ニュース

琉球遺骨 原告「総合博物館の検証を」 訴訟第8回口頭弁論

2021.03.16

2月26日、京都地方裁判所で、琉球遺骨返還請求訴訟の第8回口頭弁論が開かれた。遺骨の返還を求める原告団は、提出した準備書面の要旨を陳述し、沖縄県今帰仁村の百按司墓と京大総合博物館の現場検証を裁判所に求めた。原告は、被告京大側が、遺骨目録の一部を明らかにせず、管理の実態に不透明な部分があると追及している。

裁判では、京都帝国大学の研究者が沖縄県今帰仁村の百按司墓から持ち出した26体の遺骨について、百按司墓に埋葬されているとされる第一尚氏の子孫と琉球民族の合わせて5名が返還を求めている。今回の弁論に際し、原告は、京大による遺骨の管理のずさんさを指摘し、裁判所による現場検証を求めた。その根拠の一つとして原告は、京大のごみ集積所から1990年代に発見された木箱に記載されていた「人骨番号」やアイヌ遺骨に関わる文科省への報告書に基づくと、京大が現在開示している人骨目録は一部であり、それ以外の目録の存在が示唆されていると指摘。保有している全ての資料を公開しておらず、管理の実態も詳らかでない状況で京大が「適切に管理している」と主張するのは不適切と述べ、事実関係を明らかにするための検証を求めた。

次回口頭弁論は、5月21日に行われる。その後、証人尋問などが行われたのち、判決が下される。

京大 保管認めるも情報開示せず 沖縄県・渡久地古墓などの遺骨

裁判が進行する中で、訴訟での返還請求の対象となっていないものの、沖縄県本部町渡久地の古墓群から京大が持ち出し保管している遺骨があることが判明した。意見書を提出した板垣竜太・同志社大学教授によると、渡久地古墓群の遺骨は医学部講師の三宅宗悦が1933年に行った収集で持ち出されたという。京大が昨年12月に、渡久地古墓群の遺骨の保管を認めた。これに対し、訴訟の原告でもある玉城氏と松島氏がそれぞれ、湊総長宛に、保管に至る経緯や、現在の管理状況、研究利用の有無、保管の法的根拠などを問う質問状を昨年12月に出した。しかし京大は1月、総務部総務課が「係争中の案件を含む」として「回答を控えさせていただきます」と返した。

玉城氏は、渡久地古墓群の「大米須親方の墓」の祭祀継承者にあたる。玉城氏は2月1日、渡久地から持ち出された遺骨については訴訟の対象にはなっていないことを指摘し、総長による真摯な回答を要求するとともに、遺骨の収奪への謝罪や、研究利用の禁止、遺骨の返還を求めた。京大は2月25日、総務部総務課が「現在係争中の案件に関連する」として「回答は控えさせていただきます」と返答した。

「遺骨返還は先住民族の権利」 上村氏が講演

口頭弁論前日の25日に行われた集会では、国際法が専門の上村英明・恵泉女学園大学教授が基調講演を行った。日本の司法で初めてアイヌ民族を先住民族と認めた、1997年の二風谷ダム裁判について解説。先住民族の権利に関する国際法上の根拠や、その権利を確立するためになされた国際機関での議論の蓄積を紹介し、琉球遺骨に関しても先住民族の権利を適用して返還を実現することは可能だと述べた。

二風谷ダム裁判とは、ダム建設にあたりアイヌ民族の地権者が収用を取りやめるよう求めた裁判。札幌地裁は判決で、土地収用は違法と認めつつも、ダム本体が完成し湛水している現状から「収用裁決を取り消すことは公共の福祉に適合しない」として請求を棄却した。この裁判の中で、原告が、先住民族の土地に関する権利を主張し、判決では、アイヌ民族を先住民族と認定した。

上村教授によれば、裁判では、国内の司法でなかなか参照されない、国際法上の議論、国際機関の法規範を原告側が紹介したという。これらを受けて裁判所は、独自に、先住民族について見解を示した。それによると規準として、国家の支持母体である多数民族と異なる文化とアイデンティティを持つ少数民族であり、多数民族の支配を受けながらも、連続性のある文化やアイデンティティを喪失していない社会集団であることを挙げ、アイヌ民族の歴史を踏まえて先住民族と認定されるべきと述べた。

判決後には、先住民族の権利宣言に日本政府が賛成票を投じたほか、2008年にアイヌ民族は先住民族と国会で決議され、2019年には法律にも明記されるなど、一定の影響があった。こうした権利確立の歴史や国際機関の勧告を踏まえれば、琉球民族に対し先住民族としての権利を保障することは可能で、それが琉球遺骨返還にもつながると訴えた。

関連記事