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11月祭禁酒方針を考える【第2回】学園祭とお酒の在り方とは

2019.07.16

7月12日、11月祭全学実行委員会は今年の11月祭で全面禁酒を実施することを可決した。全面禁酒については先月から全学実会議で審議が続いていたが、企画出展者の参加申し込みが始まる7月中旬が迫る中、期限に迫られての意思決定になった。本企画では、7月1日号から引き続き大学における酒類規制と11月祭での規制のあり方について検証、提示していく。(編集部)

11月祭禁酒の経緯

6月11日、11月祭全学実行委員会事務局は全学実の会議で禁酒方針を提起した。11月祭事務局によるとこの方針は大学当局が11月祭事務局に全面禁酒の方針を要求してきたことによるもので、5月には全面禁酒の方針を取らなければ教室の貸し出しをしない旨の通告があった。

11月祭事務局は全面禁酒の方針を会議の場で学生の主体的な宣言として採択したいと提案し、全学実会議の参加者を交え議論が交わされた。

11月祭事務局は、同日の会議で7月中旬にある「企画登録会」までに全面禁酒の方針を決定づけたいとしていた。「企画登録会」は11月祭の出展希望者が企画情報を11月祭事務局に届け出る場で、今年は7月16日から22日まで実施される。

全面禁酒の方針に関しては全学実の会議での議論の末、参加者の多数決とすることを全会一致で決定し議決がとられ、1票差で可決された。(詳細は7月1日発行の本紙を参照)

③他大学の学園祭では

全面禁酒に踏み切る大学

他大学では京大に先行して酒類規制を実施する学園祭があり、全面禁酒から部分的な規制まで多種多様な運営が行われる。本章では、全面禁酒もしくは部分禁酒を行う全国各地の学園祭を取材して得られた回答から、そのありようを紹介する。取材に応じた学園祭の中でも、全面禁酒となっている箇所は多い。これらの大学では、過去にトラブルがあって全面禁酒に踏み切ったというケースがよく見られる。その中の4例を紹介する。

●東京大学(駒場祭)
駒場祭では2012年以降、全面禁酒の方針が続いている。それ以前には▼酒類を販売する団体は駒場祭委員会がすべて把握する▼駒場祭当日は定期的な見回りをする▼度数の高い酒の取り扱いを許可しない▼未成年者の飲酒禁止を喚起するなどの対策の下で酒類を販売していた。しかし、2012年に東大の教養学部の学生が飲酒事故で死亡したこと、また、その前年の駒場祭において飲酒をした者がほかの参加者に迷惑行為を行うという事例が発生したことから、当時の駒場祭委員会が全面禁酒を決定したのだという。
今年の駒場祭でも飲酒は全面的に規制される予定だ。

【主なルール・取り組み】

・酒類を提供する企画を立案することができない
・委員会の巡回

●京都府立大学(流木祭)
京都府立大学では、学内での飲酒が全面的に禁止されており、流木祭でも飲酒が認められていない。
流木祭実行委員会によると、2015年12月16日、部室で飲酒していた学生が急性アルコール中毒により死亡するという事故が起きたことを受け、学内での飲酒が全面禁止となった。これに伴い、流木祭においても飲酒が禁止されたという。
2015年までの流木祭では、飲酒が認められていた。京都府立大学体育会が「日本酒企画」を開催し、京都府内の様々なお酒を呑み比べできる場として人気を集めていたという。
2016年以降の流木祭では、酒類の持ち込みについて、実行委員会が見つけ次第注意を行い、さらに、抵抗するなどした場合は保安室や警備員に連絡するといった対応を定めている。

●九州大学(九大祭)
九大祭では、2007年に車で来場していない成人へ手形を発行し、部分的に禁酒。2008年以降は全面禁酒となっており、今年の九大祭でも、ノンアルコール飲料を含め、酒類の販売は全面的に禁止となる予定だ。

●北海道大学(北大祭)
北大祭では、2005年から全面禁酒の方針を取っている。それ以前の北大祭では、飲酒を全面的に容認していたが、毎年複数の泥酔者が運び込まれて当直の医師のもとで手当てを受けたり、病院に搬送されたりしたほか、酩酊状態の来場者による口論や暴行が報告されていた。北大大学祭全学実行委員会においてトラブルを防ぐための議論が行われていたが、2004年の北大祭後、毎年当直を依頼していた北大保健センターが医師の派遣を見送ることを決定したほか、大学当局から禁酒の打診を受け、本格的に検討が進められたという。参加団体との意見交換会を経て、北大祭全学実で全面禁酒を決定した。2005年以降、北大祭における全面禁酒は全学実において毎年可決されている。北大祭事務局によると、全面禁酒を実施して以降、飲酒事故は報告されておらず、喧嘩や暴力といったトラブルの件数は激減しているという。

【主なルール・取り組み】

北大祭の開催時間だけでなく、機材の見張り番をする参加団体などによる飲酒を防ぐために、深夜の見回りも行う
大学構内のコンビニエンスストアにおいて、北大祭の開催期間中は酒類の販売を停止する

部分禁酒を続ける大学

一方、見回りの強化などにより規制を部分的にする大学もある。これらの大学では、規制そのものの強化に代わり、規制違反者の立ち退きや学祭運営による見回りを強化する傾向が見られる。

●大阪大学(まちかね祭)
酒類の持ち込みや構内での飲酒を禁止しないものの、学祭実行委員会内の担当部署が協議して規制を行っている。酒類の提供を希望する出店者に誓約書の提出や講習会への参加を義務付けたり、熱燗や混ぜ合わせのものといった酒類の提供を禁じたりする。酒類提供が可能な団体数に上限を設けるほか、酒気帯び状態での企画参加も禁じる。また、昨年の同祭で体調不良者を出したことから、今年は酒類を提供する全団体に対し、学祭実による立会いの上での販売を求めるという。

【主なルール・取り組み】

提供できる酒類のアルコール度数は館内では20度以下、模擬店では10度以下
一度に提供できる酒類は350㍉㍑まで
缶で酒類を提供する場合、プルタブは開けた状態にする
屋内で酒類を提供する団体は提供場所に5人以上待機する

●学習院大学(桜凛祭)
20年近くビールの提供を続けている。規制としてはビールの提供杯数に上限を設けるほか、ビールを提供するコップを指定している。同祭担当者によれば「大学構内でアルコール持ち込みが禁じられているため、学校側と会議を重ねて出来た規定だろう」という。

●東京外国語大学(外語祭)
外語祭では、「アルコールパスポート」という制度を実施している。このパスポートは、外語祭実行委員が身分証で年齢を確認したうえで希望者に販売するもので、5つのマスが書かれている。アルコールが14㌘以下の飲料は1マス、28㌘以下のものは2マスと定められており、各模擬店でアルコール飲料を購入する際、店の販売者が該当マス数のチェックを入れる。パスポートの購入は一人につき1日一枚までとなっているため、5マス分埋まった場合、それ以上アルコール飲料を購入することができない。

【その他のルール】

アルコールが28㌘より多い酒類の販売禁止
アルコールを提供する団体は、事前にアルコールの度数と提供量を実行委員会に申告する
飲み過ぎと未成年への譲渡を防止するため、瓶・缶のアルコール飲料は開栓して販売する
アルコールを提供する企画の出店者を除き、アルコール飲料の持ち込み禁止

●東京大学(五月祭)
五月祭では東大で11月に行われる駒場祭が全面禁酒になった直後から、アルコールパスポート制度を実施している。これは酒類の購入時に参加者にリストバンドの提示を義務付けるもので、酒類を注文するごとにチェックを受け、枠の上限数ごとに学祭実行委員会のチェックを受ける。カード発行時には学祭運営が身分証明書で年齢確認する。同祭担当者によると、先行して導入した東京外国語大学(外語祭)を参考にしたもので「大学当局との協議のもと、酒類取扱を継続するために自主的に導入した」という。チェックを付けないなど規定に違反した団体には酒類の提供を一時停止するなどの措置を取り、悪質な場合は団体名の公表を行うことも検討する。また、酒類を提供する団体に酒類規制の協力に関して毎年誓約書を求めているという。

【主なルール・取り組み】

酒類の提供団体は学祭実に誓約書を提出し、販売時に許可証を着用する
アルコール度数が高い酒類を提供する際には一杯の量を少なくするなどの対策を求める
前売り券を発行する場合はアルコールパスポート制度がある旨を明記する
泥酔者への酒類の提供は行わない
1年生が主催する企画での酒類提供は禁じる

●多摩美術大学(芸術祭)
飲酒問題について対策を考えるため、酒類の提供を希望する出展者と学祭実行委員会とで「酒会議」を毎年開いている。また、酒類の提供者に販売状況を記録させているほか、泥酔時の応急手当てをレクチャーし、水やエチケット袋を常備させる。芸術祭では未成年者にソフトドリンクと誤って酒類を提供するトラブルが発生したほか、泥酔者がビンを投げ負傷者が出た。学祭実によるとこの2件を受け、「気の緩みを引き締める」ことを目的に2013年実施の芸術祭に限り完全禁酒とした。2014年からは酒類の販売を再開したが、大きなトラブルは起きていないという。

【主なルール・取り組み】

提供できる酒類はアルコール度数が7度以下で、瓶入りではないもの
酒類の販売と飲酒は指定スペースに限る
酒類を提供する際はプラスチックコップのみとし、「お酒」と書かれたステッカーを貼る

④飲酒を楽しむために

11月祭において、それぞれが安全に、節度を持って飲酒を楽しむことができていれば、救急搬送者が出ることも、ひいては全面禁酒が提起されることもなかったと考えることができる。飲酒を楽しむには、正しい知識を持ち、飲酒に起因するトラブルを防ぐよう努め、それでも万が一危険な状態に陥った人がいる場合には、最悪の事態を避けるべく適切に対応することが求められる。そこで、この章では、11月祭での救急搬送の主な理由となっている急性アルコール中毒についてまとめ、11月祭に限らず、飲酒に際して注意すべき点を確認する。

危険な状態に至るまでの段階

酔いの程度は、血中アルコール濃度によって段階的に変わる。アルコール健康医学協会は、その段階を6つに区分けしている(表1)。急性アルコール中毒は、短時間に多量の酒を飲むことにより血中アルコール濃度が急上昇して、脳に影響を与えるものである。性別や個人によって差があり、健康状態や環境にも影響されるが、一般的に、「爽快期~ほろ酔い期」にあたる量までの飲酒であれば、急性アルコール中毒になる可能性は低い。これを超えない程度の飲酒を心がけることが大切となる。

飲酒はほどよい量で

では、上記区分の「ほろ酔い期」を超えない程度とは、どのような飲み方が目安となるのか。「爽快期~ほろ酔い期」の酔いをもたらす酒量は、純アルコール量20㌘前後である。これは、ビールであれば500㍉㍑に含まれる量となる。そのほか、20㌘に相当する各種酒類の量は、表2を参照。なお、女性や高齢者、体格の小さい人は体内の水分量が少なく、血中アルコール濃度が高くなりやすいため、表2で示される量よりさらに少量にとどめる必要がある。

泥酔者の介抱

「ほろ酔い期」を超える酒を飲んで泥酔した人がいる場合、事情はどうであれ、周囲の者には介抱する責任がある。その際、▼一人にせず、呼吸の有無を確認する▼横向きに寝かせる▼体を温めるという3点に注意する必要がある。2点目について、意識を失った場合、あお向けに寝かせると、嘔吐物で窒息する可能性があるため、顔を横に向けて寝かせることが推奨されており、回復体位と呼ばれる。また、自分で吐けない場合は、無理に吐かせようとはせず、ネクタイやベルトを外して衣服をゆるめることが有効となる。さらに、意識がある場合は、水やお茶、スポーツドリンクなどを飲ませることで、血中アルコール濃度を下げることができる。

●最悪の事態を避ける

また、以下に当てはまれば、すぐに救急車を呼ぶ必要がある。▼ゆすっても呼びかけても反応しない▼全身が冷えきっている▼呼吸が異常に早くて浅いか、時々しか呼吸をしていない▼大量の血や食べ物を吐いている▼倒れて口から泡を吹いている▼大きないびきをかいており、つねっても反応がない。本来は、これらの症状が出るまでに歯止めをかけなければならないが、万が一このような状況に至った場合は、迅速に救急車を呼び、最悪の事態を避けるよう努めなければならない。

危険な飲み方を強いるような雰囲気を作らないようにするのが一番望ましいが、場の空気を変えるのは簡単なことではない。それでも、自分や周囲の安全を守れるように正しい知識を持っておくことが、飲酒を楽しむ環境を保障するはずである。

※表1・2は紙面に掲載

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