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DXコンサルに9千万 京大 一部は随意契約

2024.03.16

京大は昨年、事務作業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進める目的で、総額約9400万円のコンサルタント契約を締結した。京大職員のみで事務組織内の業務課題の解決に取り組んだ場合、「従来から取り組んでいる業務改善の範囲に収まってしまう可能性があるため」、第三者の知見・ノウハウを活用することにしたのだという。京大のような公的な法人が高額の契約を結ぶ場合、競争により契約相手を決めるのが通常だが、今回の契約の一部は競争性のない随意契約で締結された。

近年、多くの国立大学がDXに力を入れている。その背景には、コロナ禍による教育・研究・事務のオンライン化の進展があり、コロナ禍以後にDXの専門部署を設置した大学が数多くある。

具体的な取り組みは、ペーパーレス化など、日常業務の変革を目指すものから、市民など100万人をターゲットとして地域全体の新しい社会づくりに貢献することを目指す(東海国立大学機構)というような規模の大きいものまで、多岐にわたる。▼学内で公募した職員のチームによる取り組みで、年間約10万時間強の業務時間削減に成功(東北大)、▼学生中心のDX推進チームが教職員と協働し業務改善システムを開発(香川大)、▼特定の授業に参加する学生が5つのチームに分かれ、職員への聞き取りなどを踏まえて業務自動化システムを作成。最も評価の高いチームのシステムを実際に導入する(島根大)など、構成員の知恵を結集して業務課題の解決を図ると同時に、職員・学生の教育にも役立てようとするユニークな取り組みも見られる。


こうしたなか京大は、学外の専門家の手を借りた。契約相手は株式会社SHIFT。東証プライム市場に上場するIT系の会社だ。2022年1月から京大の経営管理大学院にて、企業のDXとESG(環境・社会・ガバナンス)に関する寄附講座を提供。23年度後期には、経営ノウハウを教える公開講座を経営管理大学院や京大子会社と共催するなど、京大との関わりが深い。創業者で代表取締役社長の丹下大(たんげ・まさる)氏は、京大工学研究科出身。特命教授として寄附講座の講師を務めている。

競争なし、問題ない?


契約は2023年2月と9月に締結された。2月の契約は4268万円、9月の契約は5173万3000円で、総額約9400万円に上る。

京大では、予定価格が1000万円未満の随意契約を除き、締結した契約の情報をウェブサイト上で1年間公表すると決められており、今回の各契約の情報も公表されている。それによると、2月の契約締結にあたって京大は、「金額だけではなく、より質の高いサービスを提供し得る事業提案を求めて」、入札に付す代わりに公募公告を行った。これには、SHIFTのみが応募したという。

しかし、二度目の契約に際しては、「本請負を行える唯一の者であるため」という理由で、入札に付さず公募公告も行わずに、SHIFTと約5200万円の随意契約を締結した。

DXのコンサルタントを行う企業は複数あるなか、なぜSHIFTが「唯一の者」だと言えるのか。京大は本紙の取材に、「(2月の契約後に新たに必要になった)調査のためには本学の目標、課題、業務手順等を十分に把握している必要があり」、2月の「契約を通じてこれらを把握している株式会社SHIFTが唯一の者であると判断した」と説明した。

SHIFTとの9月の契約に関する公開資料の抜粋(京大HPより)。契約理由の具体的な説明はない



契約の詳細


京大によると、2月の契約では、▼FAQ及びチャットボットの導入▼電子決裁及び電子保存の導入▼外部資金の受入業務のデジタル化▼DX人材育成▼RPA(Robotic Process Automation)の導入、の5つのプロジェクトが設定され、SHIFTが課題分析や解決策立案の支援を行った。

このうち、「外部資金の受入業務のデジタル化」以外の4つは、この契約をもって支援を終了し、現在は京大職員が「自力でプロジェクトを遂行しているところ」だという。「外部資金の受入業務のデジタル化」については、「システム化に向けた具体的な検討を進める」ため、9月に再度契約を締結したが、こちらもこの契約をもって支援を終了し、以後は京大職員が「自力でプロジェクトを遂行していく予定」だという。現在、民間との共同研究・受託研究費などの外部資金の受け入れ業務は、各部局につき指定された部署が担当している。

これらの契約に、システム化の実施(プログラムの実装など)は含まれるのか。京大は本紙の取材に、DXの本質は「業務を変革するプロセス」だとして、「システム化の実施を(これらの契約と)同様の方法で実施することは考えていない」と答えた。

9月の契約では、「研究室の事務作業に関する調査」も設定された。2月の契約で設定したプロジェクトを遂行するなかで、課題の根本的解決のためには、「事務手続の起点となる研究室で具体的にどのような作業を行っているか、実態を把握する必要性が明らかになった」ものの、京大職員のみによる調査では、「課題分析や解決策の検討が現状ベースになり、根本的な解決策を提示することが難しいと判断」したのだという。

京大は本紙の取材に、「事務組織内の業務課題は非常に広範に渡っており、長期間の取り組みが必要と考えている。現時点では、全体的な工程、スケジュール感、予算を示すことができる状況ではない」と回答しており、全体像は未だ不透明だ。

両契約はいずれも「DX推進室」が締結を担当した。総務部DX推進室は、23年4月の組織再編で「不正防止実施本部事務・DX推進室」から独立した部署。本紙の取材に京大は23年6月、「DX化をより推進するため」に独立させたと回答していた。

■編集員の視点

巨額の契約、十分な情報公開を

国立大学の収入の一部は税金を原資としており、契約締結には公正・透明性が求められる。京大のウェブサイトにも、「随意契約によることが真にやむを得ないものを除き、一般競争入札等の競争性のある契約方式を適用する」との記載がある。今回、9月の契約が随意契約となった経緯は理解できなくはないが、約5200万円という巨額が動いたことに鑑みると、随意契約でよかったのか疑問が残る。少なくとも、「本請負を行える唯一の者であるため」という公開資料の手短な記載からは、DXコンサルを行う複数企業の中からSHIFTが選ばれた経緯を読み取ることができず、十分な情報公開がなされたとはいえない。定型的な文言の使用にとどまらず、随意契約にした詳細な理由を説明するべきではないか。(編集部)