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クスノキ下占有は“違法” 裁判費用は組合負担に

2009.11.08

10月29日、京都地方裁判所第6民事部にて、京都大学時計台前の土地占有明渡し請求をめぐる判決が出た。事案は、2月23日より京都大学時間雇用職員組合Union Extasy(ユニオンエクスタシー)が、ストライキを目的として時計台前土地をテントを張るなどして占有したことに対し、京都大学が土地明渡しを請求したもの。

組合は時間雇用職員の待遇改善を求めて結成された労働組合で、ストライキとは、京大非常勤職員の契約条件を定めた就業規則(いわゆる「5年条項」)をめぐるもの。2月23日に占有を開始して以来、「首切り職員村」と称しパフォーマンスを繰り返すなどして雇用問題に関するアピールを続けてきた。

判決では、①該土地の明け渡し、②訴訟費用の被告(組合)負担が命じられた。ただし、組合側は、該土地に対する仮処分(占有の移転を禁ずる暫定命令)執行後の6月末に該土地を退いており、明渡し自体に関する訴訟利益は薄く、専ら当事者双方の面目、訴訟費用の負担が背後の争点であったと言える。判決では「仮処分決定は当該不動産の引き渡しまたは明渡しの執行を保全することを目的とするもの」とし、自主退去以前に仮処分が下されたことに基づき請求が認容された。

判決に対し、勝訴した大学側は「引き続き適切な教育環境の維持に努めてまいりたい」とのコメントをHPに掲載。一方で、組合側はブログで「現実からあまりにかけ離れている、という意味で不当判決」とコメントし、移転した土地における占有は続けると主張している。

【編集員の視点】 奇妙な結論―司法制度体系の保全を目的とする訴訟―

今回の判決で興味深いのは、「占有していない土地を明け渡せ」とする処分が出たことだ。背景には、仮処分が出たことに組合側が戦略として土地を退き、「訴えの利益の喪失」から訴訟の却下(裁判所が判断を拒否すること)を狙ったことがある。組合側の真意は「5年条項」をめぐる雇用待遇改善請求をめぐる訴訟の方にあり、本件に副次的な認識しかなかったことにもよるだろう。

一見して不思議な結論に至っているのは当然で、裁判所側も4回に渡った口頭弁論の過程で和解を勧めている。専ら「仮処分」制度という司法制度体系の保全を目的とする訴訟となった。組合側は「ストライキを目的とするもので占有は正当化される」と主張したが、「物的施設を無断使用する組合活動は、その使用拒否が権利乱用に当たるときに限り許される」とする判旨の通り、時計台前の占有から必然性を導出することはできない。組合側は「委縮効果を狙った強者のための裁判」とする見解も示すが、そうした実態と司法作用の乖離がしばしば起こるのは、新しい社会問題に対する実体法秩序の未熟さに因るところが大きく、必ずしも裁判制度の不備ではない。今回の事案は問題の本質的な表出とみるべきでなく、以後の雇用問題をめぐる展開に注視すべきだろう。(麒)

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