インタビュー

「京大生作家」青羽悠さん 6年の軌跡 「京都という土地をやりきった」

2024.04.16

「京大生作家」青羽悠さん 6年の軌跡 「京都という土地をやりきった」

自著を手にする青羽悠さん=文学部東館前

作家の青羽悠さんがこの春、修士号を取得して京大を離れた。青羽さんは2016年、歴代最年少(当時)の16歳で第29回小説すばる新人賞を受賞して文壇デビュー。18年に京大総合人間学部へ入学したのち、学部・大学院時代を通して4冊の単行本を上梓している。青羽さんの京大での6年間や、4月5日に発売された単著『22歳の扉』について訊いた。(涼)

――6年間の学生生活をどう振り返る。

「京都という土地をやりきった」。そういう感覚が強くあります。6年間、サークルに参加したり、研究に打ち込んだり、あとはお酒を飲んだり。楽しい時間だったのでもちろん切なさや悲しさはありますが、「やりきった」おかげで後悔はしていません。

思うのは、学生として京都にいるといつか「京都をやりきるんだな」ということです。次に何をするか迷って動けない時期を乗り越えて、タイミングが来ると「やりきれる」のではないでしょうか。

6年前、京都は右も左も分からない場所でした。そこで色んなものに出会っていき、今や京都は自分の街です。ただ同時に、京都、特に「左京区」の狭さを感じるようにもなりました。だから自然と京都を離れる選択肢が浮かびました。今は次の新しい場所に移ろうという気持ちです。

――「やりきった」という感覚はいつごろ生まれた。

修士1回生の秋ごろです。趣味のバイクで旅行していたのですが、京都に帰ってきたタイミングで、うまく「京都」に帰ってこられていないような違和感を覚えました。そこで、この場所(京都)は自分にとって一つの終わりを迎えたのだな、と気づきました。そのとき自分の「モード」が変わったような気がします。

新刊『22歳の扉』


青羽悠『22歳の扉』(集英社)



――どのような小説。

京都の大学生の話です。主人公の朔が、学内にあるバーのバーテンダーとして学生生活を送っていく、成長小説にあたる物語だと思います。

――京都を舞台にした背景は。

もともと自分の小説では、舞台となる土地はぼやかして書いていました。ただ、今回は京都という土地にこだわりました。自分の学生生活を整理するという意味合いもありますが、本作の舞台の中心となる左京区という空間に物語が生まれやすいから、という理由もあります。

左京区は学生の多い街です。だからでしょうか、僕を含め「変人になりたい」という憧れが身近に存在するように思います。その憧れをもとにすると小説が書きやすいんです。

――バーに興味を持ったきっかけは。

バーでバイトをしていたのが一つのきっかけです。体質的にアルコールを多くは飲めないので、じっくり飲める点も気に入っています。

――ご自身の経験との関連は。

自分自身の経験も取り入れてはいますが、一つのフィクションとして書き上げました。自分の話というよりも、僕が憧れ、かっこいいと思う大学生の成長の形を表現しました。例えば(主人公の朔が)数学を集中して勉強したり、漢詩の授業を履修し続けたり。アカデミアらしいかっこよさがありますよね。京大生のみなさんにも、「憧れの大学生」の姿を楽しんでいただければと思います。

――あえて特定の時代を表現せず、普遍的な物語にしたようにも見える。

意識して普遍性を目指したわけではありません。自然とそうなりました。特定の時代を想定することなく違和感なく読めるのは、自分でも驚いた点です。例えば今作にはお酒やタバコといった要素がよく出てくるのですが、自分より世代が上の方がそれを「懐かしく思った」と言っていて。ひょっとしたら(自分の過ごした)京大というものが、どこかトラディショナルな姿を残しているからなのかもしれません。

――作中でも描かれる大学自治について。

タテカンや吉田寮の問題を境に潮目が変わったのを感じています。大学側のスタンスの変化もあると思いますが、学生に「変なことをやろう」という元気がないのも問題だと思います。「やっちゃダメかも」と自粛してはいけないでしょう。アンテナを張ったうえで、自分の目で見て考えることが重要です。

――今後の展望は。

アカデミアを離れて就職します。作家としては、今のまま書いていけばいいと感じています。これからも自分の手に届く範囲の物語を紡いでいけたら。〈了〉