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超伝導の技術開発 絶対零度で振る舞う原子

2010.06.23

理学研究科物理学・宇宙物理学専攻の山下穣助教、芝内孝禎准教授、松田祐司教授の研究グループは絶対零度の状態でも凍ることのない量子スピン液体が熱伝導性を示すことを発見した。この研究は理化学研の加藤礼三主任研究員らの研究グループとの共同研究である。

温度を下げると一般に液体状態の物質は物質中の分子が運動エネルギーを失い、秩序を持って整列することにより固体となるが、絶対零度(マイナス273・15度)にまで温度が下がると完全に粒子の運動が停止する。しかし、ミクロの世界を記述する量子力学によると、絶対零度においても原子は揺らぎながら運動することが可能なものもある。原子は個々がミクロな磁石の性質をもっており、この原子を構成する電子の自転からくる性質をスピンと呼ぶ。このスピンは絶対零度に近くになると急激に規則的に整列して向きがそろう。

ところが、三角形格子上に互いにスピンが異なる向きに並んだ場合、スピンは安定な状態にとどまらず前述の量子力学的効果も加わり絶対零度でも液体状態にとどまることが可能である。このような液体を量子スピン液体という。電気や熱の伝導の媒介は電子であるため電気を通さない絶縁体の物質は熱をほとんど伝えることはない。

しかし、今回研究グループは絶対零度付近まで冷却した量子スピン液体状態を持つ有機物質(EtMe8Sb〔Pd(dmit)2〕2)が絶縁体であるにもかかわらず熱伝導性があることを発見した。

この実験結果は絶対零度付近での物質の新しい凝縮状態の理解につながると重要視されている。また量子スピン液体状態は超伝導と密接な関係を持っていることも指摘されていることから新しい超伝導発現機構の解明も期待されている。

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