企画

ドライブするなら奈良しかない ドライブ紀行2023 吉野山・飛鳥・奈良公園

2023.04.01

ドライブするなら奈良しかない ドライブ紀行2023 吉野山・飛鳥・奈良公園

咲きこぼれる梅と蔵王門。3体の蔵王権現を本尊とする蔵王門は安土桃山時代の再建。木造古建築としては東大寺大仏殿に次ぐ大きさだ。

運転免許を取得したらドライブに行こう。その参考になればと願い、京大新聞では毎年、編集員が車で出かけて紀行文を掲載している。今年の行先は春の訪れを待つ奈良である。桜が咲き乱れるはずの吉野山を目的地と定めたものの、ほぼノープランで出発。気ままでのどかな旅は古都の趣を、そしてとりどりの食を味わう楽しいものとなった。日のあたたかさが身を包むこの季節、免許を取り立てのひともベテラン運転手も、隣の古都に足をのばしてみてはいかがだろうか。(編集部)

目次

成り行き任せの珍道中
桜も門も準備中
桜がなくともメシがある
ヒーローは遅れてやってくる
疲労は遅れずやってくる


成り行き任せの珍道中


京大を出て、一路南に向かう。目指すは吉野山、麓のロープウェイ駅近くの駐車場だ。カーナビに目的地をセットすると、高速を使うルートが表示された。運転する私は「高速は怖いから下道で」とごねたのだが、後部座席の涼が「早く着く方にしよう」と言うので、仕方なく鴨川西ICに向かった。平日だからか、京都と奈良の県境辺りまではスイスイと進んだ。ところが、カーナビの指示に従って高速を降りると、徐々に車が多くなってきた。吉野まではまだ距離がある。高速に乗りつづければよかったのに。そう思って窓の外を見ると、そこに高架道路はなく、柱脚だけが等間隔に立ち並んでいた。そこまで通ってきた京奈和自動車道は一部区間が建設中だったのだ。しばらく走り、再び自動車道に乗ると、車の流れがスムーズになった。この道が必要とされる理由が、分かった気がした。

そんなこんなで「駐車場」に着いたのだが、そこにはロープが張り巡らされ、入ることができなかった。結局、ロープウェイは諦め、並行するもう1本の道路沿いの大きな駐車場に向かうことにした。「七曲り」という、名前からして通りにくそうな道が近道だったが、急がば回れだと考えて、来た道を引き返した。(扇)

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桜も門も準備中


京都を出て3時間弱、ついに世界遺産・吉野山に到着した。吉野山一帯は古くから山岳信仰の中心として知られる。日本古来の山岳信仰を基礎として、仏教や道教など様々な宗教が習合したのが修験道だ。そして、7世紀後半、修験道の開祖・役小角が建立したのが目的地の金峰山寺である。有名な吉野のヤマザクラは、役小角が感得した修験道の本尊・金剛蔵王権現をヤマザクラに刻んだことに由来する。

あいにく、桜は多くがまだ蕾のままだ。加えて、金峰山寺に近づくにつれ大きな工事用足場が出現した。なんと、国宝の仁王門が改修工事中だったのだ。思わず、編集員も苦笑いだったが、同じく国宝の蔵王堂を無事に拝観し、胸をなでおろした。ずっしりと腰を下ろし、来観者を迎え入れる蔵王堂はまさに威風堂々といった佇まいだ。境内は梅が見頃を迎え、着実に春の到来を告げていた。編集員は照れながら顔出しパネルに顔をはめ、通行人に依頼して記念撮影を済ませると、足早に金峯山寺を後にした。

金峰山寺で引いたおみくじは「大吉」。春からの生活に胸を躍らせたのも束の間、恋愛は「今ひとつ行動をおこせずに停滞。環境をかえよ」とのこと。筆者に春が来るのはもう少し先のようだ。(爽)

吉野山の駐車場で、早咲きの桜が編集員一行を出迎えた。



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桜がなくともメシがある


花より団子というが、「より」もなにも花がないので団子に関心が向くのも致し方ない。食べ盛り4人は事前に目を付けていた豆腐茶屋に向かった。揚げ出し豆腐に麻婆豆腐、さまざまな豆腐料理のメニューから筆者が選んだのは厚揚げ膳だ。パリッと焼けた絹揚げは香ばしく、大豆のうまみが口に優しい。湯葉やごま豆腐など、豆腐尽くしの小鉢も満足感いっぱいだ。出汁をたっぷり含んだがんもどきを一口で食べようとした猛者もいて、実に愉快な昼食となった。

思い思いの豆腐料理を注文。味噌汁に入っている油揚げがジューシーだ。



食事が終われば甘味が欲しくなる。土産屋に連なる「葛」の文字、食欲が向いた先は吉野の名産・葛餅だった。食べ歩き用のカップに入った葛餅を買い、駐車場に戻りながらつまようじでつつき合った。素朴な甘さの餅にきなこと黒蜜がたっぷり絡み、予想以上の美味しさに一同目を丸くする。これは手が止まらない、そう思った矢先にうっかりようじを取り落としてしまった。大事な場面ではいつもこうだ。残りの葛餅は扇に渡したが、全く悔いのない満足感である。吉野といえば桜がいちばんに思い浮かぶけれども、食事だけでも充分楽しめるというのはよい発見だった。(凡)

カップ入りの葛餅。サービス精神旺盛な店員の方が山盛りにしてくれた。



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ヒーローは遅れてやってくる


さて、吉野山からどこへ行こうか。地図アプリを眺めつつ考えた結果、次の目的地は石舞台古墳となった。

車を走らせること小一時間。のどかな風景が広がる明日香村に、石舞台古墳は位置している。国の特別史跡に指定されており、蘇我馬子が埋葬されているという説が有力だ。

巨石の積み重なったその特徴的な形は、昔教科書で見たとおりだった。意外にも石室へは自由に入ることができる。埋葬された気分を気軽に味わえた。

教科書でおなじみの石舞台古墳。石室の中はほどよく涼しい。



隣接する駐車場に戻ると、不覚にも、編集員の目は売店に掲げられた「ジェラート」の文字に釘付けになる。「いや、これは食べるしかない」。明日香村産のジェラートだ。車内でのんびり味わった。

4人で食したジェラート。明日香村産の黒豆などの地元の食材を使っている。



さて、小旅行も終わりが近づいてきた。石舞台古墳から奈良市内へ向けて北進する。恥ずかしながらその間、筆者(無免許)は爆睡していた。

奈良公園の近くに車を止める。鹿と戯れつつ東大寺の方向へ歩いて行くと、見慣れた人影が視界に入った。それは――我が新聞社が誇るベテランドライバー、村である。自信を持って運転できるドライバーが扇一人だったため、京都で所用を終えたあと、わざわざ近鉄で奈良まで運転しに来てくれたのだった。(涼)

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疲労は遅れずやってくる


奈良公園の鹿が編集員に群がる。観光客が増えても食欲は健在だ。



ヒーローなどと大げさに迎えられて合流し、駐車場へ向かう。東大寺の閉門を知らせる音声が響く夕刻、車に乗り込んだ。すぐに気づいた。車内が静まり返っている。ここまでで何があったのかは知らないが、疲労感がただよう。腹ごしらえが必要だ。

「しずかですね」。助手席の扇がそう言ってカーナビに行き先を入れる。「かまめししずか」。静かではなく志津香、店名だ。他の4人であらかじめ調べていたらしい。筆者は何も言わず、静かにアクセルを踏んで店へ急いだ。

10分ほど走ると、創業60年の和食店「志津香」に着く。七種釜めしをいただく。穴子、エビ、カニ、シイタケ、三つ葉……箸ですくうたびに味が変わって飽きない。少しよそってふたを閉め、少し食べてしばらく待つと、だんだんおこげができていく。気づけば場の雰囲気もまた温まってきた。同じ釜の飯を食う仲間として、間近に迫る紙面発行の成功を誓い、店を後にした。

「志津香」で味わった釜飯。冬季限定メニューの大粒の牡蠣が味わい深い。



帰り道の運転は記憶がないほど順調で、少なくとも筆者は元気に帰京した。疲労はいつやってくるのだろうか。それは知るよしのないことだ。(村)

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