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カール・ワイマン氏来日 科学教育のあり方、討論

2009.10.05

京大高等教育研究開発推進センターは9月25日、ノーベル物理学賞受賞者であり、科学教育研究にも熱心に取り組んでいるカール・ワイマン氏らを招き、講演・パネルディスカッション「学士課程における科学教育の未来」を開催した。会場は百周年時計台記念館・百周年記念ホールで、プログラムはワイマン氏の講演(同時通訳付)とパネルディスカッション(討論)の二部構成。第二部のパネルディスカッションではワイマン氏のほか、物理学者の坂東昌子・愛知大学名誉教授と笹尾登・理学研究科教授、田中耕一郎・物質―細胞統合システム拠点教授、教育学者の松下佳代・高等教育研究開発推進センター 教授が出演した。このプロジェクトは大学教員教育研修を目的としたもので、主に大学教員や教員を目指す学生に向けて、科学だけでなくあらゆる未来の教育のあり方を熱く語りかけたものであった。

第一部のワイマン氏の講演の題名は「21世紀の科学教育―科学の知見を用いて科学を教える―」。複雑な分析や判断、大量の情報の組織化、新しい情報の学習・応用能力を生徒に求め、科学の熟達者の思考を身に付けさせる教育について取り上げた。ワイマン氏は従来の講義法の欠点や、科学の初学者と熟達者の思考・信念との違いなどから、知識を断片的に詰めるだけではなく、脳の「配線」を変えるような学習の必要性を訴える。脳研究や認知心理学、授業研究といった科学の知見に基づいた効率的な教授法やその構成要素を最新のデータを用いて紹介。生徒が科学に熟達するためには長時間の多大な努力が必要で、脳を筋力トレーニングと同じように継続的に鍛えさせるべきであり、教育自体も科学実験と同じように効率的な活動とフィードバックを行い、熟達の成果を測定するべきことなどを述べた。加えてワーキングメモリー(脳作業のための一時的な記憶)の限界や動機づけなどにも触れて、授業での熟達者的な思考の実践法や宿題の出し方を具体的に提案した。

第二部のパネルディスカッションでは、まずパネリストとして坂東氏から「文系学生への授業体験」、笹尾氏から「大学における実験教育―物理教育の経験からみた課題―」が発表された。坂東氏は文系大学での大人数の科学教育の経験から、すべての人への科学教育や日本における科学教育研究について述べ、笹尾氏は日本で広まっている理科嫌い・理科離れについて教育と社会の変化から考察し、大学において科学実験の教育を行う重要性とそのやり方について述べた。次に松下氏から《指定討論》「大学の科学教育を変える―誰が・何を・どのように?―」が行われ、ディスカッションの議題となる主体・内容・方法について整理。その後、田中氏の司会でディスカッションが開始され、時代で考えが変わりゆく生徒に合わせる教育方法についてや日本の教育制度・環境について、理科嫌い・科学技術者の向上の切り口についてなどが話し合われた。

第一部、第二部とも聴衆からの質問時間が設けられ、多くの熱心な意見や質問が飛びかった。第二部終了後には情報交換会が行われた。

《本紙に写真掲載》