〈映画評〉『映画ドラえもん 南極カチコチ大冒険』(2017.04.01)

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 真夏の暑さに耐えかねたのび太とドラえもんは、巨大なかき氷を食べようと画策。南極から流れてきたという大氷山へ行く。氷を自由にデザインすることができる秘密道具「氷細工ごて」で氷上に遊園地を展開し、最果ての巨大流氷でのヴァカンスを満喫する。氷に掘った穴から謎のリングを見つけ、それが10万年前に作られたものだと知ったドラえもん一行は、落とし主を探しに10万年前へタイムトリップする。

本作はいわゆる「大人向け」ポスターのかっこよさが話題を集めた。その中の一つ、通常ポスターとして採用されているものでは、ドラえもん一行が氷に開いた穴を覗く姿が描かれている。氷に開いた穴の先に、彼らは何を見るのか。

神話学者ジョゼフ・キャンベルが提唱した「The Hero’s Journey」という考え方は、あらゆる英雄神話が12の項目によって構成されるというものだ。いわゆる「起承転結」や「序破急」に通じるものであり、大まかに言えば、あらゆる神話(物語)は【出発―通過儀礼―帰還】の流れを辿るという。

この中の一つ、【出発】から【通過儀礼】に至る過程に
【Crossing the Threshold】(越境)というものがある。これは、【calling】(天命)を受けた主人公が、古い世界から新しい世界へ移行する際に、何かしらの境界を通過することを指す。

本作で37作目となった映画ドラえもんシリーズだが、その全てに共通する特徴として、この越境の部分にドラえもんのひみつ道具が活用される点があり、また多くの場合、そのひみつ道具はタイムマシンだ。「現代で生活していたのび太が、あるものを発見し、手がかりが過去にあると知ってタイムトリップする」という展開が、映画ドラえもんシリーズでの王道であり、他にも、どこでもドアなどは、異郷への扉として多く活用される。しかし本作では、10万年前にタイムトリップする際に、タイムマシンは使われなかった。採用されたのは、タイムベルトである。

<h4>「落下」と「移動」</h4>
タイムベルトは、入口がのび太の勉強机と固定されていて出口が自由に決められるタイムマシンと異なり、場所を移動しないまま時間だけを移動できるものだ。つまり、入口は自由だが、出口は必ず入り口と同じ場所ということになる。そのため、アニメーションでの描かれ方は全く異なる。すなわち、タイムマシンが空飛ぶ絨毯に乗ってトンネル型の時空間を「移動」するのに対し、タイムベルトは身一つで時空に開いたタイムホールを「落下」していくという点だ。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった」。川端康成の著書『雪国』の冒頭の文章である。たった3つの短文の連なりは、読者に「雪国」という別世界への移動を無意識に実感させる。例えば映画「千と千尋の神隠し」も、トンネルを抜けることで異郷に辿り着くという構造で、トンネルは、地点Aから地点Bへの通過を象徴するものとして描かれることが多い。

一方、越境を落下として描く作品は「不思議の国のアリス」や、童話「おむすびころころ」などが挙げられるだろう。村上春樹作品における井戸とエレヴェーターのモチーフもまた別世界との接触を象徴するために度々用いられている。平安時代初期の宮廷官吏小野篁は、井戸を通って冥土へ通い、閻魔大王の補佐官として働いたといわれている。

氷に掘った穴から物語の鍵となるリングを発見した後、氷の奥底で遺跡を発見し、その場所でのび太たちはタイムトリップする。本作でタイムベルトが採用されたのは、氷という閉ざされた空間で物語を進行させるためだろう。閉鎖的空間から過去へ「落下」していく様は、閉じた空間に対する時空の広がりを感じさせるものとなった。本作のポスターは「その友情は、10万年先まで凍らない。」というコピーとともに描かれている。彼らが覗くのは10万年前から続くタイムホールだ。氷に開いた穴は時を超え、本作の大きなテーマである「変わらない友情」を強調したものとなった。

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