〈映画評〉『ちょっと今から仕事やめてくる』 仕事よりも大切なこと(2017.07.01)

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ブラック企業に勤める会社員の青山は、残業に疲れ果て、仕事帰りに駅のホームから転落しかけたところを、「同級生のヤマモト」を名乗る男に救われる。その日から、ヤマモトは何かと青山に付きまとい、居酒屋に誘ったり買い物に連れ出したりする。間もなく、彼が本当は同級生ではなかったことが判明するが、その後も青山の前に現れて、仕事の相談に乗るなど親身に接し続ける。

ある日、青山は墓地に行くバスに乗るヤマモトの姿を見かける。不審に思って調べると、ヤマモトと同じ名前で、全く同じ顔の男性が、3年前に過労とパワハラのため自殺していたことが分かる――。

過労死、過重労働といった問題は、昨今メディアでもよく取り上げられている。誰かが過労死するとそれがクローズアップされ、労働環境の改善が叫ばれるが、しばらくすると何となく忘れられる。労災認定の基準などがよく問題になるが、過労死してから労災が認められても、亡くなった人は二度と戻ってこない。働き方改革、などと称して法律や制度が変えられても、結局問題が解決しているようには思えない。むしろあまりに何度も過労死・過労自殺が繰り返されるために、「ブラックさ」に対する感覚が麻痺してくるような気さえする。

そんな過重労働、過労死にまつわる問題を、この映画は正面から真剣に描いている、というわけではない。アロハシャツを着こなし、大阪弁を操る謎の男・ヤマモトが、過労死寸前になりながらも真面目に働き続ける会社員を救う。言ってみればそれだけの話だ。青山の職場の様々な問題は、最後まで一つも解決しない。ただ、1人の人間がどう働き、どう生きるかということが、ユーモアも織り交ぜながら描かれている。

仕事のために死ぬくらいなら、仕事を辞めて生きる方が良い。死んだら残された家族が悲しむ。ヤマモトは青山との会話の中でそうしたことを気付かせようとする。精神的に追い詰められた青山には、彼の言葉はなかなか届かないが、ヤマモトはお節介なほど青山に関わり続ける。彼の過去が明らかになったとき、その言動の一つ一つが新たな重みを持って感じられるようになる。

「ちょっと今から仕事やめてくる」。そんな台詞を誰もが気軽に言えるようになれば、過労死は起こらなくなるかもしれない。仕事が全てではなく、生き方は一つではないと誰もが考えるようになれば、社会も変わるかもしれない。楽観的すぎるかもしれないが、この映画からはそんな希望も感じられる。

映像の美しさも印象的だ。特に要所要所に現れる青い空は、ヤマモトの派手なアロハシャツや明るい笑顔とコントラストをなして、強烈な印象を残す。ヤマモトが休日に青山を連れ出し、ホームセンターのカートに乗せて坂を駆け下る場面で、転倒して道端に放り出された青山が寝転がったまま青空を見上げ、久しぶりの解放感に浸る。青山が会社の屋上から飛び降りようとする場面では、引き留めようと追いかけてきたヤマモトと青山が晴れ渡った空の下で向き合う。終盤には南太平洋の島国・バヌアツのひときわ鮮やかな青空が現れる。それらは、一つの生き方にとらわれない自由な人生の象徴なのかもしれない。(雪)

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