企画

ドライブ紀行2024 明石・鳴門・淡路島・掬星台

2024.04.01

ドライブ紀行2024 明石・鳴門・淡路島・掬星台

地理院地図より作成

運転免許を取得したらドライブに行こう。その参考になればと願い、京大新聞では毎年、編集員が車で出かけて紀行文を掲載している。今年の行先はうずしおで有名な鳴門。縦横無尽にいつでも移動できる車の利点を生かして、明石や淡路島にも寄り道し、ちょっぴり贅沢な一日を過ごした。旅の終わりは夜景が有名な掬星台(神戸市)へ。果たしてうずしおや夜景を見ることはできたのか……。(編集部)

目次

食欲に従って
うずしおへの期待を胸に
名産とスリルを味わう
「1000万ドル」の夜景
霧の向こうへ

食欲に従って


京大を出発して、まず兵庫県明石市にある魚の棚商店街に向かった。シャッター街化した商店街も多い昨今だが、ここは違った。入ってすぐ、行き交う人と頭上でなびく幕の多さに驚愕。思わず声が漏れた。「いらっしゃい」。威勢いい声が飛び交う道を進み、商店街の端にあった玉子焼屋で休憩することに。この玉子焼とは、卵を使ったふわふわの生地にたこが一切れ入った明石の郷土料理で、明石焼とも呼ばれる。出汁で頂くのが特徴的だ。6人で30個を瞬く間に完食した。

魚の棚商店街は平日でも賑わいを見せていた



名物の明石焼は出汁に浸して食べる



「まだ食べられる」。次に入店したのは居酒屋さん。カウンターでメニューに悩んでいると、無性にアジの刺身が食べたくなった。注文後、目の前の店員が生簀から魚を1匹取り出して捌き始めた。まさかと思ったが、出て来たのはまだ動いているアジのお造り。旨かったが、アジの潤んだような瞳に「注文しなければ……」と申し訳なさを感じずにはいられなかった。だが、さすが店員。刺身のなくなった皿を見るなり「揚げますね」と一言。潤んだ瞳を取り除いたアジの唐揚げが出て来た。先程の感情はどこへやら。骨まで全て食い切った。「私は食い意地が汚い」。学びのある旅となった。(郷)

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うずしおへの期待を胸に


お腹を満たした一行は、うずしおを見ようと徳島を目指す。潮の動きが大きくなる満潮の15時に間に合うよう快調に車を走らせる。淡路島を経由して、徳島に到着した。船のチケットを買う際、職員に「大きなうずしおを見ることが難しいかも」と申し訳無さそうに告げられた。顔を上げると、案内板にうずしおの迫力度「低」を表す無表情な顔文字が表示されている。一抹の不安がよぎったが、せっかくここまできたからと出航を待つ。

船は、うずしおが発生する大鳴門橋の下へ。デッキに立つと、波が力強く打ち付ける様子を間近で見ることができる。強い風が吹きつける中、海の迫力を体感しようと目的地に着くまでデッキで過ごした。うずが巻く場所に近づき、一行はうずの巻く場所を一生懸命探したが、目に入るのは小ぶりのうずばかり。他の日に来ていたら大きなうずを見ることができたかもしれないと後悔が残った。

うずしおとみるかは人それぞれ?



船を降りた後は、扇の希望によりジェラートを食べに行くことに。編集員は、徳島産の材料を使用した色とりどりのジェラートから好きな味を選ぶ。筆者の選んだ味は徳島県産のかぼすとイチゴベリー。どちらも口溶けが良く、酸味と甘さのバランスがちょうどよい。海で苦い思いをしたあとだったからか、ジェラートの甘さがしみた。(史)

名産の芋やすだちを使ったジェラート


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名産とスリルを味わう


甘く冷たいジェラートを楽しんだあとは、お待ちかねの夕食だ。ついでにお土産も買ってしまおうという魂胆から、淡路サービスエリア内のレストランで食べることに。メニューを開くと、しらす御膳や玉ねぎ御膳、生さわら丼など、淡路島の特産品を使った料理がずらりと並んでいて目移りが止まらない。筆者は「淡路島産蛸と鯛めし御膳」を頼んだ。蛸の天ぷらも鯛めしも美味だったが、お気に入りは副菜の蛸の酢味噌和えである。商店街で明石焼と蛸めしを食べた筆者にとってこの日3度目の蛸であったが、この蛸が群を抜いて美味しかった。

淡路島産蛸と鯛めし御膳



淡路サービスエリアに来ると必ず目に入るのが大観覧車だ。高さは65㍍で、1周するのに約15分かかる。上空から夜景を望もうと、軽い気持ちで乗り込んだ。しかし、全体の4分の1ほどに差し掛かったとき、尋常でない勢いで風が吹きつけてきた。なぜかゴンドラは遅々として進まず、ものすごい音に囲まれてまるで生きた心地がしなかった。次第に風は弱まり、ライトアップされた明石海峡大橋を鑑賞する余裕もうまれたが、降りたときにはさすがに感動よりも安心が勝った。スリルを味わいたい方は、風の強い日に観覧車に乗ってみるのもひとつの手かもしれない。(鷲)

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「1000万ドル」の夜景


夕食の後、掬星台に向けて走り出した。標高約700㍍の位置に存在する絶景スポットで、その名の通り「手をのばすと星を掬える」ことからその名がついた。神戸市内から大阪まで、「1000万ドル」の夜景を望むことができるらしい。

順調に高速を進み、展望台が位置する摩耶山に突入する。しかし、標高が上がるにつれて霧が濃くなってきた。最終的に5㍍先もはっきりとは見えないほどになってしまった。怯えながらも慎重に進むと、後続車のヘッドライトがルームミラーに映った。慣れない山道に加えて、濃い霧に辟易した私は、道を譲ることにした。ゆっくり減速し、ハザードランプを焚くが追い越す気配はない。振り返ると、後続車も譲る素振りを見せ、まさかの譲り合いが発生していた。泣く泣く、車列の先頭で孤軍奮闘していると、突然、視界の端に小さい影が映った。慌ててブレーキを踏むとリスのような小動物の姿が。お化けでないことに安心しつつも先を急いだ。

最後は車を停めて歩いた



苦労の末、ようやく展望台に到着した。肝心の夜景は霧のせいで全く見えず。肩を落として、来た道を引き返すことになった。霧の中をひたすら進み、気がつくと視界はすっかり良好に。「帰るまでがドライブ紀行」。心のなかでそう唱えながら、改めて気を引き締め直して帰路を急いだ。(爽)

展望台からは霧しか見えなかった


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霧の向こうへ


霧のむこうに住みたい。イタリア文学者の須賀敦子さんが書いたエッセイに、そんな題名のものがあったと思うが、私はもう霧にはうんざりだ。展望台からの帰りみち、曇った眼鏡のような視界のむこうに、歩いている人が見えた。助手席にいた私が見つけたが、皆は「どこですか」と言う。一瞬、自分にしか見えていないのかと思って、背筋がぞっとした。結局、他のひとにも見えて良かったが、あのひとがなぜ、濃霧が立ち込める暗い山道をひとりで歩いていたのか、それは謎のままだ。

山を降り、高速に乗った後しばらくして、ドライバーの爽がナビの案内を切った。車は、往路で利用した京都南ICを通り過ぎ、京都東ICへ。かつての東海道を追うように、山科から京大へ帰る道すがら、なぜか大通りから逸れた。「このまま終われんでしょう」と爽が笑う。爽は、夜景のリベンジを果たすため、京都の夜景の名所「将軍塚」に向かうと明かした。曲がるところを間違えるハプニングもあったものの、車はすぐに将軍塚に着いた。足元には、「ニデック京都タワー」に生まれ変わる京都タワー。遠くには、ランプが等間隔に並ぶ名神高速が見えた。京都盆地を一望でき、光の一筋もない掬星台の比ではなかった。身近なところに幸せはあるのだと、少し普遍的なことに思いを馳せながら、旅は静かに幕を閉じた。(扇)

将軍塚から眺めた京都の夜景


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