文化

視聴者に「伝わる」番組を目指して NHK『ねほりんぱほりん』出前授業

2024.01.16

視聴者に「伝わる」番組を目指して NHK『ねほりんぱほりん』出前授業

奥に座るのが講師の山登さん。会場内は120名の学生でほぼ満員だった。なお、本セミナーはNHKと京大文学部が共催であった

12月14日の3限時に、文学部校舎第三講義室にてNHK大学セミナー「ねほりんぱほりん出前授業」が開催された。会場では「養子」を取り上げた回が放映された後、番組のディレクターである山登宏史さんが制作の裏側やメッセージを届けることの難しさなどを語った。

「ねほりんぱほりん」とはMC2人(南海キャンディーズの山里亮太さんとタレントのYOUさん)と一般人のゲストとの対談番組。現在はEテレで毎週金曜22時から30分間放送されている。放送時はMCはモグラの人形に、ゲストはブタの人形に変身。顔出しNGのゲストが普段は聞きにくい世界の裏側を赤裸々に語る。「元極道」や「ホストに貢ぐ女」など、これまでに80以上のテーマを扱ってきた。

山登さんがディレクターとして制作に携わった「養子」回。ゲストは当時高校三年生のケイタさん(仮名)。日本には、生みの親が貧困などの事情で子供を育てられない場合に、児童相談所などを介してその子供を他の夫婦が養育する「特別養子縁組」という制度がある。ケイタさんは、この制度で2歳の時に養子となった。6歳の誕生日に自分が養子だと親から伝えられ、かなりショックを受けた。だが、今は吹っ切れて複雑な気持ちを意識することはない。むしろ親に迷惑を掛けっぱなし、などとトークは続き、番組終盤には涙ぐむMCが親からの手紙を読み上げた。「ありがとう」。ケイタさんは感謝の思いを口にした。

「養子」回の制作前、他の番組で養子について取り上げた感想を調べる中、心ない声の数々をSNSで見つけたディレクターの山登さん。「血が繋がっていなくても家族」というメッセージを伝え、養子を可哀そうだと捉えがちな世間の空気を変えたいと思った。テレビを見ない人の多い現代だが、「お堅いNHKっぽくない攻めたテーマを扱い、笑い要素のある『ねほりんぱほりん』なら見てもらえるかもしれない」。可能性を感じた。

ただし「伝える」ことと「伝わる」ことは違うという。番組を見たからといって、視聴者がメッセージ通りに考えるようになるとは限らない。「単に知ってもらうのではなく、心を揺さぶり気づいてもらうことが重要です」。そこでエピソードを重視するという。エピソードで詳細を語り、当事者の苦しみや悲しみを伝える。また、自分と同じだという「地続き感」を感じさせ、自分との共通点や差異を明確にする。「養子」回にも、二分の一成人式の時、自分史を作成する宿題で0歳の写真が必要となったが、どこにもなかったため、仕方なく他の赤ちゃんの写真を使ったなどのエピソードを入れた。そのおかげもあってか、放送後はX(旧ツイッター)での反響が大きかったという。エピソードを積み重ねた結果、視聴者がふとした時にゲストを思い出す。すなわち「視聴者の心の中にゲストが住むことが理想です」。

山登さんの話の後には、質疑応答が行われた。「どのエピソードを採用するのか」という質問に対して山登さんは、多くの当事者が経験した「中央値」を採用することが多いと答えた。その方が社会への問いかけになりやすいと経験的に感じるという。また、放送内容に関して「養子」回ではMCのアドリブによる会話にケイタ君の本質が見えると感じ、その箇所を代りに取り上げたと明かした。質疑応答中に質問が途切れることはなく、大きな拍手をもってセミナーは終了した。なお、終了後にはNHK職員による仕事紹介・質疑応答が実施された。(郷)