がモデルに
―今年1月から、文学研が生理用品の設置を開始した。
ある日、文学部棟の女性トイレの鏡に「活動について話を聞きたい」という手紙が貼ってあった。総務掛に出向き、活動の経緯などの資料を共有した。
どれだけ補充を頑張っても前進している感覚がなく、いつまで続けられるのかも分からない状況だったから、応答があったことが何より嬉しかった。
文学部が設置したことで、部局による公式設置が可能だと示された。附属図書館からのメールにも、「他の施設でも当たり前に設置されるようになれば、図書館でも実現すると思う」と記載があったし、前例になることを期待したい。
―今後の活動について。
利用者がいるから、やめるのも難しい。大学の全面的な設置が開始するまで続けるつもり。もしもやめるとすれば、活動終了に至った経緯をまとめた紙を跡地に貼って、利用者に引き上げることを伝えるとともに後進に期待したい。ただ、当面は続けようと思っている。
全学的な設置が実現すれば、「すごく便利になった」と思う人がいるはず。ただ、発案から実行まで約1年間ナプキン補充のために足を動かした学生がいたと知られることなく、無料ナプキン設置があたかも「時代の空気によって自動的に実現した」と思われるのではないかと想像すると、やるせなくなる。
もし学生が自費で生理用品を設置している状況をおかしいと思う人がいるのなら、各部局に対して声を上げてほしい。〈了〉
◆北部構内 6
農 2
×理 3、北食 1
◆本部構内 9
文 2、法 3、経済 1、教育 1
×附属図書館 2
◆吉田南構内 4
国際高等教育院 1、総人棟 1
吉田南図書館 1、共西 1
◆南部構内 5
薬・藤多記念ホール 1
臨床研究棟3号館 1
×人健棟 3
吉田キャンパスにて学生有志が設置を行った場所。当初は24か所に設置した。
農 2
×理 3、北食 1
◆本部構内 9
文 2、法 3、経済 1、教育 1
×附属図書館 2
◆吉田南構内 4
国際高等教育院 1、総人棟 1
吉田南図書館 1、共西 1
◆南部構内 5
薬・藤多記念ホール 1
臨床研究棟3号館 1
×人健棟 3
×印では部局の判断で撤去されたり、持ち帰りを要請されたりしたという。
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文学研 3か所に生理用品を設置 「学生の行動力に心動かされた」
文学研究科は、1月より文学部校舎の多目的トイレと2つの女性トイレに設置を開始した。ホームページでは、先行して活動する文学部の学生から話を聞き、月経のある学生が安心して学生生活を送れるように設置を開始したと説明する。設置に至るまでの経緯や、設置の費用などを取材した。
文学研究科は、昨年6月頃から文学部校舎の2つの女性トイレに無料ナプキンが置かれていることを把握していたという。設置団体の身元や意図を確認するために、「無料ナプキン設置計画@京大」と懇談の機会を作り、学生有志による活動だと知った。活動内容やニーズを知り、学生のボランティア活動に委ねるのではなく、研究科の施策として取り組むべき問題であるとの結論に至り、研究科として設置を開始した。
設置費用は運営費交付金から拠出している。取材時点で、2160枚を購入し、1万6千円程度の支出があった。各トイレに掲示されている交換表を参照し、編集部で計算したところ、設置から現時点までで合計198枚が補充されていた。
懇談の場で、「『生理の貧困』という経済的な問題だけでなく、月経による出血がいつ始まるかわからないという心理的負担によって教育研究活動が中断・妨害される可能性があることを大学に知ってほしい。問題解決のために、トイレに備品としてナプキンを設置することが不可欠である」という学生の主張に共感したという。加えて、「『大学を動かすために、自分達ができることから取り組もう』と、吉田キャンパスの各構内の利用頻度が高いトイレの調査を始め、時には説明なく撤去されたり拒否されたりしながらも、自費やカンパを原資として設置や補充の活動を続けた学生の行動力に心を動かされた」と説明する。今後について、「文学研究科を始めとして、全学に生理用品の無料設置が拡がればよい」との期待を示した。
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人事部 2か月間の試行調査を開始 企業の無料提供を受け
昨年1月、京大が設置する学生意見箱に構内の全トイレに生理用品の設置を求める声が投稿された。昨年10月の本紙の取材に対して、京大は予算面が主な課題として設置が難しいと回答していた。
京大は、企業からサニタリーボックスの提供を受け、3月25日から吉田南構内と理学研究科・工学研究科(吉田・桂)で生理用品とディスペンサーの試行設置を行う。その背景や意図を訊いた。
人事部のダイバーシティ推進室は、必要経費の把握や利用者のニーズ調査を行うため、3月25日から5月23日まで生理用品の試行設置を行うと発表した。対象は、吉田南構内と理学研究科・工学研究科(吉田・桂)で、株式会社トーカイから無償で生理用品とディスペンサー(使用済みの生理用品などを廃棄する箱)の提供を受ける。
昨年6月頃から検討を進め、 広告閲覧型のサービスを提供する企業や大阪大、文学研究科の事例を調査してきた。設置形式について、和式トイレが多く残るため、ディスペンサー用の電源やWi-Fiの設置は予算的に難しく、広告閲覧型のサービスではなく、生理用品のディスペンサーを設置する方式が現実的だと考えていた。
12月、株式会社トーカイからサニタリーボックスをレンタルすることで、生理用品の提供や補充を無料で行うサービスの紹介があった。試行では、サニタリーボックスを無料で利用できるほか、トイレ清掃契約を変更する必要がなく、期間中の利用数の提供やアンケートの実施の提案があり、実施を決めたと説明する。加えて株式会社トーカイの小野木会長は、京大の卒業生で岐阜同窓会会長を務めており、「異例」の124か所のトイレ(290の個室)へのディスペンサー、サニタリーボックスの設置が可能になったことも1つの理由だという。
実施部局は、ダイバーシティ推進室に対して事前に問い合わせのあった部局に協力を依頼した。12月以前から学内の会議等で話題になり、是非やりたいと意欲を示した部局があったという。総合人間学部、人間・環境学研究科のある吉田南構内は学生が多いこと、理学研究科・工学研究科は女子学生増加に積極的で、今年度、トイレの改修を行ったことも選定の理由だとした。
吉田南構内と理学研究科・工学研究科の設置場所は右の表の通り。トイレに紙製の生理用ナプキンのディスペンサーを、個室内にサニタリーボックスを設置する。なお、同時に利用者へのアンケートでニーズ調査を行う。
設置費用を試算
今回、株式会社トーカイのグループ会社である株式会社リースキンが販売するサニタリーボックス「ルーナスプリム」が各個室に設置されている。試行時期は無料での提供だというが、実際に設置が始まった場合、どの程度の資金を拠出することになるのだろうか。ホームページに掲載してある料金を基に試算してみた。
リースキンは、ホームページにて消臭剤と定期メンテナンス込みのレンタルで月額2200円、専用消臭袋は50枚入りで2178円と公開している。今回提供されたのは、289個。単純にボックスのレンタル代のみで計算した場合、1ヶ月あたり約63万円程度の費用が必要になる。年間では756万円がかかる見通しだ。
他大学の例をあげると、大阪大では3キャンパス33施設に、計249台のディスペンサーを設置した。ディスペンサーは1台5千円で、生理用品代の概算は1台あたり年間1万5千円。これをもとに編集部で計算すると、ディスペンサーの購入に約125万円、生理用品の購入に年間約373万円かかることが分かった。
京大はこれまで予算面で課題があるとして、設置が難しいと説明してきた。試行期間が終わった後、設置を続けるか、その場合どのような形式を選択するか注視したい。

◆吉田キャンパス
・本部構内
工学部物理系校舎 8
工学部総合校舎 6
総合研究9号館 4
電気総合館 1
総合研究4号館 1
・吉田南構内
総合人間学部棟 4(1️)
吉田南1号館 2(1)
吉田南総合館西棟 4
吉田南総合館北棟 14(5)
吉田南4号館 3
国際高等教育院棟 2(1)
人間・環境学研究科棟 1
吉田南図書館 2(1)
・北部構内
理学研究科2号館東側 1
理学研究科6号館南棟 3
◆桂キャンパス
・Aクラスター
A1棟 9、A2棟 5
A3棟 5、A4棟 8
・Bクラスター
総合研究・管理棟 7
桂図書館 2
・Cクラスター
C1棟 12、C2棟 5
C3棟 14
今回試行設置を行う場所(大学の資料を参照)。()内はそのうちの多目的トイレを示す。トイレにナプキンボックスの設置があるほか、各個室に提供を受けたサニタリーボックスを置く。
・本部構内
工学部物理系校舎 8
工学部総合校舎 6
総合研究9号館 4
電気総合館 1
総合研究4号館 1
・吉田南構内
総合人間学部棟 4(1️)
吉田南1号館 2(1)
吉田南総合館西棟 4
吉田南総合館北棟 14(5)
吉田南4号館 3
国際高等教育院棟 2(1)
人間・環境学研究科棟 1
吉田南図書館 2(1)
・北部構内
理学研究科2号館東側 1
理学研究科6号館南棟 3
◆桂キャンパス
・Aクラスター
A1棟 9、A2棟 5
A3棟 5、A4棟 8
・Bクラスター
総合研究・管理棟 7
桂図書館 2
・Cクラスター
C1棟 12、C2棟 5
C3棟 14
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【特集「大学生と月経」のこれまで】
第1回 教育現場での取り扱いを追う(24年11月16日号)・インタビュー
「生理用品の無料設置 社会的な浸透目指す」杉田映理 教授(大阪大・人間科学研)
「揺らぎ認める社会に」小塩若菜さん(院生)
・取材
京大 必要性理解も設置できず 「予算面が主な課題」
文科省 入試要項に「月経随伴症状」明記 在籍校での欠席扱い 配慮求める
大王製紙 1年分の生理用品を無償で配布 入手が難しい学生を支援
第2回 生理用品設置 国立大の現状に迫る(24年12月1日号)
・取材 生理用品を設置する10の国立大学
福島大、埼玉大、東京大(教養学部)、東京科学大(旧東京工業大)、横浜国立大、大阪大、神戸大、九州工業大(飯塚キャンパス)、長崎大(文教キャンパス・坂本キャンパス)、宮崎大(地域資源創成学部・医学部・工学部・農学部)