企画

身近な「チャリ」を掘り下げる 〈調査〉京都大学の自転車利用

2023.01.16

京大周辺には、日頃から多くの自転車が行き交う。大学近くに住む下宿生が多い上に、キャンパスが広く、自転車が移動に便利なのだ。我々の日常生活の名脇役とも言える自転車に、今回はスポットを当てたい。京都大学における自転車利用の過去から今を見通しながら、これからの自転車との関わり方を考える。(桃)

目次

① 自転車利用の現状
② 京大新聞から振りかえる自転車利用のこれまで
③ 京大生の事故体験談

① 自転車利用の現状


区間/時間帯ごとの駐輪状況


本紙が大学に取材したところ、近年の京大において該当するデータを計測していないとの回答を得た。今回は編集員が、①附属図書館前、②北西門入り口、③ルネ前、④共北下の4か所について、自転車の駐輪台数が多い時間帯と少ない時間帯の2回、自転車の台数を数えた。計測する時間帯は、京大が2011年に実施した時間帯ごとの駐輪台数の変化の数値を目安にしている。結果は以下の通りになった。

①15時半:338台、23時:127台

②8時:233台、16時:259台

③9時半:129台、18時半:213台

④16時:154台、21時:68台

附属図書館前と共北下は、夜間に駐輪台数が大幅に減っており、これは施設の利用者が昼間に多く駐輪しているためと推測できる。また、ルネについても、営業開始前と比べ夕食の時間帯に駐輪台数が増加していることから、ルネで食事をとるために駐輪場を利用する人が多いと考えられる。他方、百万遍に近い北西門は、昼夜の駐輪台数がほとんど変化していない。一目見て、石垣の上に横倒しになった自転車が多く見られることからも、放置自転車が多い区域なのではないかと推測される。

中でも附属図書館周辺は、スチール製のラックが設置されており、駐輪可能台数が決まっている。左表から、日中の法経本館西側面では収容台数を超える数の自転車が止められていることが分かる。

【図】附属図書館付近の駐輪場


【表】図の駐輪場(A)・(B)における、時間帯ごとの駐輪状況
(※割合:「合計台数」÷「駐輪可能台数」×100)



共北下の駐輪場の様子(16時撮影)


共北下の駐輪場の様子(21時撮影)



交通環境を守るために


①大学の取り組み

大学構内の交通環境改善のため、京大は、放置自転車の撤去や警備会社への交通整理業務の委託、学生意見箱の設置などを行なっている。

京大によると、吉田地区の各構内では、ほぼ毎年放置自転車を特定し、撤去作業を実施している。2021年度の京都大学全構内(桂、宇治、犬山、熊取地区含む)の撤去台数は2272台だという。

本部構内で交通整理を行う業務員は、京大が警備会社に委託している。雇用形態について尋ねる本紙の取材には、2000年度の契約実績までは確認できるものの、それ以前から配備されている可能性もあり、詳細は不明と回答した。雇用に至った契機も不明だという。

また、学生生活に関する意見や要望を幅広くメールで募集する学生意見箱を設置し、自転車の利用や放置自転車の撤去に関する内容にも回答している。これまでに意見箱の意見を反映した例として、22年に、「法経本館第四、十一教室前で、駐輪スペースを超過して出入り口付近に多くの自転車が駐輪される」との指摘を受け、歩行者が通行する動線に駐輪しないよう、駐輪禁止バリカーを多数配置したケースがある。

法経本館前に設置されたバリカー



上記に加えて、京大学生便覧「Campus Life Information」、京大の広報誌「Campus Life News」や大学公式Twitterに、自転車運転マナーや自転車保険についての記事を掲載するほか、新入生ガイダンスにおいても注意喚起を行なっている。

②「大学協議会」の活動

「京都府大学安全・安心推進協議会」は、京都府警と府内全45大学・短大が連携し、学生の関わる犯罪への対策を話し合う組織で、2013年9月に設立された。設置の背景には、京都府で、被害・加害ともに大学生が犯罪に関わるケースが多い状況がある。

評議会は、「防犯対策」「交通安全対策」の専門委員会を設けて、各大学の課題を共有し対策を検討する。本紙の取材に対し、具体的な取り組みとして▼「京都キャンパス安全・安心通信」による周知▼自転車ロックを促す路面シートの設置▼防犯対策のチラシの配布などを挙げた。また、取り組みの成果として、京都府における刑法違反の認知件数は05年以降減少しているとした。

他方コロナなどの影響で、専門委員会が開かれない年もあるという。各大学との調整の場は定期的に保たれているとするも、22年度に協議が持たれた回数は不明と回答している。

正門前で聞いた


平日の昼間、京大の正門を訪れると、正門前に1名と吉田南入り口に1名、出入りする歩行者や自転車を見守る人がいた。聞けば正門前は警備関係、総人広場入り口で白い帽子を被っているのは自転車の入構整理を担当する人だという。両者は共に京大から委託された異なる警備会社に所属している。入構整理の担当者は普段、正門前と吉田南入り口に1名ずつ、12時から13時15分/14時半から15時/16時から17時の3つの時間帯に交代で立つほか、構内の自転車整理も行っている。一方、警備の担当者は交通整理には一切関与していないという。

警備担当のAさんは「正門前に立っていて、しばしば危ない運転を見かけます」と話す。音楽を聴きながら、携帯を持ちながら、傘をさしながらなど、ながら運転が特に危ない。今のところ車とぶつかるような大きな事故は見たことがないが、よく事故が起きずに済んでいると思うほど、自転車の利用マナーはよくない。

総人広場へつながる吉田南の入り口は、歩行者は出入り両方が可能な一方、自転車は出ていくのみの一方通行となっている。この理由について、Aさんは「常に一方通行を習慣づけることで、人通りの多い時間帯に事故が起きることを防いでいる」と答えた。正門前は左側通行で人が流れるようになっており、普段からそれを意識するように一方通行をとっているのだという。

また、Aさんは「本部と吉田南を行き来する京大生が、本来は公道である東一条通を敷地の一部のように使っている」と感じている。入構整理を担当するBさんも、スピードを出して吉田南構内から出てそのまま道路を渡ろうとする人がいるために、子供や老人が通りを歩く時は恐怖を感じると話した。自転車が密集して行き交う上に、一般の歩行者も横切る正門前は、特に注意深い自転車利用が求められている。

総人広場入り口に立つ入構整理の担当者



目次へ戻る

②京大新聞から振りかえる自転車利用のこれまで


2011–12 交通規制改革


2011年9月、学内での交通事故や自転車が通路に溢れるなどの問題改善を目的として、京大が交通規制構想「本部構内の交通安全の確保(案)」を進めていることがわかった。同構想では、「歩行者が安心して歩けるキャンパスをつくる」ことを主眼とし、その措置の一環として自転車など二輪車の駐輪状況改善と、自動車駐車の抑制が掲げられた。自転車については、本部構内の駐輪数約6700台のうち正規駐輪場以外での路上駐輪が3千台近くを占め、附属図書館前などで自転車が駐輪エリアから通路まで溢れる過密状態となっていた。これを解消するため、路上駐輪されているエリアや駐車場の一部を駐輪場に転換することで、約2500台分のキャパシティを増設する計画だった。加えて、大学構成員全体に入構・駐輪許可シールを無償で配布する。学内者と学外者を識別できるようにし、シールがついていない車両は撤去するとした。他にも、時計台裏から法経本館までの区域の駐輪禁止化、自動車の駐車有料化、カーゲート設置などの内容が提示された。同構想は、11年5月、約10年ぶりに開かれた「本部・総合人間学部構内交通問題部局会議」において、立案に至った。

同年9月、吉田キャンパス本部構内の交通規制構想について、環境安全保健機構の担当職員による学生向け説明会が行われた。出席者の学生からは「駐輪許可証の発行は学外者に非常に不利益をもたらす」「管理体制強化ではないか」など構想への批判やその目的への疑問、構想撤回を求める意見が出された。

11月には、教職員に向けた説明会も開催された。しかし配布された資料では、それまでの意見照会で学生から出た意見の一部に対し、具体的な回答が明示されなかった。5月時点での決定からの変更は、時計台裏から法経本館までの区域の駐輪禁止化を撤回した点や、自転車入構登録証の発行開始を11月から年度内に先送りした点。入構許可証の発行自体は見直されなかった。

12月、学生向けの2度目の説明会が開かれ、主催の環境安全保健機構は、本部構内の駐輪場の新設・再配置などについて理解を求めた。しかし、機構側のこれまでの取り組みや対応に対し学生から批判の声が上がり、大嶌幸一郎・同機構長は計画案に関して、今ある案を無かったものとし、学生・教職員など当事者と話し合って計画を立てていくことを口頭で約束した。自転車の入構登録制については、質疑の前に機構側が「議論見送り」とした。

最終的に、12年7月に実施された「副学長による情報公開連絡会」において、吉田キャンパス本部構内での駐輪・駐車場の整備が開始されたことが明らかになった。前年12月の学生向け説明会で計画が白紙になったのち、環境安全保健機構は、12年1月から2月にかけて「本部構内交通安全アンケート」を行い、その結果と対策について資料を公開していた。公開された「本部構内交通安全対策」の内容は、主に駐輪場増設と自動車入構制限の2点。総合研究2号館中庭や附属図書館北、法経済学部棟北館西などに駐輪場を増設した。また、自転車の往来や路上駐輪が特に多い附属図書館付近や文学部新館・東館北の道路にスチール製のサイクルラックを設けた。既存のブロック製ラックは構内の別の駐輪場に移設された。なお、12月に「議論見送り」としていた自転車登録制度は、実施を取りやめた。

現在、京大構内の交通を担当する部署は、環境安全保健機構からプロパティ運用課キャンパス安全掛に移行している。担当者に、改革当初からの交通状況の変化について尋ねると、当時のことを実際に見ているわけではないとした上で、「不法駐車もあった以前と比べ、車の入構状況は改善されている」と回答した。

参照:本紙2011年9月16日/11年10月1日/11年12月1日/12年1月16日/12年8月1日号

2014-19 シェアサイクル導入から中止へ


2013年12月、「副学長による情報公開連絡会」にて、リレーションズ株式会社(東京都渋谷区)が提供する自転車シェアサービス「COGOO」(コグー)の実験導入が決定した。施設部による構内自転車数の削減計画の一環で、14年2月から6月まで実施された。京都大学の学生・教職員が会員登録すれば、一回につき30分から1時間のあいだ無料で自転車を借りることができる。吉田キャンパスに7ヵ所の駐輪場を設け、28台の自転車を配備した。

14年6月には、貸し出される自転車が17台追加された。実験導入の期間を経て、6月22日時点での利用登録者は796人、述べ3482回利用されていた。施設部によると、増台は、導入台数の少なさから一日の利用回数が頭打ちになっており、利用者から「借りたいときに借りられない」との声がアンケートで多く寄せられたのを受けてのこと。

同年10月からコグーの本格的な導入が始まった。実験導入を分析した結果、構内の自転車数削減に効果があると判断された。8月31日までに1162人が登録し、延べ6369回利用されていた。実験導入の時点では利用者の満足度が非常に高く、寄せられる不満の多くも自転車数や駐輪場の不足が主だった。これを受けて、本格導入ではそれまでの倍以上となる100台に増台し、駐輪場も新たに計3ヵ所増設した。また、利用時間は変わらず1時間であるが、2時間以上借り続けると1週間貸し出しが禁止される措置が新たに設けられた。

しかし15年10月、機器の不具合などによりコグーがサービスを停止した。累計2731人が登録し、延べ2万回利用されていた。夏季休暇中は自転車のメンテナンスのためサービスを一時停止しており、その中で機器の不具合が判明した。また、返却処理が行われず行方不明になる自転車が多いという問題もあった。9月にはコグーの利用を吉田キャンパス周辺に限定する通知を出したが、GPSなど位置を特定する機器が搭載されていないこともあり、実効性が無かったという。

17年3月、休止していたコグーがサービスを再開した。新たに自転車にGPS機能を取り付けて自転車の持ち逃げや私物化への対策を強化したほか、専用のアプリから会員登録することが必要になった。

しかし、19年9月に、コグーは再度運用を中止した。中止に至った原因について京大は、本紙の取材に「自転車が指定された場所に返却されない、利用時間を大幅に超過して使用されるなどにより、利用したい時に利用できない問題が度々生じたことから、十分なサービスの提供を見込めないという判断に至った」と回答している。23年1月現在、シェアサイクルの再開は予定していないという。

参照:本紙2014年1月16日/14年7月1日/14年10月1日/15年11月16日/17年4月1日号

目次へ戻る

③ 京大生の事故体験談


Cさん(京大2回生)は、当時1回生だった2021年5月、元田中駅付近の路地で自転車事故にあった。

――どのような事故でしたか

部活の帰り道、交差点を西に進んでいた時に、南に進む車とぶつかりました。「止まれ」の表示がない場所で、結構飛ばしていたと思います。十字路の曲がり角で少し見通しが悪く、車が来ているのが見えた時には突っ込んでいました。相手は事故後に、事故時のスピードは10キロくらいだったと言っていましたが、体感ではもう少し速かったです。お互い、自分が先にいけると思った感じで。ぶつかる直前にダメだと思ってギュッとブレーキを踏みましたが、止まり切れずにバーンとはねられました。

――怪我の状態はどうでしたか

自転車ごと跳ね飛ばされて頭を打ち、何が何だか分からなくてうずくまっていたら、周りにいた人が声をかけてくれました。痛みと驚きで動けそうになかったので、救急車と警察を呼んでもらい、京大病院に搬送されました。幸いにも大きな怪我はなく、初めこそ担架で運ばれましたが、頭の検査を受ける時には自分の足で歩いていたと思います。それくらいに意識ははっきりしていたし、大きな怪我もなく動ける状態でした。検査でも脳に異常はなく、ただ、しばらくはおでこや目のあたりがあざになっていました。

――保険請求などの事故対応について教えてください

病院で領収書をもらった時に「保険に入っていたら申請して」と言われました。自分は保険について何も分からなかったので、とりあえず両親に連絡しました。結局、両親が相手と話して対応してくれることになり、全部任せることにしました。事故後に自分で動いたのは、警察から相手の連絡先と事故の状況を教えてもらって、それを両親に伝えたことと、警察署に出向いて、相手の運転手に交通違反のペナルティを課すかどうかを決めたことなどです。

――事故防止のために必要なことは

何より交通ルールを知って守ることだと思います。自転車に乗るのには何の免許もいらないので、交通法をわかっておらず、止まらなければいけない場所や、左方優先・左側通行などを意識していない人が多いと感じます。反対に車を運転する側も、自転車はほぼ無知のものだと思ってよく注意するべきです。


目次へ戻る