文化

〈映画評〉『聖の青春』

2016.12.01

将棋はよく分からないという人でも、羽生善治という名前を聞いたことはあるだろう。1996年に将棋界初の7タイトル独占という快挙を成し遂げ、今も将棋界のみならず日本全国、ひいては世界にその名を轟かせている現役のプロ棋士である。かつてそんな羽生氏と並び、畏れられた天才棋士がいた。村山聖である。幼少時に難病ネフローゼを発症し、闘病生活の中で父に将棋を教わったことが彼の人生を大きく変えた。『聖の青春』は、29年という短い時間に凝縮された彼の将棋人生、そして「生きること」に執着し続ける姿を描いた作品である。

この作品の見どころは、何と言っても登場人物の見せる表情である。松山ケンイチ演じる村山聖が対局中に放つ、鋭い眼光には体を貫かれるようだ。この作品に限らず、松山ケンイチの目の演技は圧倒的な気迫を感じさせる。

また、東出昌大演じる羽生善治の対局中の仕草にも注目したい。頭を抱えたり、眉間にしわを寄せて長考したりと、将棋ファンにはおなじみの光景が細部まで如実に再現されている。知っていればところどころで「あ、これは」とピンとくる場面に出会うだろう。もし将棋を知らなくても、キャストの演技やストーリーは十分に楽しめる。是非一人でも多くの人に見てもらいたい作品だ。(の)

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