企画

編集員バイト体験記 未経験から気軽に始められるバイト

2023.04.01

編集員バイト体験記 未経験から気軽に始められるバイト
新学期を迎え、新入生に限らず多くの人が春からの新生活に心躍らせていることだろう。そんな中、避けて通れないのがアルバイトだ。生活費や交際費を賄うために、9割超の大学生がアルバイトを経験しているとの統計もある。

職種、環境、待遇など無数に存在するアルバイト。本企画では、その中から編集員が経験したアルバイトを5つ掲載している。春から新たにアルバイトを始める際の一助になれば幸いだ。

※各記事の最後にあるレーダーチャートは編集員個人の体感です。(編集部)

目次

<単発>イベント/祭り:祭礼日当:8000円
<短期>製造業:パン工場時給:1050円
<単発>販売業:飲食店時給:1400円
<長期>事務:調剤薬局時給:990円
<長期>実験補助:研究室時給:1000円


<単発>イベント/祭り:祭礼日当:8000円

祭りで汗流す「労働(Arbeit)」


葵祭や時代祭に代表される祭礼行列の風景は、京都を彩る風物詩のひとつだ。読者のみなさんは、そんな祭礼行列にバイトの学生が多数参加していることをご存じだろうか。

筆者は1回生の夏に初めて祭礼バイトに参加した。勤務先は上京区の神社で、山車牽きが主な業務。休憩含め7時間の仕事に対して日当は8千円、軽食付きという待遇だった。

祭礼とバイトが脳内で結びつかない筆者は、しきたりも由緒も知らない余所者がお小遣い欲しさにのこのこ行ってよいものか、と謎の心配をしていたが、そんなことは百も承知なのだろう、氏子会の皆さんは雨の中歩いてきた筆者を暖かく迎え、おにぎりを振る舞い、衣装の着付けまでして下さった。見慣れない烏帽子姿の自分が鏡に映っている。

他大学からも大勢学生が来ており、境内は想像以上に賑やかだ。待ち時間には学生同士で専攻や趣味の話題に花が咲き退屈しない。お互い顔と名前を覚えたあたりで招集がかかり、行列が始まった。

優雅な装束でカモフラージュされているが、祭礼行列員は結構な肉体労働だ。かなり重い山車を、10人ほどの学生で牽いて回る。草鞋だけを履いた足は血が滲み、運動不足の身体に痛みが広がってくる。だが、行列が自動車にまじって勝手知ったる街中を進むのは面白く、道中の疲れを忘れさせてくれる。

8㌔ほど歩いて起点に帰ってきた。疲労よりも達成感が勝って周囲のテンションも心なしか高い。バイト代を貰ってお開きとなったが、学生同士の親睦は自然と深まっており、連絡先を交換したり、写真を撮ったりと名残を惜しむ一幕もあった。

京大では厚生課で募集があり、HPなどで確認できる。報酬は時給換算で千円前後。負担に対して安いと思われるのか、最近はなり手が少ないようだが、申し込みは厚生課窓口で学生証を出して署名するだけと、単発なのに驚くほど簡単なのが魅力だ。何より氏子会や保存会の方々、他大学の学生など、普段関わることのない人との交流は楽しい。

祭礼の性質上、募集は性別を限定することが多いが、古都ならではの貴重な体験として、条件があえば参加してみてはいかがだろうか。3月末時点で、厚生課では平野神社桜花祭、北野天満宮還幸祭、葵祭の行列員を募集中だ。(汐)



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<短期>製造業:パン工場時給:1050円

このバイトはもうお腹パンパン


無事に受験を終え、一人暮らしの資金源にしようと短期バイトを探した。シフトの融通が抜群に効くという理由でパン工場を選択した。応募後、何気なく口コミを見ていると「恐怖」「ヤバい」とか「この世の地獄」とか書かれていたのを見て血の気が引いたが後の祭り。そっとサイトを閉じて震えながら床についた。

初出勤の日、工場の奥に連れてこられる。任されたのは、流れてくるパンを永遠に拾い、箱に詰める「拾い」という仕事だ。25段、箱を積み上げると重たい台車を奥へやって同じ作業を繰り返す。箱を持ち上げるのに意外と力がいる上に、気を抜くとコンベアの先にパンが大量に積み上がる。おまけに、コンベアが低く腰も痛い。そうか、こんな重労働だからいつでも好きな日に働けたのか。気づくのが遅すぎたと心底後悔した。

慣れてしまえば、退屈な作業だ。暇を持て余すと、様々なことに思いを巡らせるほかない。筆者は、数学で習った「ベイズの定理」が頭をよぎった。これは、問題文の多くが「A工場では1㌫の確率で不良品が発生し…」から始まる確率の問題だ。機械が作業の多くを担うパン工場でも、意外と不良品が出る。具が飛び出したり、封をするときにパンを巻き込んでいるのがその一例だ。ただし、確率の問題とは違って現場では不良品が急に連続で流れてきたり、逆にピタリと止んだりする。実務と理論の間の隔たりを感じられるアカデミックなバイトだった。

気を紛らわすには、妄想の他に会話も有効だ。「部活は何をしてたの?」と1時間おきに聞いてくるおじさんに適当に相槌をうっていたら、何故か気に入られてしまったようで、ある日の退勤時、声をかけられた。「これもってけ!」おもむろに何かを投げてきた。今日、嫌というほど「拾った」パンではないか。「社員にバレたらいけないよ。足に隠して持って帰れ」。作業着のズボンと靴下の間にパンをはさみ、歩き出す。ご存知ないかもしれないが、パンはズボンとこすれると、シャカシャカと音がする。なんだか悪いことをしたような気分で帰路についた。(爽)



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<単発>販売業:飲食店時給:1400円

まんじゅうこわい


コロナ禍で1年間実家で過ごし、京都に引っ越した途端サークルと授業が本格的にスタート。定期のバイトを始めるタイミングを完全に逃した私は、空き時間に単発のバイトをしようといくつかの派遣会社に登録した。自分の予定に応じてやりたい内容の仕事を選べるのが利点だが、現場に行ってみたら予想外の作業を割り当てられ困ることもしばしばだ。

忘れないのは観光地の真っただ中にある某飲食店で働いたときのことである。時給1400円に釣られて行ってみると、更衣室で従業員のひとりが「昨日の勤務中スマホをポケットに入れてたら、1日で2万歩いってましたよ」と笑っていた。不穏な空気を感じる。軽い気持ちで飲食バイトに手を出したのが間違いだったかなと思いながら箸を並べていたら、「ちょっと」と手招きされた。「君にはね、まんじゅうを売ってもらうから」。洗い場、調理補助という文言が並ぶ勤務内容で明らかに異彩を放っていたまんじゅう売り。初勤務で任されるとは予想外である。

湯を沸かした蒸し器がふたつ、それに冷凍のまんじゅうを15個ずつ並べて火にかけ、観光客が行き交う通りに向かって売りさばく。食べたこともないまんじゅうの美味しさを力説しながら、である。なかなかに恥ずかしい。おまけに旅行客は列が長くなればなるほど期待を高め集まってくるから、忙しさは加速度的に増していく。飲まず食わず立ちっぱなしで働くこと7時間、身体は正直なもので翌日熱を出した。PCRは陰性だったものの受診料で3000円ほどの出費となり、何のために働いたのかよくわからない結果に終わった。

考えてみれば働き手が来ないから時給が高いわけで、楽な仕事を期待した自分が浅はかだっただけだ。行った先でどんな仕事を振られるかわからない、そんなスリルも嫌いではない。しかし単発バイトは短時間で仕事に慣れる必要があるし、空いた土日にバイトをねじ込むのも面倒で、仕事を習慣化するには収入の目標金額を設定するなど何かしら工夫がいる。自分の生活スタイルを鑑みて検討してみるのがいいだろう。(凡)



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<長期>事務:調剤薬局時給:990円

働く人との相性が重要


僕は、調剤薬局で事務として働いていた。仕事の内容は、大きく3つに分かれる。1つ目は、処方箋入力である。その際、処方箋の内容をパソコンに入力し、患者に渡す書類を出力する。2つ目は、患者が購入する薬を在庫から探し出す作業。3つ目は、薬の在庫を確認して、発注する作業である。ほかにも、薬局間での薬のやり取りもある。

調剤事務は覚えることが多い。特に、処方箋入力をする際に使うソフトの使い方を覚えるのは難しかった。また、医療系の仕事でミスをしてはならない上に、患者を待たせてはいけないため、要領よく動く必要がある。そのため、マイペースな自分の性格に合わず、なかなか思うように動けなかった。ただ、仕事が難しい分、やりがいは感じていた。

しかし、職場の人の言葉には精神的に疲れた。まだ働き始めたばかりの頃の話だ。閉店後に帰ろうと思ったところ、上司に引き止められた。そして、仕事観について数十分間説教めいた話を聞かされた。その間の給料は出ていない。

また、月数回しか働けない職場だったので、上達は遅くミスが重なることがあった。その際、上司に謝罪すると、「はいとかすみませんで世の中は回らないって」と責められた。説教中、言葉の返しに困ると「聞かれてるんやからさ」と問い詰められた。ある程度動けるようになり、詰められることはなくなったが、その人への苦手意識は抜けなかった。休みの日は外で薬の名前を聞くだけで職場を思い出して憂鬱な気分になった。結局は、周囲からの助言もあり辞めることにした。

初めてのアルバイトでいい思い出はできなかったが、尊敬できる人との出会いがあった。その人は仕事の覚えが速くて助かると僕を褒めたり、「私も3か月目で泣きましたから」と説教の後で落ち込んだ僕を慰めてくれたりした。辞める時は「次のバイトは絶対楽しいですよ」と背中を押してくれた。

どんなところにも苦手な人はいる。同時に自分を支えてくれる人もいる。そのことにあらためて気づけただけでもよかったのではないかと今は思う。(輝)



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<長期>実験補助:研究室時給:1000円

「欠点」突きつけられて


サークルに参加せず、だからといって勉強するわけでもなく無為に大学1回生を過ごしていた、去年の夏休み。とある研究室がアルバイトを募集しているというチラシを目にした。これだ、と感じた。入学して半年間、研究の魅力を説かれ続け興味を抱いていたこともあったが、なにより安逸をむさぼる生活とおさらばできるかも、そんな期待も抱いていた。面接を受けると大歓迎され「君に来てほしい」なんてことも言われ、実験助手として働き始めることになった。自分の欠点を突きつけられるとは知らずに。

メインの仕事内容は細胞のお世話だった。清潔な環境で頻繁に世話をしてあげないと、繊細な細胞はすぐに死んでしまうらしい。容器の蓋を開け、培養液を捨て、ピペットを交換し、新しい培養液を注ぎ、ピペットを捨てるという手順を頻繁に踏まねばならないのだが、この一つ一つに神経を尖らせる必要がある。細胞は繊細なのでこの作業をなるべく短時間で済ませなければならないのだが、周りがある程度慣れてスムーズにできるようになっても、明らかに自分だけ下手だった。手先が器用だという自負はあったのだ。かなりの時間が経ってから、焦るあまり一つ先の手順すら考えられていないことにはたと気づいた。やろうと思っていたはずなのに、メモもほとんど取っていなかった。掛け持ちしていたバイトもあり、研究室の先生にはかなりの迷惑をかけてしまった。だから、半年で契約を更新しない選択肢を取ったときに安堵を感じていた。これ以上「できないこと」と向き合いたくなかった。少なくとも今の自分は、この道を進むことはないだろうと思っている。

この1年でいくつかアルバイトを経験した。結果的に進路を狭めるような形で終わってしまったとはいえ、アルバイトを通して成長できたのはこの仕事だけだったと思う。たくさんお金をいただけるアルバイトも経験させてもらったが、どうも肩書きを振りかざしているような、罪悪感に似た感情がつきまとっていた。痛みを伴うくらいがちょうどいい、のかもしれない。(匡)


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