インタビュー

「インド料理」追い本場の厨房へ 文学部 佐藤壮之介さん

2023.07.16

「インド料理」追い本場の厨房へ 文学部 佐藤壮之介さん

仕事終わりの佐藤さん(右)と副料理長(写真は全て佐藤さん提供)

7月のムンバイは雨季の真っただ中だ。平均月降水量は約800㍉と、京都の3倍を超える。インドの西海岸に位置するこの大都市で、料理人として働く京大生がいる。(田)

佐藤壮之介(さとう・そうのすけ)さんは地理学を専攻する文学部5回生。南インドの食文化について卒業論文を書くため、22年夏にフィールドワークでインドを訪れた。その旅中、ムンバイで立ち寄ったのが、いわゆる「モダン・インディアン」を提供する高級レストランだ。「モダン・インディアン」とは、インド料理をコース形式で提供するスタイル。主食と主菜が載った一皿料理を出すレストランが多いインドで、ここ10年ほどで発達してきた。

その店の、インドで用いられることの少なかった食材を積極的に取り入れる「素材志向」の料理に惚れ込んだ。宿泊先のホテルで履歴書を書き、数日後に再度足を運んだ。料理長に直談判し、インターン生として働けることになった。

そして今年の4月、京大を休学して単身インドへ。憧れの店で働き始めた。

路上の屋台なら200円ほどで腹を満たせるムンバイで、佐藤さんが働く店は9千円からのディナーを提供する。訪れるのは現地の富裕層やヨーロッパからの旅行客だ。レストランで働くスタッフは、料理長から皿洗い担当まで合わせて約50人。一度に15人ほどが厨房に入る。

佐藤さんの仕事は13時、食材の仕分けと下処理から始まる。14時ごろ料理の仕込み作業に取り掛かり、18時にスタッフ全員でミーティングを行う。厨房スタッフだけでなくソムリエやホールスタッフも集まり、予約の状況や客のアレルギー情報などを共有する重要な時間だ。19時半にサービスが始まり、夜0時まで調理や盛り付けに忙殺される。片付けを終えて退勤するのは深夜1時ごろ。週6日の勤務はかなり疲れるが、「楽しさが勝ちます」。

仕事の合間の食事にも手は抜かない。まかない担当のスタッフが毎日全員の食事を用意するものの、家庭の味を食べたいと弁当を持参する人もいる。ときには、インド各地から集まるシェフたちがまかないとして「故郷の味」を振る舞ってくれる。佐藤さんがつくったのは鶏の唐揚げや味噌汁など。特に唐揚げはスタッフから大好評だったという。

日本からの差し入れを食べる厨房のスタッフたち



週に1度の休日は、昼まで睡眠に充てる。午後は映画館でボリウッド映画を見ることもあるが、通りがかった店でストリートフードを食べることにもハマっている。

大きいレストランで働くのは初めて。この3か月は「何も知らなかったんだと痛感する毎日」だったという。言語面の苦労も少なくない。ほとんどのスタッフは流暢な英語を話すうえに、聞きなれない現地のアクセントにも苦戦した。現在も、「言葉が通じず歯がゆいことがある」と話す。

カレーに興味を持ったのは高校3年生のときだった。部活後の空腹を満たすため手頃なインド料理屋に通ううちに、バラエティ豊かなインドカレーの虜になった。カレーを自作し始めたのは浪人期。料理経験はなかったが夢中になり、予備校の友人に振る舞うこともあった。京大に入学すると「京大カレー部」に所属。19年からは不定期で飲食店を間借りして、カレー店「咖喱食堂 印華」の営業を始めた。

将来は日本で料理人になりたいと考えている。目指すのはインドの調理法と日本の素材を融合させたコース料理。日本ですでに親しまれている「インドカレー」という枠にとらわれず、「インド料理」で勝負したい。そこに、日本におけるインド料理が新たな発展を遂げる可能性があると、佐藤さんは考える。

今年の10月に復学し半年間で卒業する予定だ。その後について尋ねると、「ロンドンに働いてみたいインド料理店がある」。自分のつくるべき料理を追いかける。探究心は尽きない。

まかないのラジマ(金時豆のカレー)



まかないのコンブディ・ワデ(米粉などを使った揚げパン)