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学童保育所 事業費2億円 稲垣理事「他大学のモデル目指す」

2023.12.01

学童保育所 事業費2億円 稲垣理事「他大学のモデル目指す」

家具の設計について説明する建築士

京大は12月9日、大学文書館1階に学童保育所「KuSuKu」を開設する。開所に先立ち、11月12日、記者会見とプレオープンイベントが実施された。記者会見の中で、京大が学童保育所設置に際して大学運営費2億円を投じたことがわかった。稲垣恭子理事(男女共同参画担当)は、教員や学生の研究と子育ての両立の支援と、児童の探求心の育成を目指すとした上で、他大学のモデルケースとなればと意気込む。

記者会見で、京大は▼事業費は工事費と物品費を合わせて2億円であること▼事業費の出所は大学運営費であること▼年間の運営費は2千万円を想定しており、利用者からの料金で運営し、不足分は大学運営費を充てる予定であることを明らかにした。大学と共同で運営を行う業者については複数の応募のうち、「KuSuKuのコンセプトに共感」した事業者を選び、入札で決定したという。今年5月に着工し、工期は5ヶ月間であったと述べた。学童保育所の設置によって縮小した文書館の移転先は、近衛館の2階と4階で、移転前と同程度の250平方㍍を確保したとした。

稲垣理事は、開設の経緯について本紙の取材に「仕事があり、早い時間に子どもを迎えにいけないことに後ろめたさを感じる」といった教員の学童保育所への要望が多く寄せられたと述べた。教員の福利厚生という側面だけではなく、大学の学術資源を活かして子どもの探求心を育てることも重視し、次世代を育てる充実した施設にしたいとした。また大学が学童保育所の運営に関与するのは初めての試みであるとして、「KuSuKu」がモデルとなり、同様の取り組みが他大学に広がることも期待していると述べた。

プレオープンイベント


記者会見の後に実施されたプレオープンイベントでは、教員とその子どもが参加し、アカデミックプログラムとして沼田英治特任教授(人と社会の未来研究院)による講演「虫は友だち」が行われた。参加した児童は、講演に熱心に聞き入り、時には教授からの質問に元気よく答えていた。その後内覧会が実施され、設計を担当した建築士が広さ約500平方㍍の施設を案内した。内装や家具には大学の和歌山研究林(和歌山県有田郡)の木が使われており、温かみのある落ち着いた雰囲気を醸し出していた。外に開かれた場所と、ゆっくりと滞在できる場所の両方が共存するように設計したという。児童は興味のある本を手に取ったり、ボルダリングのあるゆうぎ室で体を動かしたりして思い思いに時間を過ごした。

プレオープンイベントに参加した京大の教員は、小学4年生の子どもを持つ。この春、小学3年生までしか受け入れていない地域の学童保育所に子どもを預けられなくなった。「家で一人留守番をさせるのは心配なので、学童保育所が大学に開設されるのはありがたい」と語る。自分の仕事で子どもに我慢をさせたくないという思いがあり、学童保育所では楽しく過ごしてくれたら良いと考えていると述べた。

学童保育所「KuSuKu」は、京大教職員から成る運営委員会と民間保育事業者が共同で運営する。教職員及び「正規」学生を保護者に持つ小学1年生から6年生の児童が受け入れ対象で、定員は35名。土日祝日及び小学校の長期休業中に開所する。保育時間は8時から19時で延長は21時まで。1日の利用料は税込3960円で、利用には事前申し込みが必要。(史)

講演会を行う沼田特任教授



他大学の取り組み例:名古屋大学「ポピンズアフタースクール」の設置

記者会見の中で、稲垣理事は名古屋大学の取り組みを参考にしたと述べた。ここでは、名古屋大学の取り組みを見ていく。

名古屋大学は2009年に全国の国立大学法人で初めて常設型学童保育所「ポピンズアフタースクール」を開設した。名古屋大学は設置の背景について本紙の取材に、公的な学童保育所の預かり可能時間が保育園よりも短く、子どもの小学校就学時に仕事と家庭の両立が困難になることをあげた。学内に設置されていた保育園を増築する際に、2階部分に学童保育所のスペースを設けたという。受け入れ対象は、名古屋大学に勤務する常勤・非常勤教職員、学生、研究生を保護者に持つ小学1年生から6年生の児童。

名古屋大学の学童保育所は認可外保育施設で、業者に運営を委託しているため、大学からの拠出はなく、保育料収入のみで運営している。23年5月1日現在、月間受け入れ人数は、延べ316人であるとした。保護者へのアンケート調査では、「のびのび楽しく生活している」「学童生活の中で多くのことを学ぶことができている」などと学童保育所に満足しているという声が多く寄せられているという。

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