【連載第十三回】京大新聞の百年 多彩な寄稿が人手不足支える
2024.08.01
2025年4月の創刊100周年に向け、京大新聞の歴史を振り返る連載の第十三回。今回は「拾い読み」のコーナーで95年〜98年の紙面内容を振り返ったうえで、大学史を研究する西山伸教授に、京大新聞の特徴を論じてもらった。連載で得た発見を紙面づくりに活かすとともに、各方面の歴史考察で活用されることを期待する。(編集部)
『京都大学百二十五年史』執筆と『京都大学新聞』【寄稿】京都大学大学文書館 西山伸教授
今回は95年1月から98年12月までの紙面から、一部要約しつつ記述を抜粋する。この間、号外1号を含む85号を発行した。人手不足などから、編集部外の学生に寄稿を依頼することも珍しくなかったという。教員や社会問題の関係者も含め、様々な原稿が紙面に載っている。
新聞社▼本紙主催、前原誠司氏・岩見隆夫氏の対談:前原「政界はパーティーの嵐」、岩見「首相公選制しかない」▼創刊70周年を迎えた 時事▼こくばん(編集員コラム):大地震に思う→神戸にボランティアに行こうか、でも寝袋ないし、試験あるしなぁなどとぼんやり考えている▼震災の先の現実:教員寄稿▼震災ボランティア特集:ルポ→何もできなかった/情けないが、この目で見てきたから、伝えることができる▼原理研(統一協会系団体)に注意:脱会の相談先紹介▼内定獲得・絶対成功マニュアル:本気にしないで▼堀場製作所ルポ▼お菓子のタカラブネ元社長インタビュー▼「均等法」の10年をふりかえる→編集部:謙虚に耳を傾けて▼東大でキャンパス性差別を考えるシンポ▼ジャーナリスト・浅野氏インタビュー:客観報道なんてニセモノ▼ダマスカス留学体験▼元「慰安婦」の証言を聞く集い▼京都コンサートホールオープン:館長に聞く「閉演後の余韻まで考えている」▼新連載:国連世界女性会議ルポ▼特集:傷ついた国スーダン→難民キャンプ参加の医学生ルポ 教育研究▼予備校講師メッセージ▼文・改組:学科は人文のみ▼矢野問題、スウェーデン副首相から有志の会に返信「戦いの成功祈る」▼性暴力に絡む問題:カウンセラー寄稿▼地球工学科誕生へ▼総人、独自大学院を断念:実質的な受け皿となっている人環研究科に新専攻設置へ▼書評:コンピュータ時代の暗号技術→一見単純 大学運営▼文・建替に伴い木を伐採:有志の訴え実らず▼新・時計台:3億7千万で改修→役に立つ代物ではない▼震災で犠牲の学生に卒業認める▼京大百周年募金に震災の影響:阪神地区の卒業生への寄付依頼見送り▼被災生徒に特別入試▼院合格者、増加傾向▼附属病院・山本講師:納得してもらう医療▼性差別相談窓口設置へ→院生協議会が総長と折衝▼総人A2号館ロックアウトに反対の声▼文・学生控室に当局が講義での使用を申入▼胸部研病院を附属病院に合併へ▼「きんじハウス」閉鎖→北部旧動物学教室、有志の不法占拠が続いた▼新連載:医療クライシス/卒業後研修改革めぐり 学生▼編集員の珍東海道中▼レポート・中米の旅:法・学生寄稿▼熊野寮入退寮者名簿▼会長に聞く体育会の魅力▼七大戦、応援団長からエール▼連載:大学生が親になる時→ある女子学生の相談/編集部→この話は事実です、反響求む▼文、建替・改組説明会▼新入生アンケート:京大選んだ理由→「自由な学風」39%、「偏差値高い」11%/編集部:授業前に調査▼学内で仏核実験反対運動▼東北ヒッチ旅▼11月祭、今年も原理研追放:反論認めず▼時計台前で沖縄少女暴行事件への抗議集会▼文・学生大会:情報公開など議案可決、ストライキの可能性も▼11月祭イベント紹介:男! 女! ああうんざりだ!▼11月祭、3・6トンのゴミ:環境対策委、エコ皿呼びかけ▼熊野寮に不当捜索:5名逮捕▼京大アメフト優勝:次は甲子園ボウル▼文・団交:学部長、情報公開を確約▼新サークル棟建設へ学生部と話し合い続く▼教育学部コース人数制限に自治会が要望書 文化▼祝・映画誕生百周年:院生寄稿▼「ぢ」はつらい!:キレ・イボ対談▼チャリンコ東海道▼映画と我々の関係:院生寄稿▼手塚治虫の漫画を再読→編集部:称賛しすぎると見えなくなるものがある、それを危惧するファンの寄稿▼女性について考える特集:女性である前に人間▼『〈在日〉という根拠』:文・聴講生書評▼こくばん:旧姓で手紙を受け取ってイヤな女性がいるのか▼書評:『攻殻機動隊』 広告▼アムネスティインターナショナル▼ピースおおさか▼教習所(岩倉、光悦、山科、月の輪、太秦、洛東)▼英会話イーオン▼紫翠会出版『京都大学の百年』▼社会保険庁「年金のお年頃」▼センターリサーチ:代々木34万1431人、河合塾34万956人▼朝日新聞『朝日現代用語』▼毎日新聞・難民救援キャンペーン▼語学センター▼ワープロレッスン・トリニティアカデミー▼車検センター▼コスモス文学新人賞作品募集▼『関西文学』▼日研化学▼公認会計士協会
現在科学技術も人間の社会も重大な転換期を迎え(中略)新しい科学が、新しい哲学が、そして新しい社会体制が求められています。このような時代に京都大学新聞は若者の鋭い感性を柔らかい思考によって、真実を報道し、論説を掲載し、そして学内の学術情報を紹介し続けるでありましょう。長い伝統と若々しい活力に満ちた京都大学新聞が多くの人たちによって愛読されることを期待しています。
新聞社▼「GO UPRESS」4月創刊→京大・阪大・同志社大・滋賀大・関大共同新聞▼「同志社で今何が起きているか:当局が学生会館で入館規制」の記事に同大婦人問題研究会より本紙に抗議→報道に誤り、関係者各位におわび「取材が不十分」▼社告:発行が遅れている▼本紙主催、落合恵美子氏講演 時事▼鳩山由紀夫氏に聞く→東京ドームのプレスルームで偶然発見、インタビューを申し込んだところ快諾▼APEC大阪会議、反対デモ▼インタビュー:自立生活を送る障害者との付き合い▼国境なき医師団派遣医師に聞く▼世界女性会議、参加ルポ→これでいいのか▼特集:新宿野宿者排除▼教員対談:宗教は世界を救えるか→編集部:オウム真理教事件はまだ記憶に新しい/宗教とどう付き合えばいいか▼破防法団体適用に反対するシンポ▼民族学校出身者の受験資格を求める連絡協議会代表インタビュー▼毎日新聞人事部長インタビュー▼書評:『総特集・ろう文化』▼生起する「男性」のモノローグ:伊藤公雄氏インタビュー→編集部:フェミニズムは世の流行/「男性」側から応答する潮流▼ウトロ町づくりの集い▼カンボジア通信:半年ぶり 教育研究▼被害者が初の証言:東南ア研・元教授裁判▼文・大学重点化実施へ▼霊長類研究所特集:所長インタビュー▼エネルギー科学研究科発足▼複眼時評(教員コラム):「教育」国家日本の課題▼医・学生クロアチア研修体験記▼書評:『近現代史教育の改革』▼人・環研究棟完成式典▼女性教官懇話会:性差別調査報告→「セクハラ経験」24%、「特に深刻」5%/有効回答89件 大学運営▼31㍍新棟を建設:工・文、京大で初めて市規制緩和を適用▼新展開見せるか:第3キャンパス構想▼総合博物館計画:実現へ追い風▼京大生協のO︱157対策▼教官200人が合宿討論会:全学共通科目の今後を集中討議▼10国12大学と学生交流協定 学生▼ライスボウルルポ▼寄稿:4寮案内▼吉田寮団交、新寮も「寮生の自治」:学生部長が確約▼朝日新人文学賞受賞の学生インタビュー▼サークル棟が全焼:オーケストラ、舞踏研究会▼NFで肩もみ屋▼劇評:劇団ケッペキ▼農・コース分属における問題点:学生寄稿「学生の意向を尊重すべき」▼11月祭企画:模擬裁判「過労死」/護身術講座/甲山事件シンポ/〈展示〉アイヌ・モシリ 文化▼競馬だインドだ大作戦▼漫画評:リバーズエッジ▼特集:同人誌の世界▼ピーコさん熱く語る:京大生って甘いのよ▼こくばん:電話帳を読む▼自著を語る:新宮氏『ラカンの精神分析』/柏倉氏『エリートのつくり方』▼大学周辺いま・むかし:東京ラーメン▼京都における『ナヌムの家』上映運動:立命大教授寄稿▼コミケ体験記:京都精華大生寄稿▼テーマ書評:今、ここにある風景▼筑摩書房に行ってきた 広告▼センターリサーチ→河合塾35万4千人、代々木34万2千人、駿台「全国最大」▼イズミ高野店▼よーじや▼新思索社▼茅ヶ崎方式時事英語教室▼岩波書店▼河合出版▼産経新聞社『そして創造の国へ』▼国家試験・情報処理技術者試験▼第一勧業銀行▼きょねん屋▼京大新聞は住友金属工業のエディカラー2・1でつくられる
新聞社▼入アル、卒アル、受験生向け冊子「京都大学を知る本」:本紙が企画編集▼新人文学賞、募集開始→賞金10万円▼6月1日号で不完全な記事、回収したい→寄稿「複眼時評」の前半を載せ損ね▼副学長制への「声」募集▼原稿募集→投稿「争鳴」復活へ 時事▼原理研の実態▼重油回収ボランティア体験記:理・学生▼辻元清美氏インタビュー▼「慰安婦」は「日本軍性奴隷」:中央大教授が集会で訴え▼かば焼を守れ:諫早干潟干拓シンポ▼平和のための京都の戦争展▼ビルマに何を見出せるか:総人学生寄稿▼セクハラの新判断:牟田和恵氏▼政治学入門:私、別姓にしたい▼パレスチナ滞在記:博士学生寄稿 教育研究▼教官が語る試験監督の1日:必死の受験生を眺めるのが楽しみ▼学者って何だ:院生討論▼リレー式新連載:私の教養論▼京都地裁、セクハラ認定:矢野元教授の訴え棄却/判決を読んで:弁護士寄稿▼人環「第三専攻」誕生▼ラテンアメリカ研究会講演会▼芦生の森に魅せられて:農・院生寄稿▼こくばん:「多様性を生かす教育を」なんてスローガンが出回って久しい▼工、寄附講座を新設▼留学生が語る大学:留学生とは友だちになれるけど……▼アジア・アフリカ研、設立へ▼東南ア研、謝罪文発表:セクハラ認め「研究室管理に至らぬ点」▼キャンパスにおける性暴力:アメリカミネソタ大学の取り組み▼胸部研、再生医研として再出発▼研究所探訪:桜島、屋久島 大学運営▼生協中食、三角柱が復活→すぐ汚れるなどの理由で中止されていた▼総人、「折田像」を撤去→いたずらを受けない場所に設置か▼任期制に反対:教官有志声明▼副学長制に批判:当事者不在の決定、管理強化の懸念拭えず▼職員動員し時計台封鎖:人海戦術で学生阻止/騒然! 抗議集会、図書館前の攻防/職員に守られ脱出を図る総長▼〈号外〉ついに総長交渉へ:不十分な回答に学生反発▼秋の味覚に舌鼓:団交教室の前で焼きサンマ販売▼時計台よりドラえもん?:記念切手売れ行き▼駒場寮への廃寮化攻撃批判:東大生寄稿/学生を殴るガードマン、見物する教授▼授業料25年で13倍 学生▼リサイクル市、中止危機乗り越え開催▼合格者名簿▼教習所特集:ドライブサークルに同行▼なぜビラ配って逮捕:早稲田学生寄稿▼学生有志「紅」が実態調査:不十分な「性差別相談窓口」▼茶話漫談:コーヒー研究会寄稿▼時計台前に移動カフェ出現▼七大戦、京大優勝▼11月祭講演紹介:アイヌ・沖縄を考える会/自然農研/エルサレム上映会 文化▼紙面写真館:ユーラシアは散歩道▼編集者寄稿:分断しあう女たち▼対談:結婚制度とシングル▼ヨーロッパの街から:文・学生寄稿▼ミニコミ紹介:『砂袋』▼複眼時評:殺人事件と探偵小説の乖離/大澤真幸氏▼撮られなかったものの歴史:院生寄稿▼芸術家インタビュー:「障碍の美術」▼書評:『レズビアンの歴史』▼京大文芸事情▼京都に根付くかクリティカル・マス 広告▼センターリサーチ→河合38万人、代々木37万人、駿台(ベネッセ共同)38万4千人▼バランスデイト▼日経学生ジャーナル▼通算省技術者試験▼平安会館▼詩林堂「ケッタイな会社あり」▼生と性はなんでもありよ!の会
新聞社▼文学賞、最優秀賞は吉村浩一氏→応募総数222作品/最終選考評→若島氏:「論外」「莫迦」と思う作品ばかりだったが、最優秀作は単純に面白い、森氏:味がある▼晴耕雨眠:編集部ではテレビを見ない人が多い/初めてレイアウトをした、むちゃくちゃだるい▼編集部より:発行が大幅に遅れている/紙面へのご意見はメールで 時事▼新連載:獄中クルド女性議員の証言/ジャーナリスト中川喜与志氏寄稿▼いま政治を考える:リンカーンフォーラム代表▼新自由主義に反対する大陸間会議:文・学生▼「慰安婦」関釜裁判を支援する会の事務局長寄稿→判決報告記:「画期的判決」と「実質的敗訴」→一部賠償認定への拍手と、慰謝料30万円に「冗談じゃない」の声▼京都弁護士会、京大の対応批判:矢野事件の調査・救済求める▼卒業生就職先一覧▼複眼時評:後追い自殺▼市役所前で座り込み:周辺事態法案▼台北市売春婦組合の闘い▼『「彼女たち」の連合赤軍』を読む:文・学生 教育研究▼学生座談会:キャンパス・セクハラ▼阿部謹也氏インタビュー:暗黙の日本人的関係▼臨床教育実践研究センターの試み:教授に聞く▼複眼時評:「大学」は何の役に立つのか▼追悼・野村修:学内外教員や学生、出版社ら寄稿▼制度創設に結びつく「反省」を:東南ア研文書→当事者感覚薄い謝罪▼朝鮮大学校出身者合格:理学研、独自判断で受験認める 大学運営▼折田像跡に力石像出現▼解説:管理強化と「自由な校風」、求められる情報公開▼工、学割が当日中に手に入る▼たばこ自販機撤去始まる▼登録1万人超す:情報メディアセンター運用から4か月、混雑も▼ルネでオークション:パソコンやレーザープリンタ▼副学長による連絡会開催:学内会議の内容を学生に公開する目的、吉田寮と学生部長の団交で開催を決定▼生協、4年連続で赤字▼京大プール開放▼受験資格、認定拒否:3学部で書類返送▼生協ルネでたこやきうどん:応援団の発案で実現学生▼同床異夢(編集員コラム):語学履修の憂鬱▼新入生アンケート:京大を選んだ理由→学風が合いそう35%▼こくばん:当番制でノートをとろうと相談し合う 学生▼文学部生の日記:前期は試験なんかほとんどあらへん▼森毅氏に聞く:エエカゲンな学生のススメ▼差別落書き相次ぐ▼学生座談会:親との関係▼市街で11月祭プレ企画の仮装行列▼西部構内でボヤ:問われる管理の問題→ゴミ始末で98万円▼ボート部合宿体験記 文化▼生協ルネ書籍売上ランキング▼読書特集号:網野氏インタビュー▼こくばん:イルカを食べた▼書評『敗戦後論』:経済・学生/『廃棄物学会誌』/『ムガル美術の旅』/『恋愛の不可能性について』/『文学はなぜマンガに負けたか』▼試験が終わったらうっぷんばらし♪▼晴耕雨眠:喫茶「コラソン」追悼▼映画評:『萌の朱雀』京大映画文化研究会員寄稿/『ウェルカム・トゥ・サラエボ』▼マンガの読み方:マンガ史研究家・夏目氏インタビュー▼文芸評:オスカー・ワイルドの一面▼知る人ぞ知る京大帝国:無料オンラインゲーム▼忘れ去られた『ゴジラ』:日本人の核意識の変容▼新連載:NETでPON/おもしろいホームページ紹介→第1回:EIN推進協議会→「教育に新聞を(Newspaper In Education)」というスローガンに対し、地方し記者が「新聞社に教育が必要」と主張▼障碍者映画祭:「美談」を拒む当事者たち▼連載マンガ評:ゆがんだ世界を覗くとき▼深夜マップ:RINGO→ビートルズにかき消される秘密の会話 広告▼センターリサーチ→河合40万4千人、代々木43万3千人、駿台(ベネッセと共同)41万1千人▼地下街ポルタ▼貝料理「貝」▼国際教育交換協議会▼バークレイズキャピタル全面▼クアーズ・ビール
一昨年(2022年)は京都大学創立125周年に当たり、さまざまな記念事業が展開されたが、その一つに『京都大学百二十五年史』(以下、「百二十五年史」と表記)の刊行があった。「百二十五年史」には通史編と資料編があるが、筆者はそのうち通史編を執筆した。
執筆に当たっては、当然のことながら多くの資料を典拠として使用した。「百二十五年史」は、京都大学の制度的変遷を軸としていたので、使用資料の中心は大学作成の公文書だったが、公文書には記載されていない事象も多々あり、そうしたところについては多種多様な資料を使用することになった。そのうちの有力な一つが『京都大学新聞』(周知のように同紙は『京都帝国大学新聞』『学園新聞』『京都大学新聞』と名称が変化しているが、ここではすべてまとめて「京大新聞」と表記する)だった。
その傾向は特に戦前期・戦中期において顕著だった。学生が主体となって発行されている新聞だから学生の動向に詳しいのは当然とはいえるが、学連事件や学生消費組合といった学生運動関係だけでなく、食事や住居などの様子や読書傾向などが記載されているのは当時の学生生活を知る上で役に立った。それだけでなく、大学における各種の行事や研究所・施設などの設置についても比較的詳しく載っているのには相当助けられた。
もちろん、戦時体制が進むにつれ紙面は国策一辺倒にシフトしていく。しかし、それはそれで当時の京大にどんなことが起こっていたかよくみることができる。満蒙や南方についての研究会の活動や、戦時期特有の行事などは「京大新聞」でないと分からなかったといっていい。
ちなみに「百二十五年史」では扱わなかったが、もっと注目されていいと思うのは「京大新聞」に載っている多数の教員たちの論説や講演記録である。個々の研究者の研究や思索の変遷をたどるには欠かせないのではないかと感じるものが少なくないが、研究書等ではこれまであまり取り上げられることがなかったように思われる。例えば、1928年5月21日付に掲載された滝川幸辰の「治安維持法を緊急勅令によつて改正する必要?」は、罪刑法定主義の原則からして治安維持法を「極めて不都合な法律」としている。これなど例の滝川事件の背景の一つではないかと考えているのだがどうだろうか(ただ新聞記載の文は口述筆記で文責が記者となっているのが残念である)。また、1943年5月から行われた月曜講義におけるいわゆる京都学派の面々が語った内容、学徒出陣に際して寄せられた教員たちの論説などをみれば、いかに彼らが戦場に向かう学生の背中を押していたかよく理解できる。
話を戻すと、「百二十五年史」典拠としての「京大新聞」の重要性は戦後もしばらくの時期は続いた。しかしそれは、1960年代半ばまでであった。以後は「京大新聞」をみても大学でどんな出来事があったのかはほぼ分からず、党派色の強い記事がどんどん目立つようになる。よくいえばオピニオン紙、悪くいえばプロパガンダ紙にみえる「京大新聞」に、「百二十五年史」執筆の観点からは関心がなくなった。唯一の例外が、1976年3月16日付に掲載された「気楽に行ける喫茶店あんない」で、当時としては珍しく「柔らかい」内容のこの記事は「百二十五年史」にも使わせていただいた。
それがいつの頃からか、また変化しているように感じられる。筆者のように「辺境」の部局にいる者には、大学で何が起こっているのかよく分からない。それを知ることができるのが最近の「京大新聞」である(教員の立場として、本当はそういうことではいけないのだろうが)。記事の種類・数では戦前期にはかなわないが、実は大学の日々の動向が分かるメディアは他に存在していないのだ(大学の広報誌はその手のことにはほぼ役に立たない)。今から二十数年後に『京都大学百五十年史』が書かれるようになったら、今の「京大新聞」はその有力な典拠になるかもしれない、と期待している。
目次
拾い読み⑫ 性差別や副学長制など注視(1995~1998)『京都大学百二十五年史』執筆と『京都大学新聞』【寄稿】京都大学大学文書館 西山伸教授
拾い読み⑫ 性差別や副学長制など注視(1995~1998)
今回は95年1月から98年12月までの紙面から、一部要約しつつ記述を抜粋する。この間、号外1号を含む85号を発行した。人手不足などから、編集部外の学生に寄稿を依頼することも珍しくなかったという。教員や社会問題の関係者も含め、様々な原稿が紙面に載っている。
1995年
新聞社▼本紙主催、前原誠司氏・岩見隆夫氏の対談:前原「政界はパーティーの嵐」、岩見「首相公選制しかない」▼創刊70周年を迎えた 時事▼こくばん(編集員コラム):大地震に思う→神戸にボランティアに行こうか、でも寝袋ないし、試験あるしなぁなどとぼんやり考えている▼震災の先の現実:教員寄稿▼震災ボランティア特集:ルポ→何もできなかった/情けないが、この目で見てきたから、伝えることができる▼原理研(統一協会系団体)に注意:脱会の相談先紹介▼内定獲得・絶対成功マニュアル:本気にしないで▼堀場製作所ルポ▼お菓子のタカラブネ元社長インタビュー▼「均等法」の10年をふりかえる→編集部:謙虚に耳を傾けて▼東大でキャンパス性差別を考えるシンポ▼ジャーナリスト・浅野氏インタビュー:客観報道なんてニセモノ▼ダマスカス留学体験▼元「慰安婦」の証言を聞く集い▼京都コンサートホールオープン:館長に聞く「閉演後の余韻まで考えている」▼新連載:国連世界女性会議ルポ▼特集:傷ついた国スーダン→難民キャンプ参加の医学生ルポ 教育研究▼予備校講師メッセージ▼文・改組:学科は人文のみ▼矢野問題、スウェーデン副首相から有志の会に返信「戦いの成功祈る」▼性暴力に絡む問題:カウンセラー寄稿▼地球工学科誕生へ▼総人、独自大学院を断念:実質的な受け皿となっている人環研究科に新専攻設置へ▼書評:コンピュータ時代の暗号技術→一見単純 大学運営▼文・建替に伴い木を伐採:有志の訴え実らず▼新・時計台:3億7千万で改修→役に立つ代物ではない▼震災で犠牲の学生に卒業認める▼京大百周年募金に震災の影響:阪神地区の卒業生への寄付依頼見送り▼被災生徒に特別入試▼院合格者、増加傾向▼附属病院・山本講師:納得してもらう医療▼性差別相談窓口設置へ→院生協議会が総長と折衝▼総人A2号館ロックアウトに反対の声▼文・学生控室に当局が講義での使用を申入▼胸部研病院を附属病院に合併へ▼「きんじハウス」閉鎖→北部旧動物学教室、有志の不法占拠が続いた▼新連載:医療クライシス/卒業後研修改革めぐり 学生▼編集員の珍東海道中▼レポート・中米の旅:法・学生寄稿▼熊野寮入退寮者名簿▼会長に聞く体育会の魅力▼七大戦、応援団長からエール▼連載:大学生が親になる時→ある女子学生の相談/編集部→この話は事実です、反響求む▼文、建替・改組説明会▼新入生アンケート:京大選んだ理由→「自由な学風」39%、「偏差値高い」11%/編集部:授業前に調査▼学内で仏核実験反対運動▼東北ヒッチ旅▼11月祭、今年も原理研追放:反論認めず▼時計台前で沖縄少女暴行事件への抗議集会▼文・学生大会:情報公開など議案可決、ストライキの可能性も▼11月祭イベント紹介:男! 女! ああうんざりだ!▼11月祭、3・6トンのゴミ:環境対策委、エコ皿呼びかけ▼熊野寮に不当捜索:5名逮捕▼京大アメフト優勝:次は甲子園ボウル▼文・団交:学部長、情報公開を確約▼新サークル棟建設へ学生部と話し合い続く▼教育学部コース人数制限に自治会が要望書 文化▼祝・映画誕生百周年:院生寄稿▼「ぢ」はつらい!:キレ・イボ対談▼チャリンコ東海道▼映画と我々の関係:院生寄稿▼手塚治虫の漫画を再読→編集部:称賛しすぎると見えなくなるものがある、それを危惧するファンの寄稿▼女性について考える特集:女性である前に人間▼『〈在日〉という根拠』:文・聴講生書評▼こくばん:旧姓で手紙を受け取ってイヤな女性がいるのか▼書評:『攻殻機動隊』 広告▼アムネスティインターナショナル▼ピースおおさか▼教習所(岩倉、光悦、山科、月の輪、太秦、洛東)▼英会話イーオン▼紫翠会出版『京都大学の百年』▼社会保険庁「年金のお年頃」▼センターリサーチ:代々木34万1431人、河合塾34万956人▼朝日新聞『朝日現代用語』▼毎日新聞・難民救援キャンペーン▼語学センター▼ワープロレッスン・トリニティアカデミー▼車検センター▼コスモス文学新人賞作品募集▼『関西文学』▼日研化学▼公認会計士協会
▼京都大学新聞に寄せて:井村総長(1995年4月1日号)
(前略)この70年間は京都大学にとってまさに激動の時代でありました。学問の自由を守るための闘い、第二次世界大戦、学制改革、大学紛争など、京都大学が経験した多くの苦しみや、悩みを京都大学新聞は克明に報道してきましたし、またその中にあっての学生生活の歓びや学問への憧れも綴って参りました。この伝統は、脈々として現在の京都大学新聞に受け継がれています。現在科学技術も人間の社会も重大な転換期を迎え(中略)新しい科学が、新しい哲学が、そして新しい社会体制が求められています。このような時代に京都大学新聞は若者の鋭い感性を柔らかい思考によって、真実を報道し、論説を掲載し、そして学内の学術情報を紹介し続けるでありましょう。長い伝統と若々しい活力に満ちた京都大学新聞が多くの人たちによって愛読されることを期待しています。
1996年
新聞社▼「GO UPRESS」4月創刊→京大・阪大・同志社大・滋賀大・関大共同新聞▼「同志社で今何が起きているか:当局が学生会館で入館規制」の記事に同大婦人問題研究会より本紙に抗議→報道に誤り、関係者各位におわび「取材が不十分」▼社告:発行が遅れている▼本紙主催、落合恵美子氏講演 時事▼鳩山由紀夫氏に聞く→東京ドームのプレスルームで偶然発見、インタビューを申し込んだところ快諾▼APEC大阪会議、反対デモ▼インタビュー:自立生活を送る障害者との付き合い▼国境なき医師団派遣医師に聞く▼世界女性会議、参加ルポ→これでいいのか▼特集:新宿野宿者排除▼教員対談:宗教は世界を救えるか→編集部:オウム真理教事件はまだ記憶に新しい/宗教とどう付き合えばいいか▼破防法団体適用に反対するシンポ▼民族学校出身者の受験資格を求める連絡協議会代表インタビュー▼毎日新聞人事部長インタビュー▼書評:『総特集・ろう文化』▼生起する「男性」のモノローグ:伊藤公雄氏インタビュー→編集部:フェミニズムは世の流行/「男性」側から応答する潮流▼ウトロ町づくりの集い▼カンボジア通信:半年ぶり 教育研究▼被害者が初の証言:東南ア研・元教授裁判▼文・大学重点化実施へ▼霊長類研究所特集:所長インタビュー▼エネルギー科学研究科発足▼複眼時評(教員コラム):「教育」国家日本の課題▼医・学生クロアチア研修体験記▼書評:『近現代史教育の改革』▼人・環研究棟完成式典▼女性教官懇話会:性差別調査報告→「セクハラ経験」24%、「特に深刻」5%/有効回答89件 大学運営▼31㍍新棟を建設:工・文、京大で初めて市規制緩和を適用▼新展開見せるか:第3キャンパス構想▼総合博物館計画:実現へ追い風▼京大生協のO︱157対策▼教官200人が合宿討論会:全学共通科目の今後を集中討議▼10国12大学と学生交流協定 学生▼ライスボウルルポ▼寄稿:4寮案内▼吉田寮団交、新寮も「寮生の自治」:学生部長が確約▼朝日新人文学賞受賞の学生インタビュー▼サークル棟が全焼:オーケストラ、舞踏研究会▼NFで肩もみ屋▼劇評:劇団ケッペキ▼農・コース分属における問題点:学生寄稿「学生の意向を尊重すべき」▼11月祭企画:模擬裁判「過労死」/護身術講座/甲山事件シンポ/〈展示〉アイヌ・モシリ 文化▼競馬だインドだ大作戦▼漫画評:リバーズエッジ▼特集:同人誌の世界▼ピーコさん熱く語る:京大生って甘いのよ▼こくばん:電話帳を読む▼自著を語る:新宮氏『ラカンの精神分析』/柏倉氏『エリートのつくり方』▼大学周辺いま・むかし:東京ラーメン▼京都における『ナヌムの家』上映運動:立命大教授寄稿▼コミケ体験記:京都精華大生寄稿▼テーマ書評:今、ここにある風景▼筑摩書房に行ってきた 広告▼センターリサーチ→河合塾35万4千人、代々木34万2千人、駿台「全国最大」▼イズミ高野店▼よーじや▼新思索社▼茅ヶ崎方式時事英語教室▼岩波書店▼河合出版▼産経新聞社『そして創造の国へ』▼国家試験・情報処理技術者試験▼第一勧業銀行▼きょねん屋▼京大新聞は住友金属工業のエディカラー2・1でつくられる
1997年
新聞社▼入アル、卒アル、受験生向け冊子「京都大学を知る本」:本紙が企画編集▼新人文学賞、募集開始→賞金10万円▼6月1日号で不完全な記事、回収したい→寄稿「複眼時評」の前半を載せ損ね▼副学長制への「声」募集▼原稿募集→投稿「争鳴」復活へ 時事▼原理研の実態▼重油回収ボランティア体験記:理・学生▼辻元清美氏インタビュー▼「慰安婦」は「日本軍性奴隷」:中央大教授が集会で訴え▼かば焼を守れ:諫早干潟干拓シンポ▼平和のための京都の戦争展▼ビルマに何を見出せるか:総人学生寄稿▼セクハラの新判断:牟田和恵氏▼政治学入門:私、別姓にしたい▼パレスチナ滞在記:博士学生寄稿 教育研究▼教官が語る試験監督の1日:必死の受験生を眺めるのが楽しみ▼学者って何だ:院生討論▼リレー式新連載:私の教養論▼京都地裁、セクハラ認定:矢野元教授の訴え棄却/判決を読んで:弁護士寄稿▼人環「第三専攻」誕生▼ラテンアメリカ研究会講演会▼芦生の森に魅せられて:農・院生寄稿▼こくばん:「多様性を生かす教育を」なんてスローガンが出回って久しい▼工、寄附講座を新設▼留学生が語る大学:留学生とは友だちになれるけど……▼アジア・アフリカ研、設立へ▼東南ア研、謝罪文発表:セクハラ認め「研究室管理に至らぬ点」▼キャンパスにおける性暴力:アメリカミネソタ大学の取り組み▼胸部研、再生医研として再出発▼研究所探訪:桜島、屋久島 大学運営▼生協中食、三角柱が復活→すぐ汚れるなどの理由で中止されていた▼総人、「折田像」を撤去→いたずらを受けない場所に設置か▼任期制に反対:教官有志声明▼副学長制に批判:当事者不在の決定、管理強化の懸念拭えず▼職員動員し時計台封鎖:人海戦術で学生阻止/騒然! 抗議集会、図書館前の攻防/職員に守られ脱出を図る総長▼〈号外〉ついに総長交渉へ:不十分な回答に学生反発▼秋の味覚に舌鼓:団交教室の前で焼きサンマ販売▼時計台よりドラえもん?:記念切手売れ行き▼駒場寮への廃寮化攻撃批判:東大生寄稿/学生を殴るガードマン、見物する教授▼授業料25年で13倍 学生▼リサイクル市、中止危機乗り越え開催▼合格者名簿▼教習所特集:ドライブサークルに同行▼なぜビラ配って逮捕:早稲田学生寄稿▼学生有志「紅」が実態調査:不十分な「性差別相談窓口」▼茶話漫談:コーヒー研究会寄稿▼時計台前に移動カフェ出現▼七大戦、京大優勝▼11月祭講演紹介:アイヌ・沖縄を考える会/自然農研/エルサレム上映会 文化▼紙面写真館:ユーラシアは散歩道▼編集者寄稿:分断しあう女たち▼対談:結婚制度とシングル▼ヨーロッパの街から:文・学生寄稿▼ミニコミ紹介:『砂袋』▼複眼時評:殺人事件と探偵小説の乖離/大澤真幸氏▼撮られなかったものの歴史:院生寄稿▼芸術家インタビュー:「障碍の美術」▼書評:『レズビアンの歴史』▼京大文芸事情▼京都に根付くかクリティカル・マス 広告▼センターリサーチ→河合38万人、代々木37万人、駿台(ベネッセ共同)38万4千人▼バランスデイト▼日経学生ジャーナル▼通算省技術者試験▼平安会館▼詩林堂「ケッタイな会社あり」▼生と性はなんでもありよ!の会
1998年
新聞社▼文学賞、最優秀賞は吉村浩一氏→応募総数222作品/最終選考評→若島氏:「論外」「莫迦」と思う作品ばかりだったが、最優秀作は単純に面白い、森氏:味がある▼晴耕雨眠:編集部ではテレビを見ない人が多い/初めてレイアウトをした、むちゃくちゃだるい▼編集部より:発行が大幅に遅れている/紙面へのご意見はメールで 時事▼新連載:獄中クルド女性議員の証言/ジャーナリスト中川喜与志氏寄稿▼いま政治を考える:リンカーンフォーラム代表▼新自由主義に反対する大陸間会議:文・学生▼「慰安婦」関釜裁判を支援する会の事務局長寄稿→判決報告記:「画期的判決」と「実質的敗訴」→一部賠償認定への拍手と、慰謝料30万円に「冗談じゃない」の声▼京都弁護士会、京大の対応批判:矢野事件の調査・救済求める▼卒業生就職先一覧▼複眼時評:後追い自殺▼市役所前で座り込み:周辺事態法案▼台北市売春婦組合の闘い▼『「彼女たち」の連合赤軍』を読む:文・学生 教育研究▼学生座談会:キャンパス・セクハラ▼阿部謹也氏インタビュー:暗黙の日本人的関係▼臨床教育実践研究センターの試み:教授に聞く▼複眼時評:「大学」は何の役に立つのか▼追悼・野村修:学内外教員や学生、出版社ら寄稿▼制度創設に結びつく「反省」を:東南ア研文書→当事者感覚薄い謝罪▼朝鮮大学校出身者合格:理学研、独自判断で受験認める 大学運営▼折田像跡に力石像出現▼解説:管理強化と「自由な校風」、求められる情報公開▼工、学割が当日中に手に入る▼たばこ自販機撤去始まる▼登録1万人超す:情報メディアセンター運用から4か月、混雑も▼ルネでオークション:パソコンやレーザープリンタ▼副学長による連絡会開催:学内会議の内容を学生に公開する目的、吉田寮と学生部長の団交で開催を決定▼生協、4年連続で赤字▼京大プール開放▼受験資格、認定拒否:3学部で書類返送▼生協ルネでたこやきうどん:応援団の発案で実現学生▼同床異夢(編集員コラム):語学履修の憂鬱▼新入生アンケート:京大を選んだ理由→学風が合いそう35%▼こくばん:当番制でノートをとろうと相談し合う 学生▼文学部生の日記:前期は試験なんかほとんどあらへん▼森毅氏に聞く:エエカゲンな学生のススメ▼差別落書き相次ぐ▼学生座談会:親との関係▼市街で11月祭プレ企画の仮装行列▼西部構内でボヤ:問われる管理の問題→ゴミ始末で98万円▼ボート部合宿体験記 文化▼生協ルネ書籍売上ランキング▼読書特集号:網野氏インタビュー▼こくばん:イルカを食べた▼書評『敗戦後論』:経済・学生/『廃棄物学会誌』/『ムガル美術の旅』/『恋愛の不可能性について』/『文学はなぜマンガに負けたか』▼試験が終わったらうっぷんばらし♪▼晴耕雨眠:喫茶「コラソン」追悼▼映画評:『萌の朱雀』京大映画文化研究会員寄稿/『ウェルカム・トゥ・サラエボ』▼マンガの読み方:マンガ史研究家・夏目氏インタビュー▼文芸評:オスカー・ワイルドの一面▼知る人ぞ知る京大帝国:無料オンラインゲーム▼忘れ去られた『ゴジラ』:日本人の核意識の変容▼新連載:NETでPON/おもしろいホームページ紹介→第1回:EIN推進協議会→「教育に新聞を(Newspaper In Education)」というスローガンに対し、地方し記者が「新聞社に教育が必要」と主張▼障碍者映画祭:「美談」を拒む当事者たち▼連載マンガ評:ゆがんだ世界を覗くとき▼深夜マップ:RINGO→ビートルズにかき消される秘密の会話 広告▼センターリサーチ→河合40万4千人、代々木43万3千人、駿台(ベネッセと共同)41万1千人▼地下街ポルタ▼貝料理「貝」▼国際教育交換協議会▼バークレイズキャピタル全面▼クアーズ・ビール
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『京都大学百二十五年史』執筆と『京都大学新聞』【寄稿】京都大学大学文書館 西山伸教授
一昨年(2022年)は京都大学創立125周年に当たり、さまざまな記念事業が展開されたが、その一つに『京都大学百二十五年史』(以下、「百二十五年史」と表記)の刊行があった。「百二十五年史」には通史編と資料編があるが、筆者はそのうち通史編を執筆した。
執筆に当たっては、当然のことながら多くの資料を典拠として使用した。「百二十五年史」は、京都大学の制度的変遷を軸としていたので、使用資料の中心は大学作成の公文書だったが、公文書には記載されていない事象も多々あり、そうしたところについては多種多様な資料を使用することになった。そのうちの有力な一つが『京都大学新聞』(周知のように同紙は『京都帝国大学新聞』『学園新聞』『京都大学新聞』と名称が変化しているが、ここではすべてまとめて「京大新聞」と表記する)だった。
その傾向は特に戦前期・戦中期において顕著だった。学生が主体となって発行されている新聞だから学生の動向に詳しいのは当然とはいえるが、学連事件や学生消費組合といった学生運動関係だけでなく、食事や住居などの様子や読書傾向などが記載されているのは当時の学生生活を知る上で役に立った。それだけでなく、大学における各種の行事や研究所・施設などの設置についても比較的詳しく載っているのには相当助けられた。
もちろん、戦時体制が進むにつれ紙面は国策一辺倒にシフトしていく。しかし、それはそれで当時の京大にどんなことが起こっていたかよくみることができる。満蒙や南方についての研究会の活動や、戦時期特有の行事などは「京大新聞」でないと分からなかったといっていい。
ちなみに「百二十五年史」では扱わなかったが、もっと注目されていいと思うのは「京大新聞」に載っている多数の教員たちの論説や講演記録である。個々の研究者の研究や思索の変遷をたどるには欠かせないのではないかと感じるものが少なくないが、研究書等ではこれまであまり取り上げられることがなかったように思われる。例えば、1928年5月21日付に掲載された滝川幸辰の「治安維持法を緊急勅令によつて改正する必要?」は、罪刑法定主義の原則からして治安維持法を「極めて不都合な法律」としている。これなど例の滝川事件の背景の一つではないかと考えているのだがどうだろうか(ただ新聞記載の文は口述筆記で文責が記者となっているのが残念である)。また、1943年5月から行われた月曜講義におけるいわゆる京都学派の面々が語った内容、学徒出陣に際して寄せられた教員たちの論説などをみれば、いかに彼らが戦場に向かう学生の背中を押していたかよく理解できる。
話を戻すと、「百二十五年史」典拠としての「京大新聞」の重要性は戦後もしばらくの時期は続いた。しかしそれは、1960年代半ばまでであった。以後は「京大新聞」をみても大学でどんな出来事があったのかはほぼ分からず、党派色の強い記事がどんどん目立つようになる。よくいえばオピニオン紙、悪くいえばプロパガンダ紙にみえる「京大新聞」に、「百二十五年史」執筆の観点からは関心がなくなった。唯一の例外が、1976年3月16日付に掲載された「気楽に行ける喫茶店あんない」で、当時としては珍しく「柔らかい」内容のこの記事は「百二十五年史」にも使わせていただいた。
それがいつの頃からか、また変化しているように感じられる。筆者のように「辺境」の部局にいる者には、大学で何が起こっているのかよく分からない。それを知ることができるのが最近の「京大新聞」である(教員の立場として、本当はそういうことではいけないのだろうが)。記事の種類・数では戦前期にはかなわないが、実は大学の日々の動向が分かるメディアは他に存在していないのだ(大学の広報誌はその手のことにはほぼ役に立たない)。今から二十数年後に『京都大学百五十年史』が書かれるようになったら、今の「京大新聞」はその有力な典拠になるかもしれない、と期待している。