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進路迫られる法曹志望者 ロースクール、定員2割削減

2009.05.16

設立から5年の節目を迎えた法科大学院の合格率低迷をめぐり、京都大学及び東京大学は10年度からの定員の2割削減を決定。文部科学省を中心として法科大学院の総定員を絞り、全体の質を高めたい考えがあり、その「先駆け」を務める形だ。京都大学法科大学院(法学研究科法曹養成専攻コース)では、定員200人から160人に減らすことを発表している。 (麒)

法務省は法科大学院設置にあたって、「合格率は7,8割」とする目標を打ち出していたが、昨年度の合格率は33%まで低迷。第1回48%、第2回40%と下がり続け、合格者数の微増がロースクール全体の増加に対応できていない形だ。合格者が一人も出ないロースクールもある一方、司法修習生の質低下も議論され、対応が問題化。中央教育審議会の法科大学院特別委員会は国家機関としては初の縮小提言を発し、物議が醸された。

京大では、昨年度既習者169人の受験者中84人、未習者72人中16人が合格し、全体の合格率が40%程度まで落ちる事態に至った。ロースクール自体の合格率も2007年度で受験者の2割にとどまる。しかし、既習者は司法試験合格率5~6割を維持しており、ロースクール入学後の合格率はある程度保障されている。今回の定員減によってロースクール自体の合格率の向上が期待されるが、ロースクール定員減とそれに伴うロースクール合格率の減少によって、法曹志望者全体の最終司法試験合格率がどう推移するかは不明である。

京大新聞が行った無作為アンケートでは10年度以後卒業予定の現役法学部生30人中、11人は「今回の定員減で法科大学院志望に影響は受けない」、7人が「今回の定員減で法科大学院を進路に含めることには影響が生じた」、9人が「もともとロースクールを考えていない」と答えた。法曹と、公務員・就職といった法曹外の進路の間で大きく迷いが生じているものと考えられる。ロースクール志望を変えなかった一人は「京大・東大が優先して定員を減らさねばならないことに不満を感じるが、7,8割の合格率が実現されるなら仕方ない。一定の合格率がないと挑戦しにくい」と述べる一方、ロースクール志望に影響が生じたとする一人は「制度改変に振り回されることには辟易。実績のない法科大学院はつぶして、旧帝大を中心とする一定数の大学院に統廃合するべき」とする。

今回の京大・東大定員減に関して、有名私大のロースクールなどとは温度差が生じており、早稲田大は「国立並は無理」としながらも削減に同意するが、中央大は一律削減に応じない考えを打ち出している。今回の削減が全国的な法科大学院制度の改定を目指した削減である以上、こうした他大学との関係の中でどのような定員の調整がなされるのか注目される。

ある京大ロースクール生は、今回の削減を「自然な成り行き」とし、「合格率の高低は勉強するモチベーションに直結する」としながらも、「全体で考えるべき問題」と話す。一方で、定員削減によってでは、実態は変わらないとする一人は、そもそもカリキュラムの不備を指摘する。

従来から、「京大ロースクール生は高度に理論的な勉強ばかりしているため、画一的な試験には弱い」と言われていた。「これ以上合格率は上がらないだろう」と話す関係者もいる。カリキュラムの不備を指摘するロースクール生によると、「京大生の択一式試験の実績の悪さには定評があり、民法の論文は異常に強いが、反面、刑法の出来の悪さにもまた定評がある」のだという。このため、今回の定員減に伴いカリキュラムも改正され、これまで前期で終わらせていた刑法の講義が後期にも拡張された。もとより、京大の民法教員と刑法教員の不均衡を指摘する声はあり、学部講義も民法が4部まであるのに対し、刑法は2部までというような実態もあった。

定員減の目的が合格率の拡大であったことを思い合わせたとき、以後のロースクールの対応はカリキュラムなども含めたものとして注目されるべきだろう。




《本紙に写真掲載》