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【検証 京大のコロナ対応 ―第4弾―】戻りつつある「日常」、捉え方さまざま 2021年8月〜2022年7月

2022.08.01

過去の連載
第1弾(20年11月16日号)予期せぬ難局に手探り
第2弾(20年12月1日号)課外活動徐々に対面再開も課題多く 第3弾(21年8月1日号)長引く制約に新たな課題も
20年春からの異例の状況を取材し記録するべく、これまで3回連載を組んできた。前回から1年が経過した今、京大をとりまく諸課題を様々な切り口から振り返る。学内の感染対策の基本方針に大きな変更のないまま数か月を経た一方、課外活動や留学では動きもあった。感染拡大以前の日々に戻りつつあるのか、良くも悪くも様変わりしたのか、様々な立場の感覚に着目して探っていく。(編集部)

▼学内外の動向(2021年8月〜2022年7月)
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目次

活動制限 制限レベル変わらず 10月以来レベル1 授業 原則対面を継続 事情考慮して併用も課外活動 8か月ぶりに更新 自粛要請続く留学 留学生 来日進む 入国制限緩和文学研究科修士1回生 楊さんの声 慌ただしく入国、新生活「楽しい」他大学 緩和の度合いに幅 授業と課外活動で比較

活動制限 制限レベル変わらず 10月以来レベル1

多くの行事を対面で実施

21年8月20日から京都府が4度目の緊急事態宣言の対象となり、京大は学内の活動制限レベルを1から2(−)に引き上げた。宣言解除に伴い10月1日付でレベル1に戻し、それ以降は変えていない。

卒業・入学式は昨年に引き続き保護者の入場を不可として対面開催したほか、創立125周年記念式典など有観客で対面開催する行事もあった。一方、直近ではオープンキャンパスを対面形式からオンラインに変更する(=今号1面)など、感染状況をふまえた対応は今後も続くとみられる。

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【125周年記念式典の様子=6月18日、ロームシアター京都】

また、総合博物館は、感染対策の一環で事前予約制としていたが、8月から団体を除いて予約不要とする。

3回目の学内接種

22年4月には、3回目のワクチン拠点接種を実施した。1月にアンケートをとって接種の希望などを調べたうえで、大学関係者を対象に6千人分を確保した。3月に卒業した者も対象とした。厚労省の職域接種の制度を利用したもので、文科省によると4月27日時点で742大学が実施している(自治体との共同実施などを含む)。

学内でも感染者増加

京大は学内で感染者が出た場合の対応について、「大学の運営に影響を及ぼすものがあれば公表する」との方針をとっているため、総数は明らかになっていないものの、学内でも感染者が増加していることが伺える。

昨年8月から今年7月までに感染が発表された学生の合計は次の通り。21年8月26人/9月5人/10月3人/11月1人/12月0人/22年1月79人/2月124人/3月50人/4月95人/5月136人/6月88人/7月171人

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授業 原則対面を継続 事情考慮して併用も

対面拡大に手応え、利便性で遠隔選ぶ学生や教室不足も

21年度後期は「学期始めの混雑の抑制」を理由にオンライン中心で開始したが、3週間後に原則対面へ戻し、後期終了まで続けた。22年度前期は一貫して原則対面の方針をとった。食堂の混雑緩和のための昼休み延長も継続しているほか、授業向けマニュアルでは教室の定員を3分の2とすることを目安としている。

教員アンケート

大学が授業形態に即した対応を求めるなか、個々の教員はどのように感じているのか。制約下3年目での肌感覚を尋ねるべく、本紙が緊急アンケートを実施した。総合人間学部や農学部など約250名の教員にGoogleformで作成した質問文を送り、36件の回答を得た。

授業の形態や感じる雰囲気として、感染拡大前の19年度以前に近づいているか、感染症の影響が色濃いかを尋ねたところ、前者がやや多く、「だいぶ元の雰囲気が戻ってきたように感じる」などの意見が見られた。一方、「当初予定していた教室よりも大きい部屋を予約し直した」「要望があり次第ハイブリッド授業に切り替えた」など、様々な対応をとっていたことがうかがえる。「講義室不足を感じた」との声もある。

学生の態度については、「対面授業に積極的」「コロナ世代の学習意欲は高い」との回答がある一方、「対面が可能でもオンラインで参加する受講生が増えた」「オンライン授業・課題に疲れている」「画面の講義を見るのが普通になっていて、先生や友人に質問をして理解を深めるという発想を忘れている」との指摘もある。

ハイブリッド授業については「コロナがなくても提供検討を」「手間がかかり気をつかう」「視線や雰囲気の把握がほぼできない」などの意見が見られた。

記述回答(一部、誤字の修正や要約済み)※▶を押して展開

※授業形態を尋ねたうえで、本文中で示した問いへの回答と自由記述を求めた。【期間】7月27日~8月1日
■少人数授業(演習やゼミ、クラス単位の授業、受講者数が30人以下の講義など)

・オンラインのほうが時間が有効に使える印象

・コロナ対策よりも利便性でオンラインのままにしている

・通学時の混雑から午前に行うものはオンライン、午後に行うものは対面とした

・教員の基礎疾患のためオンライン形式を採ったが、受講者には可能であれば教室に来てもらい、そこからZoomに接続(可能であればビデオ・オンで)してもらった。TAには毎回教室に行ってもらい、質問などにも応答できるようにした。それらの助けもあり、全ての受講者が全出席になり、また受講者たちは授業後に夕食を共にするなど、授業外での交流も深めたようだ。そのような雰囲気は、授業での議論をより活発に行う大きな助けとなった。また補助教材の配布や、受講者のコメントへのレスポンスの時間を確保して双方向性の深化に努めたが、これも効果的だったようだ

・CO2メーターでのチェックと換気を確認しながら実習を行った。距離には気を付けつつも、学生から質問等が来たら1対1で答えて「実習の良さ」ができるだけ減らないようにした。体調不良などで受講できない学生にはしっかり休んでもらって、成績にはできるだけマイナスにならないよう配慮した。具体的には、休んだ日の実習内容も他の受講者からデータをもらってレポートを仕上げてもらうことで採点時に不利にならないようにした

・コロナへの感染や濃厚接触者となったなどの理由で授業に出席できない受講生への対応、授業の振り返りなどを考慮して、Zoomでライブ配信を行い、事後にはPandAに動画を掲載した。授業そのものは対面で成立していたことから、コロナ前に戻ったようにも感じた。昨年度もハイブリッドで実施していたが、まだ軸足がリモートにもかかっていた

・セミナー式授業とのこともあり、受講者の方はFace to Face授業に対する積極的な態度だった。その理由はオンライン授業・課題に疲れが残っていたと考えられ、参考資料もオンラインでアクセスするより、印刷されたハンドアウトが望ましいとのことだった

・ハイブリッドでも、オンライン参加者の割合はかなり低かった

・当初予定していた教室よりも大きい部屋を予約し直した。発表者や質問者がマイクを使って討議するような工夫も行なった

・おおむね対面でできた点はコロナ前に近い。ただ、せまい部屋が使いにくく、また学生同士での議論や雑談もしづらい点で、やはり違う印象がある

・一部未渡日の外国人向けにハイブリッドでの講義を実施したことがあったが、それ以外はほぼ対面のみでコロナ前と変わらなかった

・来日する留学生が減って受講者の構成が大きく変わった

・ワクチン接種も進み、教員側も学生側にもマスク着用、手指消毒の習慣化で、違和感がなくなりつつあるように思う。この点でコロナ前の感覚に近い

・講義を聴くばかりで質問も無い。画面の講義を見るのが普通になっていて、先生や友人に質問をして理解を深めるという発想を忘れたのではないか

■多人数授業(30人以上の講義など)

・履修人数をコロナ前の約半分に制限した。また、感染などのため講義に出席できない学生のために、講義資料を毎回公開した

・サテライト演習室でのコンピュータでの実習は教室定員の半数以内とするために2回に分けて実施した

・教室の収容人数が試験設定であり、受講生数が少なくなった。コロナ感染が継続していたので、ハイブリッド実施することが多かったが、対面出席した受講生とオンライン参加の出席者とが半々程度となった

・教室はもともと広く、特にコロナ前と変更ない形で実施できた

・規定ではぎりぎりセーフの講義室で行ったが、やはり不安を訴える学生もいた。講義室はコロナ前と比べ増えていないので、講義室不足を感じた

・90名程度の受講者に対し、300人収容できる部屋で講義しているので学生同士の距離は問題なかったと判断している。授業はマスクをつけた上でマイクを使用して行った。体調不良等で休む学生がいた場合は、要望があり次第ハイブリッド授業に切り替えた。授業後にZoomでの受講者には声の大きさ、進むスピード、対面とZoomでの違いなどを確認した。「Zoomでは講師の熱量は伝わってきづらいが、説明のスピードや音声の質などに問題なく聴講できた」とのことだった。対応としてのハイブリッド講義はありだと感じるが、その場合ノートへ書き込む様子などを見れないので、昨年度に行ったZoomのみのオンライン講義では画面越しに聴講している学生がどこまで理解してくれているのかをこちらが判断できずやりづらかった。今期は対面の良さを感じている

・大学院のゼミのことだが、ハイブリッドでだいぶ元の雰囲気が戻ってきたように感じる

・過年度同様に登録希望者が多すぎてくじ引きを行い、授業開始になった。ほぼ対面式だった。受講生のなかには、オンライン授業が良いという声もあった。学内対策は整えられていることがあっても不安を感じさせるところは①通学②祖父母と生活③遠距離通学といった3点

・授業内容にもよるが、オンラインでも可能なものは今後もオンラインの選択肢を残すべきだと思う。対面が可能でもオンラインで参加する受講生が増えた

・手指消毒は、大規模教室では確実かどうかは確かめようがないが、コロナ世代の学習意欲は高く、コロナ以前というか、ちょっと昔の雰囲気さえする。80名前後になると集団の空気感が滲むが、全体として受講するという能動的な意思を強く感じる

・学生の対面出席率は高かった

■自由記述

・前期試験に際して、感染者や濃厚接触者など教室で受験できない学生のために個別の対応に追われている。オンライン試験の選択肢を認めるべきだった

・コロナ以外の理由で(他の病気や部活や就活など)オンライン受講を望むどう対応するか難しい

・対面形式にしているが、感染者が増加したときに学生からオンライン化の要望が入ることがあり、対応に手間がかかる

・コロナがなくても、たとえば心身の健康上の問題から、対面で授業を受けることが難しい学生がいるであろうことを考えると、実施のためのさまざまなコストも考える必要はあるものの、今後もハイブリッドの授業の提供を検討できるのでは

・体調が悪くても視聴できるなど、オンラインのメリットもある

・状況に応じてハイブリッド授業ができるようになったことはよいことだ

・子育て中の院生が参加できたり、海外調査中の学生も参加できたりなど、オンライン授業にもプラスの側面があるが、京大は原則対面のみで、オンラインの良さを活かせていない。他大学は、オンライン授業ももっと残っているように見受けられる

・ハイブリッドで行うと講義の動画を保存できるので、難しめの講義では復習に便利なようだ

・オンラインでの講義は、シミュレーション動画などの補足資料を用いやすいといった利点がある。しかし、学生の顔が見えないので手応えを感じにくいという難点がある。現在、ほぼコロナ前と同様の形式で対面での講義が行えているため、学生の反応を見つつ適宜説明している。学生からの質問へも満足いく形で対応できているように思う

・やはり対面はいい。学生の表情や阿吽が通じる。合いの手を入れることもできるし、オンラインだと杓子定規になりがちだ。しかし、出張先からでも参加できるため場所を選ばずに開催できるのはオンラインの冴えたるものだ

・2年間の対面コミュニケーションの不足は深刻だ。大学院1回生と2回生のあいだの「格差」も気になる

・対面の方が、学生の理解度がはるかに高い

・ハイブリッドで授業をして感じるのは、教室で受講している学生は、どの程度授業に関心をもち、内容を理解しているのかが、視線や雰囲気で伝わってくるが、オンライン参加の学生は、その把握がほぼできないということだ。対面授業は、大教室でも学生と教師の双方向性を実現しうる点で優れている

・今期の学生実験では制約がほとんどなかったので特段の支障はなかったが、ハイブリッドになるとやはり準備・実施が大変だし、教育的効果もあまりなさそう

・マイクが充電されておらず、使用できないことが頻繁にあった。普段使い慣れていない機器に対する準備が行い難い場合もあった
・学生に質問しにくい。したとしても聞き取りにくい

・ハイブリッドはかなり手間がかかり気も使うため、対面、もしくはオンラインのみの方がやりやすい

・ハイブリッドと対面では力を注ぐところが違う。少人数ゼミをオンラインで行う場合、ビデオは途中休憩以外オンで行った。その方が緊張が走る

・私は基本対面で行い、必要に応じてハイブリッドにしたりしているので、コロナ禍による授業の質への影響は少ないように思う

・感染が増えており、学生に対する心のケーアを優先的に考えるべきだ。こまめな情報共有やコミュニケーションが大切

・コロナが以前より身近になった。今後「インフルエンザに注意」と似た状況が続くのだろう。ただ、教員としては、夏場のマスクをしての大教室講義は息苦しく、辛いものがある。運用的には、教卓前3列程度を空席にして教員はマスクを外してもよいということができれば、改善されるだろう。しかし、教室定員に応じて人数制限をしている科目がほとんどだから、さらに受講者数を制限するのは難しい

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課外活動 8か月ぶりに更新 自粛要請続く

22年6月、課外活動で制限緩和が進んだ。大学が各団体に活動計画の提出を求めるなど事実上の許可制をとる点は20年7月から変わらないが、原則20人・3時間までとしていた人数と時間の制限を解除したほか、合宿を条件付きで認めた。

非公認団体へ「マニュアルに準じた活動を」

大学は20年3月の通知で「公認・非公認を問わず」すべての活動を自粛するよう求めた。それ以来、非公認団体への制限緩和に言及してこなかったが、徐々に状況が動く。今年4月の「ビラ紅萠祭」で、昨年度は公認団体のみとしていた参加条件について、大学は主催の応援団と協議して非公認団体の参加を認めた。59の非公認を含む191団体が集まった。

さらに、最新の通知で大学は、非公認団体に対してマニュアルに「準じて活動して」と求めた。それまでは公認団体の活動しか認めない旨を一貫して明示していたため、今回の言及は非公認団体に対する自粛要請の緩和を告げた。「準じ」るよう求める項目には、計画書の提出が含まれていないため、届け出なしで表立って活動できる。ただし、学内施設の利用は引き続き公認団体にしか認めていない。グラウンドや体育館など、従来は非公認団体や無所属の京大生でも届け出れば借用できる施設もあったが、当面制限が続くことになる。今後の制限緩和について京大は、「一概には答えられない」と説明している。

▼非公認団体の状況

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「屋内可」続き、一部で対応更新

公認団体による施設利用をめぐって京大は、感染状況に応じて、特に活動場所を制限してきた。21年の夏休み前半は屋内活動可としていたが、緊急事態宣言に伴い屋外に限定した。21年9月末での宣言解除後、授業は最初の3週間をオンラインで実施したが、課外活動は10月1日から6月以前の対応に戻した。授業に先行して緩和するのは初めてだった。それ以降はしばらく更新しなかったが、22年6月の最新版で、部室について「課外活動掛が認めた場合は可」に変更した。各種施設の夜間利用の制限や、4共などの授業教室の貸出停止は継続している。

一方、文学部では、学部自治会と教務掛の交渉を経て5月から教室貸し出しが再開されているという。

「伝統引き継ぐ」【他大生との活動めぐり】

京大は一貫して他大生の活動参加を認めていない。「収束したとは言い難い状況」で「段階的に緩和」していくなかでの判断だという。

京大交響楽団は、他大生を含む全員での活動を重視し、一昨年には百年以上続く演奏会を初めて中止するなど苦心したが、昨年、京大生のみでの演奏会開催に踏み切った。部員は「他大生と一緒にやりたかった」と吐露しつつ、技術や運営、音楽への姿勢など「伝統を引き継ぐ最後のチャンス」と決断した。

▼大学が出す「課外活動の自粛要請の限定的緩和について」の変遷
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留学 留学生 来日進む 入国制限緩和

20年春から政府が入国制限を実施し、留学生の新規入国が認められない状況が続いた。まず国費留学生への制限が条件付きで緩和されたものの、文科省によると21年11月時点で14万人以上の留学生が入国を待っていた。政府は受け入れ拡大の方針を打ち出したが、人数制限を設けたため大幅な進展は見込めなかった。

こうした状況を受け、6つの業界団体からなる「日本語教育機関団体連絡協議会」が、在留証明書を持つ留学待機生のうち約半数がすでに断念などしているとする調査結果(※)を発表し、入国許可の対象拡大を求める要望書を提出した。感染状況の悪化に伴う規制の再強化を経て、22年2月、政府は留学生を含む入国制限の緩和を発表した。

※協議会の調査結果

【回答期間】


21年11 月12 日~15 日

【対象】


入国制限緩和嘆願書提出校(662校)

【結果】


証明書交付者数に対する入国承認申請予定者数=17986人/39007人
→46.1%がすでに入国または断念

留学希望者の入国状況について、末松信介・文部科学大臣は6月の記者会見で、「4月に調査したところ、約9万人が入国を希望していることを確認し、6月23日までに実際に約9万人が入国した」と述べた。

出入国管理庁によると、日本への新規留学生の数は、19年に約12万人だったが、20年に約5万人、21年には約1万1千人に減少している。なお、日本学生支援機構によると、海外での留学を開始した日本人学生の数は、19年度に約10万7千人だったが、20年度に約1500人に減っている。

海外渡航について京大は、対応方針を第16版まで更新し、外務省の定める危険情報をもとに渡航可否の判断基準を示している。8月時点で、アフリカの一部が「渡航中止勧告」、中国やアメリカなどは「十分注意」となっている。

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文学研究科修士1回生 楊さんの声 慌ただしく入国 新生活「楽しい」

入国制限の影響は京大でも見られる。留学生は異例の状況でどのような日々を過ごしてきたのか。中国・武漢の大学から京大大学院に進学した楊子怡さん(文学研究科修士1回生)に話を聞いた。

急きょ決まった渡日

「入国制限がいつ緩和されるかわからず苦労した」。楊さんは、中国で大学院進学の準備を進めた日々をそう振り返る。

21年7月の時点で在留資格認定証明書を取得していたが、入国制限が続き、しばらくビザを取れなかった。今年3月に制限緩和を知り、すぐに申請して十数日でビザを得た。続いて航空券を探すと、中国当局による便数制限の影響で価格が高騰しており、片道約20万円だった。ようやくの機会を逃すまいと、急いで日本へ飛んだ。学部1回生のときに観光で10日ほど訪れ、故郷と「似て非なる街への迷い」を覚えて以来の悲願だった。

許された2日間の惜別

学部時代は中国・武漢の大学で過ごした。「20年の1月上旬からウイルスの噂が流れたが、最初に見つかったとされる海鮮市場は大学からかなり離れていて、当初は誰も気にしていなかった」。1月末からの春休みにあわせて広東省の実家に帰省すると、ほどなくして武漢封鎖のニュースを見た。

その後は全国で感染が拡大し、例年は大勢で集まる春節の「年夜飯」も両親と兄弟姉妹だけで過ごした。3月から状況が落ち着いたものの、卒業を6月に控えるなかで大学の授業がオンラインに変更され、自宅で卒業論文を仕上げた。

中国の感染対策について楊さんは、「日本より強制的」と振り返る。「所定の隔離や定期的な検査を怠れば、公共交通を利用できず、監禁などの処罰もありうる」という。

大学では感染対策として出入りを管理する機器が導入された。楊さんは卒業間際、2日間だけ入構が許された。寮の荷物をまとめて記念写真を撮り、教員に別れを告げた。

チャットツールを活用

学部卒業後、21年4月から研究生として京大に入った。この年から本格的に対面授業が再開されたが、入国できずパソコンに向かう日々が1年間続いた。それでも楊さんは「楽しく過ごしていた」と振り返る。というのも、ゼミではチャットツールを併用しており、「口頭で伝えるのが難しくても、タイピングであれば簡単に自分の考えを表現できる場合が多かった」からだ。変則的な環境を活用し、日本語に慣れていった。

京都での生活が実現した今年度前期は、「とても楽しかった。私の生まれた都市・珠海では建物の様式が統一されている。一方、京都の街並みは散歩すると景色がどんどん変わる。景観が文化と結びついていて魅力的」。大阪や名古屋も訪れたほか、趣味でフェンシングを楽しんでいるという。

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【広東省・珠海の風景(楊さん提供)】

他大学 緩和の度合いに幅 授業と課外活動で比較

各大学はどのような感染対策をとっているのか。ここでは学生数が1万人以上の国立大学の授業や課外活動について、ウェブサイトや事務への問い合わせで得た情報をまとめる。

授業については、今年度前期、すべての大学が昨年度後期と同程度以上に対面授業を実施している。

逐一届け出か、最初のみか

課外活動の方針決定をめぐり、京大は「関係機関の指針や感染状況をふまえて」検討すると説明しているほか、北海道大の学生支援課は「大学ごとに規制が違うのは、所在地、構成する学部、学生団体の遵守の度合いなどの要因もある」と述べているように、各大学が様々な事情を考慮している。そのため、単純な比較で良し悪しを断言できないが、津々浦々見渡すと幅広い対応があることは確かだ。

まず、活動や施設利用に際して、なんらかの届け出を各団体に求める点は共通している。そのなかで、活動ごとや月ごとなど定期的に計画の提出を求める例がある一方、逐一の提出は不要とする大学もある。体温などの参加者の情報は、団体での記録・保管にとどめる大学が多い。

文言の微修正も

他大生の参加については、学内生と区別しない、人数に応じて届け出を求める、所属大学の制限の範囲で参加可能、そもそも構成員となることを公認していないなど様々な対応がみられる。

感染リスクを高めるとされる会食は、実施しないよう求める場合が多いが、制限を緩和するなかで文言に含みをもたせた大学もある。

非公認団体については、大学によって定義や扱いが様々で、施設利用を認めない、届け出れば認めるなどの対応がある。

その他の項目は表のとおり。

※後期授業の*を付した3大学は、後期方針としては「全面対面」(鹿児島大は「7割」)と回答

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