ギビングキャンペーンとは何か 運営会社・参加団体・京大に取材
2024.10.01
オンラインイベントGiving Campaignは昨年初めて京大で実施された。運営会社の企画の意図はどこにあるのか。イベントの参加にあたって各団体はどのような手続きを経て、支援金をどのように使用したのだろうか。運営会社と参加団体への取材を通して、イベントの内容に迫る。(=1面に関連記事)(史)
参加団体 支援に満足 応援の声が励みに
支援金 使用に制約 運営に改善点も
イベントの運営を担う株式会社Alumnoteにイベントの目的や支援の仕組みを聞いた。Alumnoteは、東大関連のベンチャーキャピタルから資金調達を受けて設立した大学発のスタートアップ企業だ。「次世代の教育に資本をまわす」ことを目標に掲げ、学生や教育機関の支援を行うと同時に、学生が将来的に支援者になる社会の形成を目指している。
イベントの目的は「卒業生ネットワークの再構築によって、大学および学生の応援や支援の創出をすること」 だという。学生は特設サイトやSNSを通して団体の活動を紹介し、応援を呼びかける。企業からの支援金はAlumnoteを経由して大学の基金に入り、大学が得票数に応じて各団体に分配する仕組みを作った。
ただ、構成員の人数が投票数の多さに直結するため、構成員やОB・ОGの少ない団体などでは投票数が集まらないという問題が生まれるという。解決策を尋ねたところ「企業賞」の設置をあげた。期間中最も大きな寄付を獲得した団体や、最も卒業生からの応援を集めた団体などに対して、賞の名前を冠した企業からの支援金を分配する。ここにゲーム性を持たせて、全体の10番目の投票を獲得した団体や、特定の1時間に最も多くの投票を得た団体などへの賞を用意。構成員の人数にかかわらず、工夫次第で支援金を得られるようにした。
投票の際に個人情報の入力を求める理由については、「応援者の重複を防ぐため」だと説明する。投票には名前と電話番号、メールアドレスが必要で、本人確認のためにSMS認証を行う。任意で卒業生が卒業年度を、学生が学年・学部を記載することもできる。また、投票後に団体へ直接寄付をすることも可能だ。
個人情報はイベントを主催する大学に帰属する。大学は名簿を利用して、投票者に連絡することができ、継続的な寄付に繋げる狙いがある。第三者による個人情報の商業利用はないか問うと、Alumnoteは企業協賛の条件に個人情報の提供は含まれないため、協賛企業に対して「名簿が許可なしにばらまかれることは一切ない」と回答した。
22年は18校、23年は35校の参加があり、今年は100校が参加予定だ。昨年よりも、参加大学は倍以上に増えている。変化した点を尋ねると、参加大学や団体の増加に伴って多くの意見が寄せられるようになり、その声を踏まえてシステムの改善を図っているという。具体例として、これまで学生が電話やメールで問い合わせをする必要があったところを、よくある問い合わせ内容をまとめて自動対応するボットを作ったこと、専用サイトの大学からのメールが一覧で閲覧できるページを新設したことをあげた。
今後について、さらに周知を図り少しでも多くの大学や学生を支援したいと回答した。
京大では昨年、24の全学公認団体が参加した。本紙は5団体に取材を行い、期日までに硬式野球部、京大機械研究会、鉄道研究会、ボート部の4団体からの回答を得た。なお、4団体は今年も参加するという。
昨年は京大の24団体に対し、9043人が投票した。最も多い1290票を得た硬式野球部は、部室の鍵の取替え、グラウンドのネットの修理に支援金を利用した。部費だけでは必要な物品の購入や修理が厳しい状況があり、支援金で助かった場面があったという。イベントについて「とても満足している」と回答した。
2番目に多い1262票を得たボート部は、支援金をオールや備品の購入にあてたという。イベントについて「想定以上の多くの方々からご支援・ご反応をいただき、大変満足している」と述べ、応援に対して感謝の意を示した。
「期間中最も金額の大きな寄付を獲得した団体」として、AWS賞を受賞した京大機械研究会は「年間の活動資金の半分以上」の支援金を得たといい、「予想よりもかなり大きい金額だった」と振り返る。支援金はロボットの開発のために利用し、金属材料やモーター、機械学習を使用できる高性能なノートパソコンなどの購入にあてたという。イベントを通して、想像以上に多くの人から支援を受け、投票者からのメッセージなども活動への活力になったと述べる。
139票を獲得した鉄道研究会は、本棚を2つ購入し、ジャーナル誌約1600冊の所蔵ができるようになった。イベントについて「支援が目に見える形で分かる仕組みがあったのはありがたい」と述べ、「幅広い世代に鉄研が周知されていることが分かり、今後の活動方針の参考になった」という。
団体から支援金の使用や運営についての改善点の指摘の声もあった。
直接課外活動を支援する京大基金の取り組みよりも、支援金が使用可能になる時期が遅いと述べた団体があった。Alumnoteによると、イベントの集計後に支援金を大学に移し、大学が各団体に分配するため、直接の寄付よりも支援金の使用までに時間がかかるという。
手数料で金額が減ってしまうことを指摘する声もあった。京大によると、Alumnoteと京大が手数料を差し引いている。京大は手数料を「イベントの支援、領収証書の発行、郵送・発送費用」にあてていると回答した。
ある団体は、支援金が現金振り込みではなく大学の会計の相当額を利用する仕様が「若干不便だった」と話す。具体的には、購入サイトによっては顧問が立替払いをする必要が出ること、切手の購入は換価性が高く不可とされたことをあげた。
支援金の使用に必要な手続きは大学が定めており、団体は大学の会計規則に従う。具体的な手続き内容は以下の通り。
各団体は、課外活動掛に対して見積書や購入物品が分かるカタログやサイトのコピーを提出し、課外活動掛が業者に連絡する。なお、京大と取引のない業者を指定した場合には、業者登録のため1週間程度が必要となる。見積書を取得したのち、課外活動掛より発注を行う。京大は、各団体が個別に業者に発注を行った場合には支援金からの支出は認められないとしている。
ある団体は、ホームページの公開日時や参加申し込みの締切が延長されたことや、Alumnoteが各団体へメールを送信する際、BCCではなくCCで送信し、約450件のメールアドレスが各団体間で確認可能な状態になったことをあげ、「運営が杜撰に感じた」と問題点を指摘した。運営についてAlumnoteは、今年度より「メール誤配送防止システムの導入などの再発防止策を講じている」と説明する。
また、支援の周知の方法について課題もある。学部や学科のグループラインで複数の団体が長文の宣伝を送信し「学部学科の連帯感が失われる寸前まで行った」ものもあったという声も聞かれた。「応援投票を得るためにはどのような手段を用いてもよい」かのような受け止め方をされ、「過剰ともいえる宣伝」が見られたという。また、OBに投票の協力を求めたところ「胡散臭かった」と指摘され、学生からも宣伝に際し「怪しいことをやっているかのような罪悪感を抱いてしまう」との意見があった。
Alumnoteに対応を聞くと、宣伝について昨年のアンケートでも同様の意見があり、今年は団体に「あくまで自団体の活動PRによって共感いただけた方に投票を呼びかけること」を周知していると回答した。また、参加団体ガイドラインで、不特定多数が参加するライングループ等での強引な勧誘を禁止する案内を行っている。引き続きイベントのメインは投票の呼びかけではなく、活動PRである旨を発信する姿勢を示した。
目次
運営会社 頑張る学生を応援する仕組みを参加団体 支援に満足 応援の声が励みに
支援金 使用に制約 運営に改善点も
運営会社 頑張る学生を応援する仕組みを
イベントの運営を担う株式会社Alumnoteにイベントの目的や支援の仕組みを聞いた。Alumnoteは、東大関連のベンチャーキャピタルから資金調達を受けて設立した大学発のスタートアップ企業だ。「次世代の教育に資本をまわす」ことを目標に掲げ、学生や教育機関の支援を行うと同時に、学生が将来的に支援者になる社会の形成を目指している。
イベントの目的は「卒業生ネットワークの再構築によって、大学および学生の応援や支援の創出をすること」 だという。学生は特設サイトやSNSを通して団体の活動を紹介し、応援を呼びかける。企業からの支援金はAlumnoteを経由して大学の基金に入り、大学が得票数に応じて各団体に分配する仕組みを作った。
ただ、構成員の人数が投票数の多さに直結するため、構成員やОB・ОGの少ない団体などでは投票数が集まらないという問題が生まれるという。解決策を尋ねたところ「企業賞」の設置をあげた。期間中最も大きな寄付を獲得した団体や、最も卒業生からの応援を集めた団体などに対して、賞の名前を冠した企業からの支援金を分配する。ここにゲーム性を持たせて、全体の10番目の投票を獲得した団体や、特定の1時間に最も多くの投票を得た団体などへの賞を用意。構成員の人数にかかわらず、工夫次第で支援金を得られるようにした。
投票の際に個人情報の入力を求める理由については、「応援者の重複を防ぐため」だと説明する。投票には名前と電話番号、メールアドレスが必要で、本人確認のためにSMS認証を行う。任意で卒業生が卒業年度を、学生が学年・学部を記載することもできる。また、投票後に団体へ直接寄付をすることも可能だ。
個人情報はイベントを主催する大学に帰属する。大学は名簿を利用して、投票者に連絡することができ、継続的な寄付に繋げる狙いがある。第三者による個人情報の商業利用はないか問うと、Alumnoteは企業協賛の条件に個人情報の提供は含まれないため、協賛企業に対して「名簿が許可なしにばらまかれることは一切ない」と回答した。
22年は18校、23年は35校の参加があり、今年は100校が参加予定だ。昨年よりも、参加大学は倍以上に増えている。変化した点を尋ねると、参加大学や団体の増加に伴って多くの意見が寄せられるようになり、その声を踏まえてシステムの改善を図っているという。具体例として、これまで学生が電話やメールで問い合わせをする必要があったところを、よくある問い合わせ内容をまとめて自動対応するボットを作ったこと、専用サイトの大学からのメールが一覧で閲覧できるページを新設したことをあげた。
今後について、さらに周知を図り少しでも多くの大学や学生を支援したいと回答した。
参加団体 支援に満足 応援の声が励みに
京大では昨年、24の全学公認団体が参加した。本紙は5団体に取材を行い、期日までに硬式野球部、京大機械研究会、鉄道研究会、ボート部の4団体からの回答を得た。なお、4団体は今年も参加するという。
昨年は京大の24団体に対し、9043人が投票した。最も多い1290票を得た硬式野球部は、部室の鍵の取替え、グラウンドのネットの修理に支援金を利用した。部費だけでは必要な物品の購入や修理が厳しい状況があり、支援金で助かった場面があったという。イベントについて「とても満足している」と回答した。
2番目に多い1262票を得たボート部は、支援金をオールや備品の購入にあてたという。イベントについて「想定以上の多くの方々からご支援・ご反応をいただき、大変満足している」と述べ、応援に対して感謝の意を示した。
「期間中最も金額の大きな寄付を獲得した団体」として、AWS賞を受賞した京大機械研究会は「年間の活動資金の半分以上」の支援金を得たといい、「予想よりもかなり大きい金額だった」と振り返る。支援金はロボットの開発のために利用し、金属材料やモーター、機械学習を使用できる高性能なノートパソコンなどの購入にあてたという。イベントを通して、想像以上に多くの人から支援を受け、投票者からのメッセージなども活動への活力になったと述べる。
139票を獲得した鉄道研究会は、本棚を2つ購入し、ジャーナル誌約1600冊の所蔵ができるようになった。イベントについて「支援が目に見える形で分かる仕組みがあったのはありがたい」と述べ、「幅広い世代に鉄研が周知されていることが分かり、今後の活動方針の参考になった」という。
支援金 使用に制約 運営に改善点も
団体から支援金の使用や運営についての改善点の指摘の声もあった。
直接課外活動を支援する京大基金の取り組みよりも、支援金が使用可能になる時期が遅いと述べた団体があった。Alumnoteによると、イベントの集計後に支援金を大学に移し、大学が各団体に分配するため、直接の寄付よりも支援金の使用までに時間がかかるという。
手数料で金額が減ってしまうことを指摘する声もあった。京大によると、Alumnoteと京大が手数料を差し引いている。京大は手数料を「イベントの支援、領収証書の発行、郵送・発送費用」にあてていると回答した。
ある団体は、支援金が現金振り込みではなく大学の会計の相当額を利用する仕様が「若干不便だった」と話す。具体的には、購入サイトによっては顧問が立替払いをする必要が出ること、切手の購入は換価性が高く不可とされたことをあげた。
支援金の使用に必要な手続きは大学が定めており、団体は大学の会計規則に従う。具体的な手続き内容は以下の通り。
各団体は、課外活動掛に対して見積書や購入物品が分かるカタログやサイトのコピーを提出し、課外活動掛が業者に連絡する。なお、京大と取引のない業者を指定した場合には、業者登録のため1週間程度が必要となる。見積書を取得したのち、課外活動掛より発注を行う。京大は、各団体が個別に業者に発注を行った場合には支援金からの支出は認められないとしている。
運営や宣伝の問題点
ある団体は、ホームページの公開日時や参加申し込みの締切が延長されたことや、Alumnoteが各団体へメールを送信する際、BCCではなくCCで送信し、約450件のメールアドレスが各団体間で確認可能な状態になったことをあげ、「運営が杜撰に感じた」と問題点を指摘した。運営についてAlumnoteは、今年度より「メール誤配送防止システムの導入などの再発防止策を講じている」と説明する。
また、支援の周知の方法について課題もある。学部や学科のグループラインで複数の団体が長文の宣伝を送信し「学部学科の連帯感が失われる寸前まで行った」ものもあったという声も聞かれた。「応援投票を得るためにはどのような手段を用いてもよい」かのような受け止め方をされ、「過剰ともいえる宣伝」が見られたという。また、OBに投票の協力を求めたところ「胡散臭かった」と指摘され、学生からも宣伝に際し「怪しいことをやっているかのような罪悪感を抱いてしまう」との意見があった。
Alumnoteに対応を聞くと、宣伝について昨年のアンケートでも同様の意見があり、今年は団体に「あくまで自団体の活動PRによって共感いただけた方に投票を呼びかけること」を周知していると回答した。また、参加団体ガイドラインで、不特定多数が参加するライングループ等での強引な勧誘を禁止する案内を行っている。引き続きイベントのメインは投票の呼びかけではなく、活動PRである旨を発信する姿勢を示した。