「進化的トラップ」寄生生物にも存在か ハリガネムシ研究が示唆
2024.12.01
理学研究科・澤田侑那修士課程学生(研究当時)、生態学研究センター・佐藤拓哉准教授らのグループは10月15日、ハリガネムシに寄生されたカマキリが「進化的トラップ」の影響でアスファルトに引き寄せられ、ハリガネムシとともに死んでいる可能性を示した。進化的トラップが宿主を介して寄生生物にまで及んでいることが世界で初めて示されたという。
野生生物は光や匂いなど環境の変化を感知して、よりよい生息地や繁殖相手などを選択する。これらは通常、生物にとってメリットとなるが、人間がもたらす急激な環境変化は時に生物にとって不利益に働くこともある。これを「進化的トラップ」と呼ぶ。また、寄生生物の中には、感染率の向上や繁殖の成功などのために、自らに有利なように宿主の形態・行動を変えさせる種も存在する。従来、この「延長された表現型」について様々な研究がされていたが、進化的トラップが宿主を介して寄生生物にまで及んでいるかはわかっていなかった。
カマキリに寄生するハリガネムシは、繁殖場所へと移動するために宿主を川や池へと入水させることが知られている。研究グループは以前、太陽光が水面に反射した光である「水平偏光」がこの現象を引き起こすことを明らかにしていた。水平偏光は電磁波の振動方向が水平方向に偏った光を指し、その偏りの度合は「偏光度」として表現される。
グループは今回、水平偏光をもとに水辺を探索する昆虫の多くが、進化的トラップの影響でアスファルト道路に引きつけられるという先行研究に着目。ハリガネムシに感染した「感染カマキリ」がアスファルトで死んでいるのは、水平偏光に誘引されて生じる「延長された表現型」についての進化的トラップであると仮説を立てた。
グループはまず、ハリガネムシの生息する枯れない水辺とアスファルトの水平偏光を測定した。結果、両者の偏光度が同様に高く、偏光度によって見分けることは困難であると結論付けた。また、感染カマキリが偏光度の違いに応じてアスファルトに引き寄せられるかを検証した。すると、感染カマキリは偏光度が高いほど水平偏光に引き寄せられる確率が高かったという。
次に、グループは圃場内に大型のビニールハウスを設置。ハウス内に偏光度の異なる4つの道路を作成し、放った感染カマキリの様子を観察した。すると、感染カマキリは偏光度の低いセメント道路上よりも、偏光度の高いアスファルト道路上を歩く頻度のほうが高いことが判明した。最後にグループは、アスファルト道路上でカマキリを採集し、感染率を測定した。すると、カマキリの本来の生息場所である樹上よりも高い確率で感染が確認されたという。
以上からグループは、今回の実験結果を「仮説を強く支持するもの」と結論付けた。今後は、寄生生物による宿主操作の機構解明とともに、人間の行動が与える影響についても明らかにする予定だ。
研究成果は10月15日に米国の国際学術雑誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載された。
野生生物は光や匂いなど環境の変化を感知して、よりよい生息地や繁殖相手などを選択する。これらは通常、生物にとってメリットとなるが、人間がもたらす急激な環境変化は時に生物にとって不利益に働くこともある。これを「進化的トラップ」と呼ぶ。また、寄生生物の中には、感染率の向上や繁殖の成功などのために、自らに有利なように宿主の形態・行動を変えさせる種も存在する。従来、この「延長された表現型」について様々な研究がされていたが、進化的トラップが宿主を介して寄生生物にまで及んでいるかはわかっていなかった。
カマキリに寄生するハリガネムシは、繁殖場所へと移動するために宿主を川や池へと入水させることが知られている。研究グループは以前、太陽光が水面に反射した光である「水平偏光」がこの現象を引き起こすことを明らかにしていた。水平偏光は電磁波の振動方向が水平方向に偏った光を指し、その偏りの度合は「偏光度」として表現される。
グループは今回、水平偏光をもとに水辺を探索する昆虫の多くが、進化的トラップの影響でアスファルト道路に引きつけられるという先行研究に着目。ハリガネムシに感染した「感染カマキリ」がアスファルトで死んでいるのは、水平偏光に誘引されて生じる「延長された表現型」についての進化的トラップであると仮説を立てた。
グループはまず、ハリガネムシの生息する枯れない水辺とアスファルトの水平偏光を測定した。結果、両者の偏光度が同様に高く、偏光度によって見分けることは困難であると結論付けた。また、感染カマキリが偏光度の違いに応じてアスファルトに引き寄せられるかを検証した。すると、感染カマキリは偏光度が高いほど水平偏光に引き寄せられる確率が高かったという。
次に、グループは圃場内に大型のビニールハウスを設置。ハウス内に偏光度の異なる4つの道路を作成し、放った感染カマキリの様子を観察した。すると、感染カマキリは偏光度の低いセメント道路上よりも、偏光度の高いアスファルト道路上を歩く頻度のほうが高いことが判明した。最後にグループは、アスファルト道路上でカマキリを採集し、感染率を測定した。すると、カマキリの本来の生息場所である樹上よりも高い確率で感染が確認されたという。
以上からグループは、今回の実験結果を「仮説を強く支持するもの」と結論付けた。今後は、寄生生物による宿主操作の機構解明とともに、人間の行動が与える影響についても明らかにする予定だ。
研究成果は10月15日に米国の国際学術雑誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載された。