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「出世払い奨学金」創設 大学予算全体も微増へ

2012.01.23

昨年12月24日、政府は2012年度文部科学省予算案を閣議決定し、大学関係者から大幅削減が懸念されていた国立大学法人関係の予算は全体としては微増するほか、返済猶予型の奨学金制度が新設されることなどがわかった。

返済不要な給付型奨学金の創設は財務省との折衝で高校・大学ともに見送られた一方、新規無利子貸与者は過去最大の1万5千人となって無利子貸与者は総計38万3千人に、また「所得連動返済型の無利子奨学金制度(仮称)」が新設された。これは文科省管轄の独立行政法人・日本学生支援機構が貸与する無利子奨学金(第1種)について、所得300万円以下世帯の学生を対象に、奨学金貸与を受けた本人が卒業後一定の収入に達するまで返還を猶予する制度。現行制度では所得300万円以下世帯の学生は最長五年間返済を猶予できたが、新制度は返済期限を一定収入という条件付きで撤廃したためこれと対比して「出世払い奨学金」とも呼ばれている。ただ「一定の収入」が指す金額は会見で「これからの議論」(中川大臣)とされており、先行きは不透明だ。

国立大学の基盤的予算を決定する国立大学法人運営費交付金は1兆1423億円と105億円減額、前年度比0・9%削減された。また昨年度新設の「大学教育研究特別整備費」から名称変更した「教育研究力強化基盤整備費」は、15億円削減で43億円。一方穴埋めとして「国立大学改革強化推進事業」(138億円)が新設されたため、国立大学関係予算はこれら三つを合わせると19億円増加した。新たに盛り込まれた国立大学改革強化推進事業は、「国際的な知の競争が激化する中で、大学の枠を超えた連携の推進や個性・特色の明確化などを通じた国立大学の改革強化を推進する新たな補助金」を指す。中川正春文科省大臣は同日開かれた政務三役記者会見の中で「運営費交付金の一部を、この(大学)改革と大学強化に向けて進めるインセンティブを作っていく、そのような枠組みの中で使っていきたい」と語り、運営費交付金から「改革」補助金へと予算が動いた形だ。

国公私立大学での大学教育改革予算では、リーディング大学院構築を企図する「博士課程教育リーディングプログラム」が116億円(77億円増)、「学生のグローバル化を推進」する「グローバル人材育成推進事業」(50億円)新設などが打ち出された。

【解説】

奨学金貸与を巡っては、返済滞納者に対して取り立て強化がすすめられ、法的措置や個人信用機関へ個人情報を通報するなどの「抑止策」が講じられている。現行制度では3ヶ月滞納すると、銀行等に信用情報を提供する個人信用情報機関へ通報され、クレジットカード利用やローン契約が出来なくなる恐れがある。日本学生支援機構が2009年度奨学金滞納者を対象に実施した属性調査では、延滞6ヶ月以上者の87・5%が年収300万円未満、延滞理由(複数回答)では「本人が低所得」が49・1%となっており、本人が低所得ゆえの延滞者が数多く存在し問題化している。

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