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賃下げ訴訟地裁、国家賠償請求を棄却 原告は控訴の意向

2018.10.16

9月25日、京都地方裁判所は、京大職員に対する賃下げ要請は違法だとして、京大教員である原告が賃金減額分の支払いを求めた国家賠償請求を、棄却する判決を出した。原告・高山佳奈子氏はこれを不服として10月2日に控訴した。
今回の国家賠償請求の原因となった賃下げは2012年8月から14年3月に、東日本大震災復興財源確保に伴う運営費交付金減額に応じて就業規則を変更して行われた。そして2013年6月に職員組合の組合員らが減額分の給与の返還を求めて京大に対して訴訟を提起している。この裁判は第一審と控訴審で棄却判決が言い渡され、最高裁では上告が棄却された。審理の中で、運営交付金が減額されると大学運営に支障をきたすという事情により国からの要請を拒むことができず、賃下げを行わざるを得なかったと京大は認めた。返還訴訟では、京大の行為は不当ではなく減額の程度も合理的だとして請求は退けられた。そして今回の訴訟は、国による賃下げ要請が違法な行政指導であるのかを争点として賠償を求めたものである。

判決書によると、主に争われたのは(1)要請が国立大学法人法35条と独立行政法人通則法63条の趣旨・目的に反するかどうか(2)要請が行政手続法32条に反するか、の二点である。(1)については国立大学職員の給与の支給基準は「社会一般の情勢」に適合したものでなければならないとそれらの法律にはある。原告は国立大学職員の給与は民間企業従業員のそれに比較すると明らかに低い点を指摘し、賃下げは「社会一般の情勢」への適合に逆行するものだと主張した。一方で被告はその当時行われていた国家公務員の給与減額措置を「社会一般の情勢」と捉え、その適合のための措置として賃下げは適法であると主張した。そして裁判所は、国立大学の業務には公共性がある点と運営費の一部が国費で賄われている点から、国立大学職員の給与の在り方は国民の理解と納得を得る必要性があると指摘した。今回の要請はこの必要性を満たすために国家公務員の給与減額措置という動向を踏まえたものであり適法であるとの判断を下した。また、国家公務員と民間企業従業員のどちらの給与水準に重点を置くかは労使に委ねるものだと述べた。

(2)については、まず行政指導とは「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するために特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの」(行政手続法第2条)と規定されている。「任務又は所掌事務の範囲」に含まれない指導や「行政目的を実現する」手段とならない指導は同法32条に違反する。原告は、そもそも国の財政的な必要性は運営費交付金の削減に尽きていて今回の要請は単なる財産権の侵害だと主張し、同法32条の違反であるとした。この主張に対し被告は国立大学職員の給与に関する行政指導を規制する規律は存在しないことから、今回の要請は文科省の「任務又は所掌事務の範囲」に含まれると主張した。裁判所も同様の判断を下し、さらに(1)において要請は十分な合理性を持つものであると示されているので、「行政目的を実現する」手段であると評価されるとした。

高山氏は発表したコメントの中で、判決は「国民の理解や納得」が行政目的としているが世論自体は独立の行政目的にはなりえないと述べている。存在しない世論あるいは誤解や単なる感情的な意見を前提にした一審判決は、憲法および行政手続法の定める「法律による行政」の原則に明らかに違反しているとも主張した。

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