インタビュー

「冴えない」京大生 エルフと京都の寺社を回る最新作 京大出身作家 森田季節さんインタビュー

2024.09.16

作家の森田季節さんが7月、最新作『異世界エルフと京大生』(星海社)を刊行した。森田さんは京大文学研究科に在学中の2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞し商業デビュー。代表作の『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』は21年にTVアニメ化、25年には続編の放送を予定している。森田さんの学生生活や新作の見どころを訊いた。(涼)

――なぜ京大に。

実家が神戸なので、阪大だったら通えてしまうのですが、京都くらい離れていれば一人暮らしが認められたという単純な理由ですね。東京は遠すぎて行きたくなかったです。

――創作のきっかけは。

高校生のころから趣味でショートショートの小説を書いていました。その趣味の延長として大学1回生のとき、中編のノベルゲーム(イラストやBGMとともに、文章を読み進めるタイプのゲーム)を無料で公開しました。これが思ったよりダウンロードされたので味をしめて、もう少し長くて有料のゲームを作ろうと。

そこから同人サークルを立ち上げ、ノベルゲームを作るようになりました。ラノベ数冊分ほどのテキスト量があるゲームを数作品ほど作ったのですが、その間、他の担当者の仕事が遅れたりして、待ち時間ができてしまいます。そのとき書いた小説でラノベ(ライトノベル)の新人賞に応募したところ、最終選考まで行ったので、本格的に挑戦しはじめた形ですね。

――ラノベとの出会いは。

しっかり読みはじめたのは大学からです。同じTRPGサークルの友人が、頼んでもないのに大量の本をドサドサ貸してくる人間でした。律儀に全部読んで返すと、また同じくらいの分量が返ってくる(笑)。そのなかに『イリヤの空、UFOの夏』などのラノベから、ミステリやSFまで幅広く含まれていました。

――京大時代のご専門は。

専攻は日本中世史で、熊野海賊について研究していました。中世の熊野地方にいた、半分神官で半分武士のような集団です。

卒論では先行研究を批判すれば良かったのですが、大学院に進むと完全に行き詰まりました。熊野の史料は多くないので、次の論文を書こうとしても「元ネタ」が見つけられないんですよ。実力不足で、院生を中心とした勉強会でもずっと叱られていました。なので、院進したあとは「どうやって抜けるか」ばかり考えていましたね。

――大学院在学中にデビューを。

本当に良かったです。就職して兼業で小説を書いていくという方向性が見えたので、「研究をやめられる」とほっとしました(笑)。

左京区のリアリティを重視


――本書の執筆に至った経緯は。

星海社の編集さんから「京都の話を書いてほしい」という依頼がありました。大学生を主人公にすることは初期に決まったので、なら京大生にしよう、と。

――なぜエルフ(ファンタジー作品によく登場する妖精の一種。西欧の神話や『指輪物語』を起源に持つ)。

異世界人を登場させることも早い段階から決まっていました。ただ、「異世界から来た普通の人」だとラノベ寄りの本としてフックにならない……と考えると、自然にエルフの小説となりました。

――主人公とエルフ以外の人物がほとんど登場しない。

主人公が友達のいない設定になった結果ですね。書いていても孤立しすぎだろうとは思いましたが、友達が多いと森見登美彦先生の世界に近づいてしまったかなとも思うので、結果オーライでした。自分はここまで孤立していなかったです(笑)。

――取材はどのように。

全部書き終わってから作中で出たところを歩いて回りました。ただ、本作ではエルフと京都の寺社を回るのですが、寺社は時間が経っても変わらないんです。基本は昔の記憶プラス情報のアップデートで書けました。

あと、「このバスは今だと混みすぎて乗れない」と言われても困るので、異常に混雑する区間は避けて書きましたね。

――京大の読者に向けて。

『異世界エルフと京大生』は京都や左京区のリアリティが崩れると成立しない作品です。自分自身はいま、学生でもなく京都に住んでもいないため、記憶だけで書くと「間違い」になってしまうという点で気を遣いました。だから「合ってる」、「リアリティがある」と思ってもらえれば一番嬉しいですね。

ただ実は、本作では既にひとつ「間違い」を指摘されています。作中、主人公は文学部の「専修」に所属していると書いたのですが、専修になるのは3回生からで、2回生時の所属は歴史基礎文化学系なんです。本当に、京大生にしか伝わらないミスですが(笑)。〈了〉