ぶらり大学Library #2 京都盆地の縁で「日本」を見つめ直す 国際日本文化研究センター図書館
2026.03.16
来館者を最初に迎える閲覧室
京大吉田キャンパスからバスや阪急を乗り継いで1時間超。「クマ出没注意」の看板に身を縮めながら筆者は目的地に到着した。山肌の迫る桂の地にある日文研。国際的な視点から日本文化の研究が取り組まれている。「研究活動」と「研究協力活動」という2本の柱を持つ日文研だが、後者を最前線で担うのが日文研図書館である。外書と呼ばれる、外国語で書かれた日本関係の蔵書が一番の特徴だ。イエズス会の資料をはじめとした16世紀の書物から今日に至るまで、古今東西の日本関係資料が収蔵されている。
日文研の蔵書で特に多いのが中国語の書籍だ。その中でも「日中文庫」は、日中の歴史認識を研究してきた日中歴史研究センターが閉鎖した際、日文研が蔵書を引き取ったもので、その数は3万5千点にのぼる。欧米の中国研究者が、中国国内よりもアクセスしやすい日文研を訪問することもある。かつては中国研究のために日本語を習得する欧米の研究者もいたという。
日文研にはマンガの蔵書も豊富だ。マンガ研究といえば京都精華大学や京都国際マンガミュージアムが著名だが、日文研の研究は一味違う。京都精華大などはマンガ自体を対象とする研究が主だが、日文研ではマンガを通して日本が世界をどのように認識しているのかを研究しているのだという。例えば長谷川哲也『ナポレオン ―獅子の時代―』は、日本におけるフランス革命の受容のあり方を研究する際に収蔵されたものだ。『サザエさん』や『鬼滅の刃』、『こち亀』……と並ぶ本棚を見ると、馴染みのあるマンガがどのような研究に供されているのか気になってしまう。
日本の芸術作品が各国語に訳された書籍も充実している。外国における日本作品の研究に視点を置くと、日本の常識の内で研究すると見落とされていた観点に気づかされることがあるという。
江上さんはいま最も注目する資料を紹介してくれた。明治後期に日本に滞在したイギリスの軍人であるアーサー・ハート=シノットの書簡だ。彼は駐日イギリス大使館への着任中に日本人女性と恋に落ち、そして所帯を持った。しかしイギリス陸軍に所属するアーサーは、日本にとどまり続けることはできなかった。第一次大戦に従軍し両足を失ったのちに帰国したアーサーは、遠く離れた日本に30年間恋文を送り続けたが、1931年を最後に手紙が届くことはなかった。満州事変の年である。日文研には彼の書簡約900通が保管されている。書簡から読み取れるのは、アーサーからの愛情だけではない。書簡からは戦地の状況や、香港の英字新聞における日本への厳しい評価などを窺い知ることができるという。
外国から日本がどのように評価されてきたかを研究すると同時に、外国における日本研究にも寄与する日文研図書館。観光地や繁華街から離れた京都盆地の縁だからこそ、冷静に「日本」を見つめ直すことができるのかもしれない。公共図書館を通じた予約により誰でも資料を閲覧できる。
