文化

Campus Pond 第4回 漢字情報研究センター

2008.12.03

静寂の中、初冬の空が水面をゆっくりと流れる。時の移り変わりをたたえた佇まいに、しばし時間を忘れた。

現地に着くと建造物のもつ圧倒的な存在感に呑み込まれた。手持ちのパンフレットによるとスパニッシュ様式と東洋風の融合だという(義和団事件の賠償金により建設されたらしい)。学術機関のため一般公開は行っていないが、事情を知らない観光客が訪れることも。

建物の中庭にあるこの池もそのコンセプトが色濃く反映されており、シンメトリー状の外見や中央にある井戸、どれを取ってもこれまで自分が見てきた池のイメージとは違う気品が漂っていた。池に近づいてみても、餌を求めてコイが近づいてくることはない。ニシキゴイの他にはキンギョがいるようで、稀に魚を狙いにサギが飛来することもある。

30年前に出版された『人文科学研究所五十年』によれば、戦前の池の姿が蘇ってくる。かつてここが東洋学研究所と呼ばれていた頃、塔から見える大文字山の送り火を眺めながらビールパーティーをするのが夏の風物詩だった。現在では場所は中庭でこそないものの、教職員のほか院生や留学生を交えて親睦会が行われている。

かつては毎年夏に職員総出で池の掃除をするのが恒例となっていた。最近は業務の一部を本館に移譲したことで職員が減少しているせいか、それができない一抹の寂しさもあるだろう。しかし、昔の一部分だけ切り取られて現在に残された池がそこにはあった。(如)

《本紙に写真掲載》