企画

大学新聞座談会 京大新聞×東大新聞 特集「学生新聞に未来はあるか」

2024.04.01

大学新聞座談会 京大新聞×東大新聞 特集「学生新聞に未来はあるか」

座談会の様子(=東大新聞部室)

2025年4月に創刊100周年を迎える京大新聞。1925年、当時の顧問・佐々木惣一は「京都帝国大学の内外において大学の関係者間に温かき連絡を保つの機関なる」ことを京大新聞の使命と位置づけた。その思いは100年間ずっと変わらない。一方、時代は大きく変化し、今やどこでも気軽に情報を手にすることができる。次の100年を見据え、学生新聞に求められる役割はなんだろうか。「東大新聞オンライン」を通してウェブでも積極的に情報を発信する東大新聞との座談会で、変わりゆく大学新聞の可能性を探る。(爽・村)

東京大学新聞社
京大新聞よりも5年早い、1920年に「帝國大学新聞」として創刊。紙面発行のみならず、「東大新聞オンライン」などウェブメディアでも東大に関連した情報を中心に広く発信する学生団体。

参加者 ※所属は2024年3月現在
【東大新聞】
本田舞花 編集長(文科Ⅲ類2年)
岡拓杜 ニュース面チーフ(文科Ⅲ類1年)
天川瑞月 デジタル事業部長(理科Ⅱ類2年)

【京大新聞】
(文学研究科修士2年)
(法学部2年)

目次

視点1:現在地
視点2:課題
視点3:次の100年に向けて

視点1:現在地


ともに学生新聞として学内のニュースを報じる東大新聞と京大新聞。両者の共通点・相違点を比較する中で、学生新聞の今の姿を模索する。

規模・スタイルには相違点も


 紙面とウェブで記事執筆に違いはありますか?

本田 一般的なニュースは基本的にオンラインで先行公開します。ニュース以外の記事は原則として紙面で先に掲載します。ニュースだと、執筆から公開まで短いもので数日から1週間程度です。紙面については発行の2、3ヶ月前から動き出して、1ヶ月かけて取材や執筆・入稿作業を行います。

 ニュース先出しはやっぱり情報の鮮度という視点ですか?

本田 そうですね。紙面発行が3年前に週刊から月刊へと移行したので、速報性を担保する意図です。

本田 京大新聞はどういった執筆サイクルでしょうか?

 京大新聞は基本的に全て紙面が先で、1ヶ月後にウェブ掲載という流れです。発行のペース自体は同じで、ひと月ぐらい前から動き始めます。発行の直前はかなり忙しいですね。

 紙面のレイアウトについてはいかがですか?

本田 東大新聞の紙面は横書きなので、大見出しをおいて本文、写真、図表を入れる形が多いです。1つの面に入れる記事は基本的に1つなので、記事同士を組み合わせるレイアウトを組む機会はあまりありません。京大新聞を見ていると、記事同士を組み合わせて「遊んでいる」ようなレイアウトがたくさん見られて面白いなと思いました。

 トップ記事のように情報の優先順位を意識されますか?

本田 はい。巻頭インタビューをおいて、その直後に特集を組むのが基本的な紙面構成です。硬めの記事と読みやすい記事が交互に来るように、内容の緩急をつけることは特に意識しています。

 京大新聞はニュースが1面に来ています。インタビューや企画記事が中面に来て、最後に文化記事を配置します。タブロイド版(※)になる前の東大新聞だと、こういった構成をとっていましたよね。

※タブロイド判
京大新聞が採用する「ブランケット判」の半分の大きさの新聞のこと。朝日新聞や読売新聞、毎日新聞などの日刊紙がブランケット判を採用するのに対し、夕刊紙や機関誌などがタブロイド判を採用している。

本田 そうですね。タブロイド版に変更してから、表紙に巻頭インタビューの写真を入れることにしています。そのため、週刊時代のように最初にニュースを置く構成が難しくなりました。

編集長・本田さん


 企画やインタビューなどやわらかい記事と、硬いニュースの配分はどういうふうに決まっていくのでしょうか?

本田 基本的に配分は一対一ないしニュース・学術系の記事が少し多めという形です。特集は、ニュース・学術ほどは硬くない内容なので、全体では硬めの記事がやや多いぐらいの割合になると思います。

本田 京大新聞はそのあたりいかがですか?

 記事の割合でいうと、硬い記事とやわらかい記事は同じくらいの割合かなと思います。作っている以上、読者に読んでいただく必要があるので、手に取りやすい紙面を心がけています。最近は特に、インタビューに力を入れており、卒業生の方にお話を伺うことも多いです。一方で、ニュースを1面に配置しているため、紙面の「顔」としてニュース記事を大切にしています。内容的に読みやすいようなものにすることはもちろん、レイアウト・見出しの大きさなどの点を工夫します。

本田 以前、京大新聞で1面に国立大学法人法改正のニュース(※)が載っていて、ニュース化がとても早いなと驚きました。そういったところからも、ニュースを大切にされているのが読み取れますね。

※国立大学法人法改正のニュース
2023年11月16日号掲載「京大などに『運営方針会議』設置へ 国立大学法改正案 閣議決定」のこと。

 ニュース記事でいうと、東大新聞のニュース記事は京大新聞に比べて簡潔なものが多い印象があります。

 その理由として、東大新聞が記事をウェブでいち早く出すことを重要視していることが挙げられます。ウェブで掲載する「ストレートニュース」は、短く簡潔に、ウェブですぐ見られる点を重視しており、さらに深掘りする場合には、報道特集という形でスペースを取って掲載します。

東大新聞のストレートニュース。画像は東京大学新聞社HPより



京大新聞のニュース記事。2023年9月16日号掲載『【国際卓越研究大学】 京大 第1回公募は落選 東北大が最終候補に』



比較
国際卓越研究大学について扱った両社の記事。東大新聞の「ストレートニュース」の簡潔さが伝わる。2023年末には、同記事の内容をさらに詳細に扱った記事がオンライン公開されている。
『社会の中の東大 「自律的で創造的な大学」を目指した運営・連携2023』
https://www.todaishimbun.org/todaikeiei_20231225/

 東大のニュースのうち、特に力を入れて追いかけている分野などはありますか?

 昨今、東大が社会連帯に力を入れていると感じています。それに伴い、東大が推し進める様々な連携についてのニュースは毎回追っています。最近であれば、東大が地方自治体・企業と連帯するケースが多いですね。加えて、僕自身がこれからもっと追っていかないといけないと感じているのは、学内団体の動きについてです。東大の特徴として、入学後の約2年間、全員が同じ学部・キャンパスにいることが挙げられます。そこをもっと追っていければ、東大全体が目指す連携や、最近の大学法改正に関連する諸々の改革と同時に、東大を構成する学生という両面で、より東大の今を伝えられるのではと思っています。これらを報じるための体制を整えていくのが現在の目標で、現時点ではまだ発展途上だと感じています。

 京大新聞で継続的に追いかけているものでいうと、やはり裁判関連でしょうか。意識としては、もちろん中立に物事を伝える立場ですが、常に批判的な視点を失わないように心がけています。京大新聞は、採算など含め、何者からも独立している報道機関です。東大新聞では、大学・教員との距離感はどうですか。

本田 媒体としては東大および東大内のいかなる団体からも独立したメディアとして存続しています。

 ニュースのソースはどこから取ってきますか?

 現在は、東大の各機関のウェブサイトに掲載される情報と報道機関向けプレスリリースが中心です。それ以外にも部員が集めてくる情報も情報源になります。

2023年3月16日号から1年間で扱った主なニュース記事(編集部調べ。ダイジェストなどは除外)


 取材する相手は主にどういったところですか?

 東大本部の方針について取材したいことがある場合、基本的には広報課にまず連絡を入れます。場合によっては、経営戦略課などほかの機関への問い合わせをするように、広報課から連絡が来ることもあります。

 以前からずっとそういった形でしたか?

以前は、特に大学生協など電話での問い合わせもあったようですが、現在はメールで取材することが多いですね。週刊時代には各部局へ直接問い合わせることもあったとは聞いています。

 広報課への取材メールは充実した内容が返ってきますか?

 広報課に取材した際に担当者が東大新聞の卒業生であることもあり、比較的、親身な回答が多いような気がします。答えられない質問の場合にも、「記者会見の日を過ぎてから再度質問してほしい」とか「こういった形で取材してほしい」のように、必ずほかの候補を示して返事が来ますね。

本田 京大の場合はどうですか?

 京大新聞も、基本的に取材は広報課を通して行いますが、以前は部局に直接取材をして、回答をもらうこともあったようです。取材メールへの返事については東大の対応を聞いてとても驚いています。京大の場合には、特に裁判関連などだと淡白な返事が多いので記事執筆に苦労することがよくありますね。そういった場合には、別の経路から裏取りなどをして記事化を試みます。

以前は、総長が定期的に会見を開いて記者の質問に応じるなど、記者と大学の距離感というのも大きく違ったと思います。

 東大では記者懇親会が開催されています。最近は運営の新しいビジョンのような話が中心です。懇親会の中で、現在構想中のアイデアが示されて、「記事化の際には改めて取材してください」といった注意がされることが多いですかね。

 記事の執筆・チェック体制は?

 各記事ごとに原則1人ずつライターとチェッカーを設けています。進捗管理はニュース面チーフか編成担当が進めていく形です。

 ニュースを選ぶ基準は?

 最近の東大新聞のストレートニュースの傾向として、情報源が各機関のウェブサイトやプレスリリース中心になっている部分があります。それらを踏まえて、記事化するかどうかを面ごとの会議の中でその都度決めているのが現状ですね。

今後の課題として、記事化について統一的なラインを見出す必要があると感じています。現在は、ソースになりそうな機関ごとに担当を割り振って、サイトが更新されるごとに、担当者がチェックする体制で運用しています。今後はニュースにするかどうかを担当者が独自に判断して、複数の候補の中から会議で決定する形でやっていこうかなと考えています。その結果、担当者が自分たちの中で記事化するかどうかの感覚をある程度把握し、その分野で一貫した報道ができるようになることが目標です。また、このように担当者の専門性を高めることで、報道特集などで情報源が出す情報そのものについて批判的に検討していく体制を強化していきたいです。

 執筆の際、全体として一番意識するのは?

 最初はとにかく短く書くというのが、一番意識するところです。そのうえで、今後はプレスリリースの内容にとどまらず、関連情報などを最後に掲載することで、記事をより充実した内容にしていくことを模索しています。現在、紙面発行が月刊化されていて、速報性というよりは、記事の深みが求められているというのがその理由です。例えば、記事の内容に関して編集部独自の視点から解説するような欄が設けられたらよいのではと考えてはいます。

 短く書くというのは京大新聞でも口酸っぱく言われます。記事を書くときは重要な情報から順番に、とかも言われますね。

ニュース面チーフ・岡さん(画像は東京大学新聞社提供)


 ほかの学生新聞との交流は?

本田 直接的な交流はあんまりないですね。東大新聞にある「部活・サークル面」という組織の担当は、早稲田大学、慶応義塾大学などのスポーツ新聞と合同合宿を行ったり、合同誌といって六大学野球の際に協力して雑誌を出したりといった形で交流はあります。

前の編集長の頃、慶應塾生新聞さん主導で関東の4つの大学新聞が集まって座談会を行う企画が行われました。

本田 京大新聞の場合はどうですか?

 交換新聞という形で、毎号新聞を送り合うというのはありますが、直接の交流でいうとほとんどないのが現状です。そもそも、学生新聞が今まで存続しているところ自体が少ないのかなと感じます。スポーツ紙は、特に私立だと大学ごとに活動を続けている印象があります。年に何度かスポーツ取材で一緒になりますが、挨拶を交わすぐらいの交流ですかね。

 活動の規模感は?

本田 在籍する部員は約70人です。実働だと50人くらいでしょうか。スポーツ記事でいうと、今まではニュース担当部署の一部だったのですが、2023年に「部活・サークル」部署として独立しました。運動部の動きに加え、東大のサークルの幅広い魅力を伝えようというのがコンセプトです。野球、アメフト、ラクロスは特に積極的に取材に赴いています。

 実働50人ですか。とても多いですね。

 京大新聞は部員全体でも30人くらいです。実働に絞るともっと少ないです。

本田 京大新聞ではスポーツ記事の扱いは?

 扱いたい気持ちはとても大きいのですが、人数的な制約が大きく、野球の記事を定期的に掲載するのがやっとというのが正直なところです。最近だと、「京大知伝」という企画を掲載しています。東大新聞でいうと「キャンパスのひと」に該当する人物紹介面ですね。その企画内でスポーツに関連した方にお話を伺うことはあります。

本田 東大新聞でも、部活・サークル面を創設したのは最近です。継続して発信していくということに加えて、スポーツニュース特有の書き方など、ノウハウが失われてしまうともったいないので独立したという経緯があります。

京大新聞のニュース面(画像は24年2月16日号)


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視点2:課題


2022年、京大新聞でもウェブ上での情報発信を強化するため、HPをリニューアルした。一方、東大新聞は2021年に紙面をタブロイド版へと変更し、オンライン主体へとかじを切った。紙面との違い・共通点などに迫る。

京大新聞 オンライン活用に課題


 デジタル事業部長とは?

天川 東大新聞オンラインの担当者で、編集長とともにオンラインに公開する記事の最終チェックを担当したり、SNS投稿の管理を行ったりしています。

デジタル事業部長・天川さん


 ウェブ移行のタイミングは?

天川 2014年にウェブサイトを「東大新聞オンライン」としてリニューアルするという形で大きく変わりました。2021年には紙面が月刊タブロイド版に変化して、現在のようなオンライン記事の運用が始まり、紙面に掲載する記事の多くをオンラインで出し始めました。大きな変化という意味では2021年かなと思います。

 2021年の変化について、その理由はなんでしょうか?

天川 ちょうど東大新聞100周年を迎えたことが大きなモチベーションになりました。週刊だと毎週の紙面発行に注力する必要があったため、オンラインにより力を割くべく月刊に切り替えました。紙面とオンラインを両軸として進めていくため、というのが変化の大きな要因だと考えています。

 切り替えるにあたって、一番苦労したのはどこでしょうか?

本田 あくまで伝聞ですが、オンラインを主軸に据える上で、サイトのフォーマットやチェックのワークフロー、進捗管理など大きな価値観の再編が行われたと思います。

 読者から寄せられる反応に変化はありましたか?

本田 オンラインだと、問い合わせフォームがあるので、感想・ご指摘などをいただくことがあります。

 現役の部員の中には高校時代、東大新聞の紙面を手にしている部員もいるのでしょうか?

本田 どうですかね。入部前、東大新聞を定期購読していた部員は多くないのではと思います。紙面よりも、東大新聞が出している受験生向けの情報誌を読んだことがある部員の方が多いですね。

この冊子は、受験体験記や東大生の就職先一覧などが掲載されていて、学園祭などで受験生の皆さんに手にとっていただく事が多いです。

受験生向けの情報誌「東大を選ぶ2024」(画像は東京大学新聞社提供)


 京大新聞も以前、「京大を受ける人のために」という情報誌を発行していました。

ただ、受験産業の成長に伴って予備校が大きくなるとやがて発行しなくなっていくという歴史があります。

 事業全体でみると収益構造はどうなっていますか?

本田 紙面講読だと、定期購読が中心です。そのほかに、こういった情報本や入学記念アルバム、広告やタイアップ記事などから収入を得ています。

 オンラインのウェブサイトを見ているとすごく広告が多い印象があります。京大新聞は、一時期と比較して広告の割合が低下していますが、東大新聞はどうでしょうか?

本田 東大新聞でも広告の減少は経営面で大きな問題です。どの学生新聞も同じ課題を抱えているのではないでしょうか。購読者数の減少に伴って、企業へのアプローチが難しくなっているのが現状ですね。受験生向けの号だと、通常号に比べて手に取る方が多いので、広告が入りやすいです。こういった受験生向け冊子も、予備校など受験生をターゲットに広告を出したい企業の広告が見られます。

本田 京大新聞はどういった収益構造をしているのでしょうか?

 京大新聞ではタイアップ記事はしない方針なので、収入の面で言うと、定期購読、広告、入学・卒業アルバムの売上げなどが中心です。

 定期購読以外で東大新聞を手に取るにはどういった手段が?

本田 駒場と本郷にある生協の書籍部などで購入可能です。学園祭などでも紙面を販売しています。

本田 京大新聞はどこで販売しているのでしょうか?

 京大新聞は、大学生協での販売に加えて、京都市の書店の一部でも購入可能です。また、正門前など学内7箇所に京大新聞の販売ボックスがあるので、そこから購入することもできます。特にコロナ明け以降、観光客や高校生の集団などに多数購入していただいている印象があります。

 SNSはどういった媒体を活用されていますか。

天川 X(旧ツイッター)とインスタグラムを主に動かしています。

 オンライン主体の東大新聞からみた京大新聞の印象は?

本田 紙面に関しては、形式を切り替えることなく、いわゆる「新聞」の紙面として存続しているという点に凄さを感じています。京大新聞は紙面メインでありながらも、オンラインもかなり強く活用していて、特に、2011年以降、号ごとの記事一覧が載っていてそこから個別の記事を読めるようになっているのが驚きです(※)。東大新聞は紙面とオンラインが完全に分離していて、「何月号に掲載のニュースはこちら」などの情報が十分にまとまっていません。紙面の地続きとしてオンラインを使ってるのがすごく面白いなと感じています。

 近年、ウェブ記事を閲覧して、お問い合わせいただくことも多いですね。紙面だけではなくウェブも活用していかないといけないという中で、ウェブリニューアルに踏み切りました。一方で、まだウェブのポテンシャルを生かしきれてない感覚もすごくあります。たとえば、紙面先出しが原則なので、情報の鮮度でいうとすごく遅くなってしまう。

京大新聞HP


※京大新聞HP
記事そのものは2008年頃のものからウェブ上で閲覧できる。

 新鮮なニュースを早い段階で載せる反響も大きい?

本田 そうですね。特に東大生自身の生活に直結するニュースなどは多くリポストされるなど反響も大きいです。

本田 京大新聞でも、先日吉田寮裁判の速報ポストがありました。

 そうですね。多くの方に閲覧していただきました。しかし、あれは珍しいケースですね。SNSアカウントも存在はしていますが、活用にはまだまだ壁があります。ただ、我々の中でも、SNSの活用などこれから大きく変えていかないとという意識はありますし、今回のポストに寄せられた反響というのがそういった意識をより高めている感覚はあります。

吉田寮裁判についての速報ツイート(画像は3月26日現在)


 何かSNSで工夫していることはありますか?

本田 最近のニュースに関連して、過去にオンラインで公開した記事を紹介するなどして、SNSを見た人が最終的には東大新聞という存在を知るきっかけとなるように工夫しています。たとえば、共通テスト後から一般選抜2次試験の合格発表ぐらいまでは、過去の受験生向けの応援記事を再投稿するなどです。

 ターゲットにしている層について、紙面とウェブで変化はあるのでしょうか?

本田 紙面もオンラインも東大生と受験生、その保護者などが基本的なターゲット層です。ただ、微妙な違いもあります。定期購読者中心の紙面に比べると、オンラインに関しては、東大の内部に限らず様々な人に閲覧していただくことが多いですね。

紙面だとどの記事がよく読まれたかはわかりにくい一方、オンラインではその把握が容易です。去年の12月、大河ドラマの時代考証を行っている方へのインタビュー記事を掲載しました。紙面だと、その記事の反響がわかりにくかったのですが、オンラインで掲載したところ3ヶ月で5万アクセス以上をいただきました。オンラインだと東大外部の人にかなり読まれた事がうかがえました。より広い読者層に訴えかけられるのがオンラインの強みです。

 読者の反応はどういうふうにフィードバックしているのでしょうか?

本田 ご指摘や、「もっとこういった角度からの取材も見てみたい」といった意見はその面のチーフ(責任者)、ライターに伝えています。面ごとの会議で話し合うこともあります。

月に2回程度、発行した紙面についての批評を部全体で行っています。特集記事などを中心に内容や構成、深め方などについて意見を出し合って、編集長である私がそのフィードバックをするという形です。そのなかで、各面で特に伸びた記事や、特に興味深かった記事を振り返ることもあります。

本田 京大新聞では反響はどういうふうに受け止め、反映するのでしょうか?

 ウェブ記事については、SNSで話題となったテーマについて、京大新聞の関連記事が一緒に検索されるといった形で多くの方に弊社の記事を閲覧していただく機会があります。閲覧数の多いものは会議で議題に上がりますし、次の執筆のときには参考にすることはありますね。

紙面の場合、自社広告欄にアンケートフォームを設置することがあります。紙面の内容についてご意見を頂戴する貴重な機会となっています。いただいたご意見は編集部内で共有して、企画、ニュースの書き方など改善点を蓄積していきます。

本田 紙面に直接、フォームがついているのは反響がきやすい仕組みですね。

 始めたのは実は最近です。コロナ禍が終息する中で受験生応援号の手配り配布などが復活し、新たに紙面を手に取っていただく方が多くなってきました。そういった方の感想をいただけるのは貴重な機会です。受験会場の外側での配布なので、受験生だけでなく、保護者の方に紙面をお配りすることも多いです。

本田 京大新聞の受験生応援号を見てびっくりしたのが、意外と受験色が強くない点です。

 そうですね。受験色を強くしようという意識は全くありません。もちろん、企画として編集部の合格体験記を掲載するなどはありますが、一番は、オープンキャンパスや受験の機会にたまたま京大新聞を手に取った方に、今の京大の姿を知っていただきたいという思いがあります。なので、裁判など、受験生が手に取るにはちょっと硬い記事でも1面トップにくることがあります。コロナ禍では、試験会場での配布ができなかったため自宅や高校への無料送付を実施しました。僕も受験生のときは、京大新聞を読んで「京大に受かるぞ」というモチベーションを高めていたのを覚えています。

本田 東大新聞の受験生応援号は、基本的に中面は受験一色の内容です。公式サイトに無料でPDFを載せているので、遠方の受験生の方にも気軽にアクセスしていただけます。

東大新聞の受験生応援号(画像は東京大学新聞社提供)


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視点3:次の100年に向けて


「若者の紙離れ」が叫ばれる昨今。20年前と比較すると一般紙の発行部数は約54%に低下している(日本新聞協会のデータより算出)。こういった時代に、大学新聞を、しかも紙媒体で発行し続ける意義はなんだろうか。

大学の「今」を記録する意義


 技術の伝承など課題を感じることはありますか?

本田 コロナ禍で断絶した部分がかなりあります。たとえば、コロナ前は対面でオープンキャンパスがあったので新聞の販売をそこで行なっていたと聞きますが、現在の部員でその当時の雰囲気を知る人はほぼいません。受験生応援号の受験当日配布も今年ようやく復活しました。4年ぶりの実施なので、そういったノウハウ継承には苦戦します。新聞の制作に関わる作業もオンラインのリモート作業が中心になってきました。技術面だと、記事の書き方やレイアウトについて、一括してマニュアル化を進めました。マニュアルは全員が閲覧できるので、今後、技術が継承されていくのではないかと考えています。

本田 京大新聞は技術継承での課題や悩みなどありますか?

 京大新聞もコロナ禍の断絶が大きいかと思います。コロナ前の活動を知るのは村などごく少数です。技術的な部分でいうと、レイアウト・記事の書き方などのマニュアルは存在しています。一方で、マニュアルがあるとはいえ、それだけでは不十分なこともこの1年で痛感しています。このあたりは、上回生が粘り強くやっていかなければならないところだなと思っています。

学生新聞の課題として、同じクオリティのものをコンスタントに続けるのは本当に難しいですよね。4年でほとんどの構成員が変わるというのは結構ダメージが大きい。100年続けるということはとても難しいと改めて感じます。

本田 そうですね。入部年度がさまざまな部員と一緒に作業をする中で、少しずつ技術・ノウハウを次世代に蓄積していけたらなと思っています。

 近年は、SNSなどを使うと簡単に情報を手に入れることができます。こういった時代に学生新聞がもつ意義はどこにあるのでしょうか?

本田 東大新聞としては、東大の当時の動きをありのまま伝える・残していくというのがかなり重要な役割ではないかなと思っています。東大に根ざしたメディアとして、東大生の動き・意見を吸い上げて、それを再び東大の内外に広めていく・伝えていくというのが学生新聞の役割ではないでしょうか。これはおそらく京大新聞も同じですよね。

 はい。そうですね。

本田 近年、学内の新しいメディアが出現していて、たとえばお役立ち情報に特化したものや読みやすいコラムに特化したものなどが挙げられます。昔の学生新聞には、そういった「お役立ち情報」を伝えていく需要もかなりあったと思いますが、現在ではそういった面が相対的に少なくなっていると言えるでしょう。そういった中で、オンラインの戦略に特化するなど変化はありつつも、東大や東大生の全体像を伝える総合新聞というのは学生新聞に固有のものかなと感じます。

本田 京大新聞はそのあたりをどう考えていますか?

 京大新聞は特に、一般紙などと比較すると情報の速達性では大きく遅れを取ります。なのでその分、より深く、いろいろな視点から問いかけをできる紙面を作ることを一番大切にしています。単に情報を伝えるだけではなく、京大新聞が報じることで情報に付加価値をつける必要があると思っています。

紙での発行にこだわる理由は、ちょっと抽象的な話ですが、受け取る方に温かさを感じていただけるからというのが大きいと思います。たとえば、取材相手に掲載紙をお渡しするとき、すごく喜んでくださることが多くて。我々が作ったものが文字になって読者のもとに届く。そういった感動のようなものを一人でも多くの読者に感じていただけるのであればそれがいいのかなと思います。

 京大なら京大の学生新聞として、一般紙と同じニュースを扱う場合でも、より大きく紙面のスペースを使って取り上げるなど学生新聞にしかできない部分もあるかなと思います。学生の立場から見た切り口でいろいろな話題を深めていくというのは学生新聞の意義として言えるのではないかと感じています。

本田 「学生新聞にしかできない」というのは意義として大きいですね。一般紙と違って、ニュースを学生の立場から発信しているという点は、今後も強く意識していきたいです。

ありがとうございました〈了〉

東大新聞の部室(=本郷キャンパス)


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