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〈解説〉 嵐の前触れ「仮処分」

2009.04.22

通常の民事裁判は原告の訴状提出、裁判所による当事者呼び出し、数回の口頭弁論、判決という手順で進む。訴状提出から呼び出しまでの期間は短いが、数回の口頭弁論は争点整理に始まり、証拠調べや和解の調停など、かなりの期間を使う。一審で終わるとしても、裁判の期間は長短様々だ。

問題は、この裁判期間中に、白黒つけるべき懸案の物が変化してしまう事である。自然に曝されて風化してしまうのはやむを得ないにしても、被告人が「死なばもろとも」とて係争物を売りとばしたり、同調者に名義を移してしまっては困るわけである。原告が勝訴したと思いきや、新たな裁判が始まることになってしまうからだ。

今回の訴訟事項は「クスノキ前の不法占拠について」。「占拠地」の現状維持を図るため、クスノキ前の第三者譲渡を防がねばならない(そんなことされると学生としても困るが)。そこで、民事保全法に基づき、裁判所が原告の申し立てに基づいて仮処分・仮差押の命令を発し、被告の係争物譲渡を阻止する方法を講じることができる。以上の経緯から、仮処分の通告書は面白い書き方をしている。いわく、「占有を他人に移転し、又は占有名義を変更してはならない」「執行官は、債務者らに上記土地の使用を許さなければならない」。要するに、裁判所は、被告に「そこにいろ!」と命令しているわけである。

かといって、被告側が有利になるわけではもちろんない。今回の仮処分自体は、「不法占拠」のみを訴訟事項としてなされたものである。すなわち、大学法人京都大学の私有地を法の範囲内で有しているのか否かのみが争いの焦点となる。私見では、正当な団体交渉権の発露としてのクスノキ前占拠という判断は妥当でなく、今回の仮処分で予告される裁判にあっては、被告側が不利になる模様。ただし、並行して労働委員会に斡旋を依頼している労働争議に関しては、全く別個の問題として進行するため、労働争議において一定の実が得られれば、争議という目的は果たされるものとみられる。