文化

憧れの海外生活 理想と現実 豪州 ワーホリ体験記

2023.08.01

憧れの海外生活 理想と現実 豪州 ワーホリ体験記

ウォーターフロント地区として発展し、現在は再開発中のドックランズ地区。商業施設や娯楽施設が充実し、革新的なデザインを施したビル群が建つ。

私は今、海外生活に憧れを抱き、オーストラリアのメルボルンでワーキングホリデー(以下、ワーホリ)をしている。ここでは、4月に渡豪して以来、約3ヶ月間のワーホリ生活を紹介する。(順)


ワーホリって?
日本が協定を結んでいる国・地域で、働きながら一定期間の休暇を過ごすことができる制度。豪州の場合は18歳以上31歳未満が対象。1年間滞在が可能(最長3年間)で、就学は17週間まで。豪州のワーホリビザはオンラインで申請可能で、定員がない。

私が滞在しているメルボルンは500万の人口を抱える豪州最大の国際都市。さまざまなバックグラウンドをもつ人々が交錯しあい、過去と未来が融合したカラフルな街並みが魅力だ。19世紀後半、ゴールドラッシュの栄光のなかで次々に建てられたビクトリア調の建築。それらと並列して、前衛的なデザインを施した高層ビルやミュージアムが建つ。裏路地には英国風のレストランやカフェが軒を連ね、壁一面に広がるストリートアートが街にアクセントを加える。中華街を中心にアジア料理も充実し、様々な国籍の料理で街は溢れかえる。

セントポール大聖堂。フリンダース・ストリート駅の向かいに位置するイギリス国教会派の教会。空を刺す3本の尖塔が雄大だ。


公用語は英語だが、それを忘れてしまうほど様々な言語が話されている。中国語をはじめ、スペイン語、ヒンディー語、タイ語、日本語などなど。移住者の多い都心部では英語を母国語としない人々も多いため、聞こえてくる英語の訛りは強く、文法も正確ではないことが多い。おかげで、不完全な英語でも積極的にコミュニケーションを取ることに抵抗を感じなくなった。ただし、それは悪い方にも働いて、意味が通じればそれで満足してしまい、もっと適当で自然な表現方法を探す道が少ない。私の場合、職場やホームステイ先ではほとんど英語ネイティブと出会う機会がなかった。英語ネイティブとの生活を想定していると、少し面食らうかもしれない。

日本のアニメは世界共通語である。『ワンピース』や『進撃の巨人』をはじめ、スタジオジブリ作品や『ナルト』など、多くの作品が高い知名度を誇る。アニメを通じて日本語や日本の文化に親しみを持ってくれている人も多い。

寿司はもはやハンバーガーやサンドイッチに匹敵するほど広く行き渡る。都心では、寿司屋の数がカフェの数と拮抗するほどだ。巻き寿司や握り寿司がショーケースに並んでいて、テイクアウトするのが主流の食べ方だ。昼時になれば、ビジネスマンや観光客で長蛇の列ができる。握り寿司が江戸時代後期に屋台で庶民向けに販売されたのがその始まりであることを考えれば、意外な形で伝統が回復されていることにおもしろみを感じた。

寿司のテイクアウト専門店。40種類ほどのネタが並んでいて彩り豊か。一貫あたり2ー4ドルほど。海老天握りやサーモンロールなど基本的なものから、タコサラダいなりや野菜天ぷらいなりなどの個性的なものまで(味は意外とまとも)


コロナが終息し、経済が再開しだしたのが去年。知り合いに聞けば、当時は多くの店が求人していて、比較的スムーズに仕事が見つかったよう。しかし、今年に入ってから外国人の受け入れが拡大し、物価高に伴う消費の停滞も相まって求人が減少している。最低時給は23・23豪ドル(7月20日のレートで計算して2212円)と日本の倍を超えるが、それ以下で働かされる場合もあり、正規の賃金を得られるかは確約できない。

仕事探しは履歴書配りかオンライン応募、もしくはコネが主な方法である。渡豪してひと月がたった頃、慣れない手つきで履歴書を書き始めた。出来上がった履歴書を持って街中を回る。適当な店をみつけ、いざ入店。マネージャに履歴書を手渡し、簡単に自己紹介をする。日本ではなかなか見られないやり方に最初は戸惑いながらも、心を無にしてなんとかやり切る。その数時間後、ある店から電話があり、その日から働くことになった。

中年夫婦で経営する小さな韓国料理屋である。鄙びた外観には似つかず、昼時は長い列ができるほどの人気店だ。私はキッチン補佐とウェイター、会計を担当する。彼らの子供も私と同じ世代とのことで、文字通り家族のように接してくれた。時給は約25豪ドルで賄い付き、これ以上ない待遇に思わず頬がゆるむ。しかし結局のところ、3週間ほどで辞めることとなった。というのも、私以外の店員は全員韓国人で、英語をほとんど話さなかったから。韓国語で進む会話を側からひとりで傍観するしかない居心地の悪さが身に応えた。

このように、飲食店の店員がほとんど同じ国籍の場合、英語以外で会話がまわることは珍しくない。職場で英語を使いたかった私は、再び職を求めて旅に出ることになる。(ちなみにその後30店舗ほど回ったが、いまだに職は見つかっていない)

通っている語学学校はタイ人とコロンビア人がマジョリティである。あるコロンビア人の友人は、平日は清掃員として、休日はマクドナルドで働いている。清掃業は接客業と並んでメジャーな仕事のひとつだ。接客業より働き手が少ないため、給料も良い。その他、工場で梱包などを行う仕事も高時給で人気。彼は語学学校を終了後、仕事をしながら金融関係の資格をとる。その後就職をして、永住権の獲得を目指す。彼のように母国に経済的な問題がある場合、豪州で安定した職を得て、永住権を申請する流れは珍しくない。

学校は毎週月曜から木曜の4日間。2時過ぎに授業が終わると、ほとんどの生徒は各々の職場へそそくさと去ってしまう。市内観光をしようにも、有名なスポットは数週間でまわってしまった。日本と違って手頃な距離に観光地がないため、休日に遠出をすることも難しい。都市圏を出ると、あたりは見渡す限り草原が広がる陸の孤島なのだ。仕事を持たない私は暇を持て余すこととなる。

私が最近ハマっている時間の潰し方は、当てもなく電車に乗り、終着駅で下車することだ。指定エリア内は乗り放題のチケットが一日6ドルで購入できる。車窓からは、レンガ造りの壁にアーチ型の窓が配置された洋館が立ち並んでいる。岩かと思ったら野生のカンガルーが集団でこちらを見つめていたこともあった。終着駅で降りて辺りを散策してみる。地平線が視界を半分に割り、その上を大きな虹が二重になって大地にかかっていた。(メルボルンは雨が多い)

あとがき


「なんとなく憧れていた海外生活」は達成できたと思う。ただ、安定したコミュニティに属さず、しかるべき社会的立場も持たないこの状態に不安を覚えることももちろんある。今のところ、来年の3月までこの生活を続けてみるつもりだ。この記事が、ワーホリはもちろん、海外渡航全般に興味のある方々の参考になれば幸いである。