アイヌ遺骨 返還申し入れ 総博 警備へ通報し謝罪
2022.10.16
「平取『アイヌ遺骨』を考える会」の共同代表である木村二三夫氏、「京大・アイヌ民族遺骨問題の真相を究明し責任を追及する会」と他4団体は9月21日、京大本部棟前と総合博物館前で申し入れを行い、アイヌ遺骨の返還を求める要望書を提出した。そのさい、総合博物館の職員が警備に通報して警官が出動する事態となり、のちに馬渕光正・事務長が謝罪した。
京大の調査に基づいて文科省が公表している資料によれば、医学部教授が1924年に樺太、26年に釧路市で墓を掘り返すなどしてアイヌ民族の遺骨87体を収集し、総合博物館に収蔵した。京大はうち26体を北海道白老町の「慰霊施設」へ移管し、残り61体の保管を続けている。61体のうち4体は、釧路市で収集された遺骨である。57体は樺太で収集されており、エンチウ(樺太アイヌ)遺族会が返還を申請している。
アイヌ民族側は問題点として、日本政府がアイヌ民族から収奪した土地で、京大などに所属する学者らが遺骨を収集し、植民地支配や優生思想を正当化する研究に利用したと指摘する。また、「慰霊施設」も、遺骨を研究利用に持ち出す可能性を残しているといった問題があると批判している。なお、京大は13年以来、遺骨への面会や慰霊、話し合いの申し入れを繰り返し拒否している。
主催者の一人は本紙の取材に応じ、申し入れの様子を説明した。当日は、本部棟玄関前で約20名が申し入れに参加したという。対応にあたった職員は、参加者らの入館を拒否。担当者に要望書を渡すと述べるにとどめ、責任の所在などについて問いかけられても回答しなかった。
総合博物館前でも申し入れを実施した。参加者らは、責任者と館内で話し合うことを求めたが、博物館側の職員は拒否し玄関前で対応した。また、館長も事務長も不在だとしたうえで、遺骨の返還については政府方針に基づいて対応しているとの説明を繰り返した。この説明に対し参加者は、政府方針は問題含みであると指摘し、話し合いや慰霊の要求に大学として応じるべきだと反論したが、職員は返答しなかったという。
そのさなか、警備員と警察官が出動した。職員は自分たちが通報したわけではないと釈明していたが、後に警備会社に連絡していたことを明らかにしたという。京大は本紙の取材に対し、警備会社への通報は「来館者の安全確保」のためであり、警官の出動は「警備会社の判断」だったと回答している。だが、参加者によれば、安全を脅かす行為はなかった。
参加者が警官導入について抗議すると、当初は不在であると説明していたはずの馬渕光正・事務長が名を名乗り謝罪した。京大は取材に対し、謝罪した理由を「予期せぬ事態で騒ぎが大きくなった」ためだと説明している。
これらの対応について主催者の一人は「京大が盗んだ遺骨の返還や、遺骨への面会、慰霊を求めるアイヌ民族に対して真摯に応対するのは、加害者である京大が果たすべき最低限の職責」と指摘したうえで「門前払いにしたうえ、業務妨害だと言わんばかりに警備・警察を呼んだ京大に深い怒りを覚える」と非難した。また「木村二三夫さんが繰り返しおっしゃったように『アイヌ・ネノアン・アイヌ、人として考えてほしい』」とコメントし、人間としての倫理に基づいて京大が行動を判断するように求めた。
要望書は、総長、理学・文学・医学研究科長、総合博物館長に宛てられており、10月末までの回答を求めている。琉球民族・奄美人の遺骨についても返還を求めるとともに、▽61体のうち、4体の釧路市で収集した遺骨への面会▽87体の遺骨の収集経緯や保管状況の公開▽総務部がアイヌ遺骨を「人類学資料」と表現したことへの謝罪と撤回も要求している。
申し入れの後に吉田寮食堂で、木村二三夫氏がアイヌ民族にまつわる問題について講演した。
まず木村氏は、日本政府によるアイヌ民族への加害の歴史を概説し、開拓使による土地の収奪や狩猟の禁止などが、アイヌの生活と文化を破壊したと訴えた。
そして、加害の極めつけが遺骨収集であるとして、その歴史を振り返った。研究の背景に優生思想を補強する目的があると指摘したほか、埋葬時期を問わず収集が繰り返されたと説明し、学術界やそれを後押しする政府を批判した。
木村氏は、政府がいまだに違法な収集があったことを認めず「煙に巻こうと必死だ」と指摘。また、保管を続け研究利用を視野に入れる学会に対しても「物事の道理が理解できないようだ」と非難し、まずは違法集約のプロセスを反省すべきだと訴えた。
しかし、加害の歴史に蓋をしようとする極右勢力も存在するとして、木村氏は憤りを示す。また、2019年施行のアイヌ施策推進法に権利規定が盛り込まれなかったことから「加害の歴史に目をつぶってきた和人の根深い差別意識が感じられる」とも指摘。木村氏は「加害への無自覚は決して許されない」と述べ、歴史的事実に目を向ける大切さを訴えた。
目次
木村氏 講演「加害への無自覚 許されない」京大の調査に基づいて文科省が公表している資料によれば、医学部教授が1924年に樺太、26年に釧路市で墓を掘り返すなどしてアイヌ民族の遺骨87体を収集し、総合博物館に収蔵した。京大はうち26体を北海道白老町の「慰霊施設」へ移管し、残り61体の保管を続けている。61体のうち4体は、釧路市で収集された遺骨である。57体は樺太で収集されており、エンチウ(樺太アイヌ)遺族会が返還を申請している。
アイヌ民族側は問題点として、日本政府がアイヌ民族から収奪した土地で、京大などに所属する学者らが遺骨を収集し、植民地支配や優生思想を正当化する研究に利用したと指摘する。また、「慰霊施設」も、遺骨を研究利用に持ち出す可能性を残しているといった問題があると批判している。なお、京大は13年以来、遺骨への面会や慰霊、話し合いの申し入れを繰り返し拒否している。
主催者の一人は本紙の取材に応じ、申し入れの様子を説明した。当日は、本部棟玄関前で約20名が申し入れに参加したという。対応にあたった職員は、参加者らの入館を拒否。担当者に要望書を渡すと述べるにとどめ、責任の所在などについて問いかけられても回答しなかった。
総合博物館前でも申し入れを実施した。参加者らは、責任者と館内で話し合うことを求めたが、博物館側の職員は拒否し玄関前で対応した。また、館長も事務長も不在だとしたうえで、遺骨の返還については政府方針に基づいて対応しているとの説明を繰り返した。この説明に対し参加者は、政府方針は問題含みであると指摘し、話し合いや慰霊の要求に大学として応じるべきだと反論したが、職員は返答しなかったという。
そのさなか、警備員と警察官が出動した。職員は自分たちが通報したわけではないと釈明していたが、後に警備会社に連絡していたことを明らかにしたという。京大は本紙の取材に対し、警備会社への通報は「来館者の安全確保」のためであり、警官の出動は「警備会社の判断」だったと回答している。だが、参加者によれば、安全を脅かす行為はなかった。
参加者が警官導入について抗議すると、当初は不在であると説明していたはずの馬渕光正・事務長が名を名乗り謝罪した。京大は取材に対し、謝罪した理由を「予期せぬ事態で騒ぎが大きくなった」ためだと説明している。
木村氏 講演「加害への無自覚 許されない」
これらの対応について主催者の一人は「京大が盗んだ遺骨の返還や、遺骨への面会、慰霊を求めるアイヌ民族に対して真摯に応対するのは、加害者である京大が果たすべき最低限の職責」と指摘したうえで「門前払いにしたうえ、業務妨害だと言わんばかりに警備・警察を呼んだ京大に深い怒りを覚える」と非難した。また「木村二三夫さんが繰り返しおっしゃったように『アイヌ・ネノアン・アイヌ、人として考えてほしい』」とコメントし、人間としての倫理に基づいて京大が行動を判断するように求めた。
要望書は、総長、理学・文学・医学研究科長、総合博物館長に宛てられており、10月末までの回答を求めている。琉球民族・奄美人の遺骨についても返還を求めるとともに、▽61体のうち、4体の釧路市で収集した遺骨への面会▽87体の遺骨の収集経緯や保管状況の公開▽総務部がアイヌ遺骨を「人類学資料」と表現したことへの謝罪と撤回も要求している。
申し入れの後に吉田寮食堂で、木村二三夫氏がアイヌ民族にまつわる問題について講演した。
まず木村氏は、日本政府によるアイヌ民族への加害の歴史を概説し、開拓使による土地の収奪や狩猟の禁止などが、アイヌの生活と文化を破壊したと訴えた。
そして、加害の極めつけが遺骨収集であるとして、その歴史を振り返った。研究の背景に優生思想を補強する目的があると指摘したほか、埋葬時期を問わず収集が繰り返されたと説明し、学術界やそれを後押しする政府を批判した。
木村氏は、政府がいまだに違法な収集があったことを認めず「煙に巻こうと必死だ」と指摘。また、保管を続け研究利用を視野に入れる学会に対しても「物事の道理が理解できないようだ」と非難し、まずは違法集約のプロセスを反省すべきだと訴えた。
しかし、加害の歴史に蓋をしようとする極右勢力も存在するとして、木村氏は憤りを示す。また、2019年施行のアイヌ施策推進法に権利規定が盛り込まれなかったことから「加害の歴史に目をつぶってきた和人の根深い差別意識が感じられる」とも指摘。木村氏は「加害への無自覚は決して許されない」と述べ、歴史的事実に目を向ける大切さを訴えた。