文化

〈吉田寮問題〉川添理事・山極総長記者会見録

2019.01.16

1月17日、吉田寮現棟に対して、占有移転禁止の仮処分が執行された。本件に関し、同日に川添理事らが出席する記者会見が開かれた。また、2月4日の総長定例記者会見でも、本件が話題に上がった。紙面では、記者会見でのやりとりの一部を抜粋して掲載する。(編集部)

◆1月17日川添理事記者会見

寮との話し合いについて

記者 寮生との交渉が途切れているが、大学として話し合いに応じる可能性はあるか。
川添信介・学生担当理事(以下、理事) 2回(交渉を)行った後、吉田寮自治会と話し合える状況にはないと判断した。その状況は改善されていないと理解しているので、今回の仮処分の申し立てをせざるを得ないという判断になった。だから、今後、吉田寮自治会の諸君がこの事態を受けてどういう動きをするかということを、期待を持って見守っている。
記者 大学として話し合いに応じる条件は。
理事 個別のことなので、はっきりこれとこれ、と申し上げることはできないが、これまで我々が、話し合いができる状況にないと考えてきたことの最大のポイントとなるのは「吉田寮生の安全確保についての基本方針」。これは、寮生諸君の安全を第一に考えて制定したものだから、できるかぎり現棟に居住する者がいないようにすることに関して、積極的なあるいは建設的な、提案なり態度なりというものが、我々側に示されることが最低限であろう。
記者  現段階では話し合いは十分に尽くされていると考えているか。
理事  尽くされているかどうか、色々な解釈があるだろうが、我々が現状で話し合える状況ではないと申し上げている。寮生の諸君が我々の期待するようなレスポンスをしていないからだと言える。建設的に話し合って意見をお伺いすることに意味がある、基本的な話し合いの地盤ができたときには、できる限り話し合いをしたい、お互い意見交換をしながら物事を進めていくのは当然のことだろうと思う。
記者  安全を守るには、推移を見守るだけでなく、話し合いをすることも必要な手段の一つではないのか。
理事  話し合うことによってより早急な解決ができるという見通しが持てないというのが我々の判断。

「確約書には拘束されない」

記者 確約書を継承しないという方針のもとでは、寮生との信頼関係が保てないのではないか。
理事 確約書はこれまで「団交」という場で結ばれてきた。その団交というものが、通常の意味での話し合いとは言えないような、多数の寮生やその関係者と称する人々が、数の力による有形無形の圧力のもとで、長時間かけて、自治会の主張を何とか大学側に認めさせる、そういう形態をとっていたと理解している。だから、サインしてきたというのは事実だろうけれども、お互いの自由意志に基づく形の確約書であるとみなせない。また、確約書が、大学の公式な手続きを経て、サインされてきたわけではない。これらのことから、私としては、それ(確約書)に拘束されるものではないと理解してきた。
記者 確約書に関して、半ば強引に結ばれたというのは、誰がいつ結んだ確約について、どういう資料に基づいての認識か。
理事 私自身の経験に基づくと言ってもいい。私は約10年前に、寮問題の委員会の委員として12時間に及ぶ団交と称するものに参加して、当時の副学長がサインしている場に同席をした。少なくともあの場に関しては、もちろんその当時の副学長は自分の手を動かしたわけだから、自由意志があったと言える余地はあると思うが、全体の流れ、その話し合いの経過を見た場合に、それが自由意志に基づくようなものであるとはやはり通常の理解では認められない。
記者 2時間ほどで確約の締結の交渉が終わったこともあるが。
理事 もちろんいろいろありうる。それぞれの責任者が責任ある立場で判断されてきたのだろう。

【編集部注】

2012年、赤松明彦理事(当時)は、8月31日の交渉で吉田寮自治会から提出された確約書案を元に、同年9月11日の部局長会議にて確約の方針を説明し、反対意見がないことを確認して、寮自治会との交渉に臨んだ。その後、9月18日の交渉で確約の締結に至った。この確約で、新棟を大規模鉄筋コンクリート造と木造の混構造とすることが約束され、実際に新棟は混構造で建設された。つまり、大学の正式な会議での議論を経て確約書を結んだのである。

「確約書の骨格が問題」

記者 確約書すべてが、長時間に及ぶ団交で結ばれてきたという発言について、それは事実関係をどのように認識したものか。
理事 これまで結ばれてきた確約書の内容の骨格は、85年当時の学生部長の結んだ確約に基づくと理解している。その確約書を結ぶ全体の経緯については、詳細な資料が残っていて、全体の流れは、団交の現場そのものが、強制的なサインを求めるものであったかは別に、寮生諸君との間で、一種の強圧的な雰囲気と、その中での寮生諸君の態度で、大学側の決断において、一種の強制力が働いていたと理解している。
記者 具体的な資料があるという認識でいいか。
理事 私の経験とは別に文字資料があり、当時の関係者の証言を聞いたことがある。
記者 これまですべての確約が数の力で結ばれてきたと考えているのか。
理事 それは言い過ぎかもしれない。原型になるようなものが引き継がれてきていると私は理解している。時々によって新たな話題が付け加わったり、多少の変形が行われたりしているが、大学と自治会の関係についてのコアな部分は基本的に変わっていないと理解している。だからそれぞれの事情の中で、2時間の団交でサインしてきたことはあるかもしれないが、全体としては、大学側にとって満足すべき、意にかなったものであったという理解は到底できないと思っている。
記者 大学と寮生の間で確約書を結ぶということに象徴されている、学生の自治というものを認める必要はないという認識か。
理事 自治という言葉に何を込めるかによる、としか言いようがない。

【編集部注】

そもそも1985年に学生部長(1985年9月までは加藤幹太氏、10月からは朝尾直弘氏)は吉田寮自治会との交渉を行なっていないため、確約書も結んでいない。

「反省を求めるのは当然」恫喝を否定せず

記者 昨年7月の寮生との話し合いのなかで、「恫喝と取ってもらって構わない」と理事は発言されていた。副学長という立場での学生に対するこの発言について、当時コメントを求めたが、聞いた段階では、「現段階ではコメントできることはない」との返答だった。今の考えはどうか。
理事 1回目の話し合いにおいて、私が一定程度声を荒げたと理解されるような仕方をしたことは事実だと認めざるを得ない。しかし、文脈上は「基本方針」を出さざるを得ないようになったこれまでの吉田寮自治会の諸君の無責任なあり方を咎めるべくそう言った。それに対して、寮生のひとりが「恫喝だ」と言ったので、「それはそう取りたければそう取ってもらって構わない」と申し上げた。立場が異なるから配慮すべきだったといえばそうだが、私としては、多少強めの言葉で学生諸君の反省を求めるのは当然のことであった。恫喝と呼ぶのは君たちが呼べば良いけれど、なぜ恫喝と呼びたくなるような言い方をされたのか理解してほしいと言った。
記者 理事に咎める自由はあるが、受け手が恫喝だと指摘したのに対し、「そう取ってもらって構わない」というのは、今大学においてアカデミックハラスメントなどハラスメントが問題になっているなかで、理事として開き直るという態度は、どうなのか。恫喝ではない、というのであれば一定納得するのだが。
理事 もちろん、私自身が恫喝のつもりで言っているわけではない。
記者 だがハラスメントというのは、受け手側の気持ちというものが大きなウェイトを占める。普通に考えて、今、コンプライアンス担当の副学長も同席されているなかで、受け手がハラスメントではないかと言っているのに対し、「ハラスメントと受け取ってもらって構わない」というのはどうなのか。
理事 恫喝を意図的にやる人間が、「恫喝と受け取ってもらって良い」と言うのか。私には恫喝をする意図はない。どう受け取られるかは受け手側の問題だが、それがハラスメントだと言われて、「恫喝と受け取ってもらって良い」と返事をする当の本人は恫喝しているつもりがないことは確かだ。
田頭吉一・教育推進学生支援部部長 私もその場に同席していたので付け加える。確かに川添理事が学生たちの無自覚な部分に対して叱るような形で声を荒げたのは事実。恫喝ではないかという学生もいる一方で、声が大きいことについては「悪かった」という話が会話の中ではあった。ですから、そのなかで、恫喝の部分だけが増幅されている形だが、その場においては、「声が大きくなってしまったことについては、悪かった」というような発言がある場面もあった。
記者 謝罪はしているということで良いか。
理事 大きな声をあげたことについては、謝罪をしたと思う。

【編集部注】

声を荒げたことについては謝罪をしたというのが理事の認識であることが表明されたが、この認識が正確な事実関係に基づいているとは言い難い。本紙が吉田寮自治会から入手した音声記録によると、理事が声を荒げた昨年7月13日の話し合いにおいて、理事から謝罪にあたる言葉は出ていない。さらに、昨年8月30日に開かれた話し合いでは、寮生から恫喝について謝罪を求める意見が出たが、理事は「いうべきことを言っただけ」として謝罪に応じない旨を繰り返し発言している。そして、吉田寮自治会の出した「180830交渉報告(詳細版)」(2018年10月10日付)では、「川添理事は、恫喝に謝罪するどころか居直る姿勢を見せた」と書かれており、少なくとも大声での叱責を受けた側が、謝罪がないと認識していることは確かだ。

「収容定員を増やしたい」

記者 今後の吉田寮のあり方についてはそう考えているのか。
理事 「吉田寮をなくす」ということの意味の問題。新棟を含めてなくすということは全く考えていない。収容定員を増やしたいという意向は大学全体として変わらないので、現棟を何らかの形で使えるようにしたいという意向は持っている。それをどういう仕方で対応をするかはまだ決めていない。
記者 寮自治会が入寮選考を行ってきたことについて、京大がこれまでどう認識してきたか。今後の寮のありかたを検討していくうえでどのようにしていくべきだと考えるか。
理事 寄宿舎規程の中では、厚生補導担当副学長が入寮を決定することになっている。ところが、30年程前から、実質的には、寮自治会を信頼して、寮自治会が選んだ学生が京都大学の寄宿舎に居住する寮生であるということを認めてきた事実があるので、見方によっては、寄宿舎規程と実態の間に乖離があったのではないかという理解の仕方はありうると思う。そのうえで、入寮選考を誰が行うべきかについて、これも選考のプロセスはいろいろな形がありうると思うが、現在の寄宿舎規程にある通り、決定権限は、やはり大学の副学長にあるのが適正な管理のためには当然だろう、と私は考えている。
記者 大学側の措置として、管理強化につながるという学生の声があるが。今後、吉田寮について細かい規程の追加などは検討しているか。
理事 一般論として、大学の管理責任として、適正な範囲での管理が必要だ。厳しくなるかどうかは、何を厳しいと感じるかによる。

「コストによって受けるサービス違って当然」

記者 吉田寮は経済的に困窮した学生のセーフティーネットとなっており、そのなかには、聴講生など「非正規」とされる学生もいる。学生の困っている声を受けどう考えるか。
理事 学部や大学院のいわゆる「正規」の学生と、聴講生や科目等履修生などの「非正規」の学生の間で、京都大学の福利厚生施設として、「非正規」学生を受け入れるようにすることは現時点では考えていない。京都大学という教育機関にどういう仕方で関わって勉学をするのか「正規」と「非正規」では違いがあり、支払ってもらえるコストによって受けるサービスは違って当然だと理解している。

◆2月4日山極総長記者会見

「合意に向けた対話を」

記者 吉田寮のことについて、総長が「お互いの信頼関係ができるようになるなら話し合いたい」と話していたが、お互いの信頼関係が担保できるというのはどういう状況か。
総長 我々は話し合いのルールを一応決めている。数をお互い決める、名乗る、お互いに撮影しないなど。また、総長としての意見だが、対話というのは、その話題についてお互いが建設的な話し合いになるという合意がなければやる意味はない。だから学生たちが主張する団交というものを私は拒否した。彼らが例えば話し合いによって、いくつかの提案を合意する希望があるならばそれはやる価値がある。我々もいつまでも我々自身の主張を言っているわけではない。ただ今の段階を、外から眺めていても、学生たちが言っていることを変えるつもりがなく、圧力をもって認めさせようとしているようにしか見えない。

【編集部注】

川添理事は昨年7月の寮自治会との話し合いにおいて、「合意するための場ではありません」と発言するなど、寮生との合意形成を繰り返し否定した。このような状況で、「建設的な話し合い」とは具体的にどのような状況を指すのか、総長は言及していない。

将来構想は未定

記者 吉田寮の学生が現棟の将来について大学が示していないとしているが、学長としては現棟についてどういう意見を持っているか。
総長 現棟についての将来構想を我々は何も提案していない。現棟の安全対策は不十分で、このまま住み続けるのは不可能だ。現棟の環境条件について責任を持つのは本学で、学生たちに何の責任もない。だから、とにかく学生たちに退去してもらって、それから現棟をどういう風に改築・補修するかについても、事細かに話し合いたいと思っている。
記者 学生の話を聞いていて、自治がなくなってしまうという不安があるようだ。だから、過剰に反応してしまうのでは。総長として、寮自治会の意義をどう考えているか。
総長 学生の自治は大いに意味があると思っている。だが、自治の内容については今の時代にそぐわないものもある。例えば、我々がいくら要求しても新入寮生募集を止めない。あれは誰の総意なのか。寮自治会は、名前も名乗らない。それでは交渉のしょうがない。一体だれが寮自治会の代表者であり、寮はどういう人たちによって組織されているのか。どこの部屋に誰が住んでいるのかわからない。これは自治会組織と言えるのか。京都大学は寮だけでなく、社会に対して様々ことを公表すべきだと言われていて、会計も何もかも全部示している。もちろん個人情報もあるので公表できない部分もあるかもしれない。だが寮で事件が起こったときに、我々はどういう風に関与したらよいのか。こういったことが今の京都大学と自治会の間で何も取り沙汰されていない。こういう自治会では、我々は支援できない。誰がやっているのかもわからない。しかも、かなり外の人が入っている可能性がある。我々が把握していない外の人が入っている可能性がある。もちろん外の人が入るのを否定するつもりはない。だが、どういう人たちがどういう形で関わっているかを我々がわからない以上、やはり何が起こっても我々は責任が取れない。
記者 総長としては、大学側が歩み寄れる要素はなく学生から歩み寄るのを待つしかない、できることは全てしているという認識か。
総長 話し合いをするための最低の条件を示している。それは別に、吉田寮の自治会や学生にとって法外な要求ではない。こういう話し合いをしたい。そのためにとりあえず、安全性を確保できなければ、我々は責任を持てない。責任が持てる立場にしてもらってから話しをしましょう、ということ。

【編集部注】

寮生が「名前を名乗らない」とする総長の発言は、誤解を招く。昨年7月と8月に行われた川添理事と吉田寮自治会の交渉では、理事の求めに自治会が応じて交渉出席者の氏名や所属を明かした。また、寮自治会は1989年以降、毎月大学当局に対して居住者の名簿を提出している。

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