文化

価値ある本を学生に渡したい 「茶と古本」喜多の園 店主に聞く

2024.01.16

価値ある本を学生に渡したい 「茶と古本」喜多の園 店主に聞く

店主の小笠原さん。店内には、約5千冊の本が高く積み上げられている

京大正門を西に進んで東山東一条の交差点を過ぎた先に、小さな古書店がある。出迎えてくれるのは、店主の小笠原康博さん。自身の蔵書が京大生や文学好きの学生の役に立てば、という思いで古本屋を営む。その思いを聞いた。

小笠原さんは、小さい頃から太宰治や大江健三郎が好きな文学青年だったという。中学生の頃から、古本を探すために生まれ故郷の長野から東京や京都まで足を伸ばしていた。現在、自身の蔵書の数は約1万5千冊にものぼる。

長野市で1853年から続く茶舗「喜多の園」の6代目社長でもある小笠原さん。長野の本店とは別に、東京で経営していた店舗の店先に置いた蔵書を売ってくれと頼まれたことが、古本を売り始めたきっかけだという。その後、東京で古本屋を10年営んだ。

会社経営に注力した後、人生の最後に何がやりたいかを考えるようになった。小笠原さんは、寺社仏閣や古本屋が大切にされている京都の雰囲気が好きだった。さらに、かつて京大文学部で学びたいという希望を抱いていたこともあり、京大に対する憧れがあった。たくさんの学生が集まる京都で自分の蔵書を若い世代に手渡したいという思いから、京都に店を構えることを決めた。

2021年に哲学の道の近くに店を出した。しかし、客の多くは観光目的で、あまり学生と交流する機会に恵まれなかった。学生と関わりを持てる場所はないかと物件の大家に相談したところ、大家が京大周辺のさら地を買い取って、小笠原さんのために建物を建ててくれた。23年6月に現在の場所へ移転したという。

店内には自身の蔵書約5千冊がずらりと並び、近現代文学やフランス現代思想の本が多くを占める。その中には絶版となった本も含まれており、現在ではなかなか手に入らない太宰治著『津軽』の初版もある。

古本には発行部数や版によって決まる相場の価格があるが、店に並ぶほとんどの本には値段が記載されていない。というのも、小笠原さんは本の価値を見る学生の目を知りたいからだ。小笠原さんは学生に対して「君ならいくらの値をつける?」と尋ねる。「本を通じて、学生と交流できることが楽しい」。相手が提示した値段を聞くと、本への思い入れを知ることができるという。

「京大で学ぶことができる学生がうらやましくてしょうがない」。若者が手に取ったことのない本を提供できればと意気込む。営業時間は10時から18時で、定休日は日曜日。(史)