文化

紀行 多様な見方ある非日常 カタールひとり旅

2023.01.16

紀行 多様な見方ある非日常 カタールひとり旅

コスタリカ戦が行われた、アフメド・ビン・アリ・スタジアム

昨年11月、カタールに行った。人生初の海外渡航。目的はワールドカップ観戦だ。直行便も会場付近のホテルも高額だったため、海を挟んだ隣国UAEに泊まって試合の日だけ飛行機で往復する旅程を組んだ。状況しだいで言葉の意味合いや見える景色が様変わりする、そんな怒涛の数日を振り返る。(村)

アーユージャパニーズ?


ドイツ戦を現地で観た。後半に日本が攻勢を強めると、他国ファンも多かったスタジアムの空気が徐々に変わり、日本を後押しする声援に包まれた。歴史がつくられる瞬間だった。会場を後にしてもしばらくは、道行く人々に日本人かと問われて大金星を称えられ、夢見心地だった。

滞在先のドバイに戻り一夜明け、古い街並みが保存された地区を散策した。露店の店員が話しかけてくる。「アーユージャパニーズ?」。熱戦の余韻はドバイにも。そう思って「イエス」と答えると、「ギフトフォーユー」と品物を見せられた。その後いろいろあってストールを3万円で買わされた。何度断っても言葉を返され、うしろには香水屋や宝石屋も待ち構えていた。一枚買って走り去るのがやっとだった。

高い勉強代だな……肩を落としてホテルへ戻る。なにげなくレシートを確認すると、血の気が引いた。23万円が決済されていたのだ。現金を拒否されてカードで支払ったうえに、電卓の画面しか見ていなかった。やばい。ストールとレシートを握りしめ、慌ててホテルを飛び出す。夜道を走り店へ着くと、あの店員はいない。別の店員に「明日の16時に来て彼と話せ」と言われ、渋々引き返した。

どん底の眺望


翌日の昼、もともと予約していた世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」の展望台に行った。数十階建てのビル群を見下ろす景色は壮観。これぞドバイ……いや、それどころではない。最高の展望台で気分はどん底。うわの空で約束の時間を待った。

返金はできない。やっと会えた例の店員はキッパリ言った。それでも粘った。ポリスオッケー?キャンセルノー!お互いカタコトの英語で散々言い合った結果、現金で16万円返してもらった。それ以上は無理だった。最終的に親分らしき店員が現れ、「ディスイズドバイ」と言って私をなぐさめ、追加でストール3枚とラクダのぬいぐるみをくれた。安堵と疲労を携えてコスタリカ戦の会場へ飛び、旅を終えた。

ラクダのぬいぐるみとストール



次は4年後?


帰国後もサッカー熱を感じた。普段試合を見ない人とも一緒に楽しめた。一方、印象的だったのは、日本の敗退が決まったクロアチア戦後、テレビの街頭インタビューでのとあるファンの一言だ。「感動をありがとう、4年後また応援します!」。ある意味で日本におけるサッカーの立ち位置を象徴している。海外のリーグはすでに再開し、Jリーグは来月に開幕。新生森保ジャパンの初陣は3月だ。4年後と言わずぜひ観戦へ。おすすめは京都・亀岡にあるサンガスタジアムで……と書き進めたいところだが、やはり買い物トラブルの話のほうが興味を持ってもらえるだろう、という現時点での諦めが、この原稿の字数配分に反映されてしまった。

地上456㍍からの眺め(もっと「高い」展望台もある)。ひらけた砂地と高層ビルが共存する