文化

〈日々の暮らし方〉 第12回 正しいレポートとの付き合い方 〜本気か浮気か〜

2009.06.23

学生が2人いる。2人にレポートが課された。1人はその翌日、資料を集め、翌々日の晩にはそいつを書き上げた。もう1人は締め切りの3日前、資料を集めようとしていたところを悪友にそそのかされて酒を飲み、2日前も続いて資料を集めようとしていたところを別の悪友にそそのかされて酒を飲み、そしてついに締め切り前日となってもそれまでと同様、悪友にそそのかされて酒を飲んでしまった。

この場合、学問的向上心において正しいのは、当然前者の2日で書き上げた方であるが、レポートとの付き合い方においてとなると話は異なってくる。まず注目しなくてはいけないのは、2人がレポートを課されていることをどれだけの人が知っていたかということだ。

前者の場合、おそらくそれを知りえたのは、同居している親兄弟か恋人ぐらいなものだろう。これではまるでこっそり浮気でもしているようではないか。仮に恋人に「何を書いているの」と尋ねられて「いや、別にたいしたものじゃないよ」などと答えて、いそいそと作業中のファイルを閉じたりしようものなら、それはもう浮気以外の何物でもない。

対する後者の学生の行動は締め切り3日前からしか記述していないが、そいつはそれまでにも同じようなことを繰り返してそこに至ったのである。そしてなぜそいつは締め切りが近付くにつれ、酒を飲まされてしまうかということを考えれば、事情はだいたい見えてくる。

おわかりだろう。そいつは自分にレポートが課されていることをそこかしこで言いふらしていたのだ。そうすると、友人たちは、友人というのは何においても抜け駆けというのを嫌うので、そいつがレポートを書くのをなんとか邪魔してやろうと試みる。「そろそろ手をつけないとまずい」「これが留年するかの分かれ目なんだ」と渋るそいつに対して、普段なら絶対にきることのない「おごり」のカードまでちらつかせてそいつを誘うのだ。

このあたりで一見愚か者にしか見えないこの学生が、実に巧妙極まりない人間であることに気付くはずだ。きっとこいつは、別な場面では「明日はデートが・・・」などと言って、悪友に酒をおごらせているのだ。

しかしながら、こいつがレポートを無事提出できるのかという点は、また別の話である。

京都大学日々の暮らしを考える会・編