複眼時評

大園享司 生態学研究センター准教授 「真菌感ときのこミュニケーション」

2016.01.16

全学共通科目「真菌自然史」を5年前から担当している。担当し始めてすぐのタイミングで、京大新聞社の編集員だった受講生から執筆の依頼を受けて、このコラムに寄稿した(「菌目線のススメ・菌目線でススメ」2011年6月16日)。

それから5年。再び、編集員をしている受講生から(5年前とは別人)執筆の依頼を受けた。5年の節目となった今回は、「真菌自然史」で実践してきた「菌類観察会」と「レポート発表会」について紹介したい。

菌類観察会

学期中に2コマ、教室を抜け出してキャンパスのとなりにある吉田山を訪ね、野外における菌類(きのこ)の暮らしを体験的に学習する時間を取っている。受講生の多くが楽しみにしているイベントである。

観察会では参加者に紙袋を1枚ずつ渡して、自由にきのこを採取してもらう。「きのこがありそうな場所に行って、自由にきのこを探して下さい。袋一杯、詰め放題です」というと、学生の目が輝きだす。宝探しに似た楽しみがあるのだろう。

一時解散してしばらくすると、山のあちこちから若人たちの黄色い歓声が聞こえてくる。教員は声のするほうに向かい、歩道にしゃがみ込んでいる(きのこ採取中)学生に話しかけたり、学生の質問に答えたりしている。

再集合すると、こんどは品評会が始まる。採取したきのこは、形の似たもの同士をまとめて並べるよう伝える。学生は隣の学生と自由に話しあい、採取したきのこを互いに見比べながら作業を進めていく。

しばらくすると、さまざまな形の、色とりどりのきのこが目の前に並べられることになる。たくさん取れるときと、あまり取れないときがあるが、それでも学生たちは身近にある菌類の多様性に目を見張り、菌類の豊かさを実感することになる。

キクラゲが大学のとなりの雑木林に、ごく普通にあることに驚く。ホコリタケやツチグリから、胞子が噴き出す様子に歓声を上げる。チチタケを実際に傷つけてみると、名前の由来を実感できる。なかには冬虫夏草を掘り出してくる猛者もいる。大きなイボテングタケは、つばやつぼといった部位の名称を説明するのに格好の材料である。

ティッシュ越しでしかきのこに触れない学生もいるが、できる範囲で、手触りや臭いも体験してもらう。サンコタケはいちど手にしたら最後、その強烈な臭いとともに名前が脳裏に刻み込まれることになる。その臭いでハエを誘引して胞子を運んでもらっていると言うと、嗚咽しながら頷いてくれた。

講義室では眠そうな目をして座っている学生たちも、野外では興味津々、教員の説明に熱心に耳を傾けている。菌類への親近感(=真菌感)を養うには、10回の座学より、2回の実体験のほうがはるかに効果的なのだと実感する。

レポート発表会

「真菌自然史」では期末試験のかわりに、レポート試験を実施している。学期の中頃に1回と、終わりに1回の計2回、レポートを出す。レポート課題は講義内容に関連したテーマで、学生それぞれの興味を深化させたり、疑問点を解決したりする機会となるよう、自由に設定してもらう。

そのレポートを、他の学生に向けて発表してもらうのが発表会である。ただし、全員が黒板前に立ってレポートを紹介する時間的な余裕はない。そこで4人くらいずつの小グループに分けて、グループ内で順に発表してもらうことにしている。

このレポート発表会を企画した理由は、単純だ。学生のレポートを見ていると、視点がユニークだったり、かなり掘り下げた内容でオリジナリティが高かったり、図表や構成を工夫して見栄えよく作成したりと、個性があって面白い。そんなレポートを読むのが担当教員ただ一人というのは、もったいない。

そこでレポート発表会となるわけだが、これまた学生には好評である。発表が終わったあとのレポート裏に感想を書いてもらうと、どの学生にとっても、印象深い経験になったことが伝わってくる。

「内容の準備不足を実感した」、「早口になった」、「質問に答えれなくて焦った」など反省点を書く学生もいるが、「スムーズに発表できてよかった」、「懸命に聞いてくれて話しやすかった」、「質問に上手く答えれてよかった」と手応えを感じた学生も多いことが分かる。

内容面では、「メンバー全員がまったく違うテーマで勉強になった」、「同じテーマを選んでいるのに視点が違っていて勉強になった」という声も多い。同じ内容であっても、年長者である教員が説明するより、同世代の人が説明するほうが、真菌感が湧きやすいのかもしれない。

この発表会は、今後につながる経験となるはずだ。「メンバーのレポートのまとめ方が上手かったので、参考にしたい」、「次また発表する機会があれば、もっと上手くやりたい」といった意欲的な感想を見ると、こちらも嬉しくなる。菌類をテーマにした学生相互のコミュニケーション(=きのこミュニケーション)も大切なのだと実感する。

(おおその・たかし 京都大学生態学研究センター准教授)