文化

日々の暮らし方 第5回 正しい暴漢との闘い方 〜命あっての正しい人生〜

2008.12.03

暴漢といっても様々な形態がある。演習室で発表している我々を言葉の暴力でもって再起不能にせしめる者や、一部の事務室にいると聞く事務的質問に行った我々を不親切という武器を持って虫けらのごとく踏みにじる者、今回取り扱うのは狭義の暴漢、人気のない夜道などで腕力を用いて我々を脅かす人間である。

不快感を与えないために先に断っておくが、身体能力に極めて自信があり、ナイフを持った暴漢の2人や3人は素手で軽く返り討ちにできるという方、あなたは私の読者ではない。せっかく大学に来ているというのにそんな体を鍛えてどうするのか。大学とはむしろそういう面において堕落するための場所である。

この流れでわかることだとは思うが、逃げるというのも当然間違っている。正しい学生生活を送っていれば、たとえ相手が徒歩一人で、自分が自転車に乗っていたとしても、逃げきれはしないものだからである。正しい学生生活を実践する私が実際に逃げ切れなかったのだから間違いはない。

やはり学生と生まれたからには(注)、自らの学問的知識を駆使し、弁論をもって立ち向かわなくてはいけない。以下学部別に例をあげていきたい。

【法学部】



「待ちたまへ。我々は社会契約によって権利を保障された市民社会の一員だ!すなわち、我々は互いに不当な圧力を与えないことによって社会の秩序を維持しているのだ。つまり、君が今、正当な理由なく私に危害を加えようというのなら、私は自分の権利を守るために刑法37条正当防衛の規定に従って君の身体的自由を奪わざるを得ない」

「また、君は私の権利を侵害するわけだから民法709条に従って損害賠償を請求する。市民社会は身体を含む私有財産の補償を要としているからだ!あっ、君が私有財産を認めないというなら別だけど…。え?認めない?マジで?」

【経済学部】



「私を襲うインセンティブは何だ!金なら2135円しか持っていないぞ!統計上、学内の強盗事件の30%は犯人が捕まり刑を受けている。強盗罪で捕まった場合の損失をすべて金銭に換算して期待値を計算すると2135円をはるかに超えているぞ!それでもお前は私から金を奪うのか!」

「え?それでも奪う?ちょっと待って、私の言ってることわかりませんでしたか?それとも強盗行為自体にあなたはなんらかの楽しみを見出すのですか。犯罪行為のスリルも効用のうち?いや~あなたは実に興味深い。少しお話を伺いたいなあ。どうです?ここは寒いですしあの建物にでも入れてもらって少しお話を伺いたいのですが。え、あれは警備員控室じゃないかって?そんな馬鹿な。すいませんすいませんすいません」

【理学部】



「待て、君のその生存戦略はおよそタカ派に属するもので、それはすなわち思考の放棄というものだ!われわれ人間は相互コミュニケーションを密に行うことができ、さらには法の下に平等であるところの社会性生物なんだ。私とろくに話もせずにタカ派戦略を決め込もうなんて、万物の霊長であるという自覚はないのかね、君。今からでも遅くない、最適状態を二人で模索しようじゃないか!」

「…あくまで私を淘汰する気なのだな?わかった、覚悟を決めよう。しかし、淘汰される前にひとつだけ頼みがある。やはり私は自分の遺伝子を後世に残したい。別に、自分が利己的遺伝子の乗り物だなんて認めるつもりはないが、生物学を学ぶ者として、何より生物として、ここは譲れない部分なんだ。君の目的はあくまで金であって、私という表現型群の抹殺ではないはずだろう?少しそこで待っていてくれ、今から精子バンクに連絡を試みる。大丈夫だ!武器になるようなものはもってない、携帯電話を取り出すだけだ。…カチ、カチ、カチ…トゥルルルル…あ、もしもし。警察ですか」

これらを参考に、自らの専門知識を用いて、自分なりの闘い方を考えてほしい。

京都大学日々の暮らし方研究会・編


注: 生まれたときから学生だったわけではないかもしれない。だが我々が学生として、成人の身体  で18年そこら分の記憶と共に生まれてきた可能性も決して否定できない。

※※編集部注:本コラムは「京都大学日々の暮らしを考える会」の編集によるものであり、真偽のほどは保証できません。